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灰銀の戦乙女は、制服を知らない  作者: 最後に残った形


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第12章 第14話:三点印の本体


 王の鐘の奥に、黒い核があった。


 それは、人ではなかった。


 獣でも、封印具でも、鐘そのものでもない。


 三つの点が、互いに距離を保ちながら黒く脈打っている。


 その周囲に、無数の紙片が絡みついていた。


 承認欄が空白のまま残された書類。


 確認者名のない移送票。


 見た者の名が削られた現認記録。


 誰かが確認したはず、とだけ書かれた報告書。


 臨時。


 仮。


 保留。


 整理後確認。


 外部照会不要。


 本人意思確認済。


 その文字が、紙片から滲み出し、黒い蔦になって三点印を形作っている。


 王宮深部封印区画。


 王の鐘の中核。


 三点印の本体。


 リゼ・グレイスは、深部外縁門の前でそれを見た。


 門はまだ開かない。


 だが、白鐘本来手順によって黒蔦層が剥がれ、王の鐘の内部反応が深く投影されている。


 三本の記録柱が露出していた。


 戦後処理未整理記録。


 白鐘接続記録。


 臨時調整室仮保護記録。


 その中央で、三点印が息をしている。


 息をしているように見える。


 だが、そこに肺はない。


 心臓もない。


 名前もない。


 ただ、責任の空白だけが、積み重なって動いている。


 ミリア・ファルネーゼが、記録板を抱えたまま息を呑んだ。


「これが……」


 クラウス・ヴァイゼルが測定具を見て、声を低くした。


「生命反応ではありません。記録反応、封印反応、黒蔦反応が複合しています。人間一人の反応ではない」


 オルド・ハイマンの顔色は蒼白だった。


 彼は三点印を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。


 彼の目の中にあるのは、恐怖だけではない。


 認識だった。


 自分が知っているものに、初めて正面から会った者の顔だった。


 カイ・ロックハートが、眉を寄せる。


「何なんだよ、あれ。室長じゃないのか」


 門の奥から、あの声が響いた。


「臨時調整室長、在室」


 同じ言葉。


 同じ肩書き。


 だが、今はその声が三点印の核から聞こえていることがわかる。


 人の喉から出る声ではない。


 無数の文書が同じ語を発しているような声。


 リゼは言った。


「氏名を確認します」


 黒い核が脈打つ。


「名は不要です」


 ミリアが記録する。


 臨時調整室長、三点印中核より応答。


 氏名確認を拒否。


 名は不要と発言。


 ユリウス・エインズワースが文書を構える。


「不要ではありません。王宮公文書において、命令発出者名、承認者名、現認者名は責任所在の確認に必要です」


 黒い核が、低く唸るように応じた。


「臨時処理においては、部署承認で足ります」


 ナイル・ヴァートが前へ出る。


「王宮本会議補佐官ナイル・ヴァートとして否認します。深部封印区画、王の鐘、王宮本会議印の空欄について、部署名のみの代理承認を認めません」


 黒い紙片の一枚が震えた。


 王宮本会議印欄。


 空白。


 三点印代替。


 その紙片に、白いひびが入る。


 レアナ・フィスが続いた。


「封印管理室副管理官レアナ・フィスとして否認します。封印管理室長印の空欄を、臨時調整室三点印で代替することを認めません。白鐘層と王の鐘の接続操作は、封印管理室未承認です」


 別の紙片が震える。


 封印管理室長印欄。


 空白。


 三点印代替。


 ひびが走る。


 オルドは、まだ黙っていた。


 ミリアが彼を見た。


 問いかけるのではなく、待つ。


 オルドはゆっくり息を吸った。


「監察局補助室上席監察官、オルド・ハイマンとして否認します」


 声は掠れていた。


 だが、逃げていない。


「私は、深部移送を承認していません。アルト・レインフォードさんを銀環反応対象として保管し、王の鐘へ接続する処理を承認していません。私の署名が使われた封印札、移送票、保護処理票について、本人確認なきものは偽署名または不当転用として異議を申し立てます」


 黒い核が強く脈打った。


 オルドの過去の署名。


 分類語。


 監察局補助室。


 空白ではなく、名を持つ人間が責任を引き受けたことで、紙片が一斉に震える。


 室長の声が低くなった。


「あなたは分類に関与しました」


 オルドは目を伏せなかった。


「はい」


 その一語で、周囲の空気が重くなる。


「私は分類に関与しました。銀環反応対象、旧血統関係者、灰銀戦時戦力、保護管理対象。そうした語を使ってきました。臨時調整室の空白を、分類語で補強しました」


 カイが黙って見ている。


 リゼも黙っている。


 ミリアは記録する。


 オルドは続けた。


「ですが、その過去は、現在この処理を承認する理由にはなりません。私は、分類語を使ってきた責任を否認しません。そのうえで、アルトさんを保管対象とすること、リゼさんを灰銀戦時戦力として再使用すること、エリアナさんの血を鍵にすること、学園の関係を危険源として扱うことに異議を申し立てます」


 三点印の核に、ひびが走った。


 大きくはない。


 だが、確かに。


 室長の声が冷たく響く。


「過去の関与者による異議は、自己保全の可能性があります」


 オルドは頷いた。


「あります」


 その返答に、黒い核が一瞬止まる。


「だから、私一人の証言では足りません。現認者を重ねます。責任を、空白に戻しません」


 ミリアが小さく息を吸う。


 オルドは、青い学園線と王宮側の連絡線を見た。


「北棟、応答できますか」


 ミリアが青印を繋ぐ。


 少し遅れて、セイル・ハルトの声が入った。


「王宮封印管理兵、セイル・ハルト。現在地、旧封印管理倉庫群北棟。応答します」


 オルドが言う。


「セイルさん。あなたが現認した事実を、名前で述べてください」


 セイルの声は緊張していた。


 だが、逃げない。


「セイル・ハルトとして現認します。第二保管層扉において、アルト・レインフォードさんと思われる銀色反応、“なまえ”“さむい”“ひとりではない”“きこえてる”等を確認しました。王宮側記録には外部確認不要とありましたが、本人反応は存在しました。本人意思確認済みとは認められません」


 黒い紙片が震える。


 外部確認不要。


 本人意思確認済。


 そこへ、セイル・ハルトという名が刻まれる。


 紙片が割れた。


 カイが小さく言った。


「セイルさん……」


 ミリアが記録する。


 中央塔からも声が入った。


「王宮中央記録局警備隊第三班、ガレン・トール。現在地、中央塔外部制御室前。応答します」


 ミリアが頷く。


「お願いします」


「ガレン・トールとして現認します。中央記録鐘の使用許可記録は提示されませんでした。中央記録局職員を名乗る者は氏名を提示せず、リゼ・グレイスさんを灰銀戦時戦力として確保しようとしました。命令発出者名なし。三点印あり。私は、未承認命令による拘束実行に同意しません」


 次に、メイナ。


「メイナ・ロッサとして現認します。中央記録鐘停止後、複数の命令文に未承認、本人確認なし、現場異議ありの取消表示を確認しました」


 ベルク。


「ベルク・ハウエルとして現認します。使用許可記録未提示のまま、中央塔外部制御室が使用されていました」


 黒い核が、またひび割れる。


 氏名が増えるたび、三点印の紙片が一つずつ空白でいられなくなる。


 室長の声は、低く、硬くなった。


「現場兵の判断は、上位記録に従属します」


 ガレンの声が返った。


「上位記録が名乗らないなら、従属先を確認できません」


 カイが思わず言う。


「いいぞ、ガレンさん」


 ミリアが記録しながら、少しだけ頷いた。


 学園線から、エレオノーラの声が届く。


「王立学園記録室、エレオノーラ・ヴィンスフェルト。学園内記録網より現認記録を提出します。臨時保護令未承認表示、関係維持者危険分類、学園危険源分類、本人確認札への黒い干渉。すべて記録しています」


 学園長の声も入る。


「王立学園長として確認します。本校は、アルト・レインフォード君の本人意思を直接確認しないままの保護移送を認めていません。生徒および関係者を分類語で拘束する命令も認めていません」


 三点印の周囲の紙片がざわめく。


 王宮側。


 学園側。


 現場兵。


 封印管理室。


 監察局。


 名前が増えすぎている。


 空白が、空白でいられない。


 リゼは、それを見た。


 黒い核が脈打つたび、無数の紙片の隙間から声が漏れる。


 誰かが確認したはず。


 誰かが承認したはず。


 誰かが後で整理するはず。


 誰かが責任を取るはず。


 その「誰か」が、形を持たないまま王の鐘に巣食っている。


 ミリアが静かに言った。


「空白は、誰かではありません」


 黒い核が震えた。


 ミリアは記録板を掲げる。


「ミリア・ファルネーゼとして記録します。誰かが確認したはず、という記録は本人確認ではありません。誰かが承認したはず、という空白は承認ではありません。誰かが後で整理するはず、という処理は現在の同意ではありません」


 白鐘文字が光る。


 名を鍵にするな。


 その下に、また一行。


 名は、責任を戻すためにも呼ぶ。


 エリアナが息を呑む。


「白鐘が……」


 リゼは頷く。


「確認しました」


 室長の声が、鋭くなる。


「名前は処理を遅らせます」


 ミリアは答えた。


「遅らせます。だから、人を消さずに済みます」


 カイが頷く。


「遅くていい」


 リゼも言う。


「効率的に消す処理を拒否します」


 黒い核の周囲に、別の紙片が浮かんだ。


 アルト・レインフォード。


 王宮保護移送、正式完了。


 本人意思確認済。


 外部照会不要。


 王の鐘接続準備。


 孤独音候補。


 その紙片は、他よりも黒かった。


 アルト本人の言葉を、最も強く上書きしてきた紙。


 リゼはその紙片を見た。


 胸の奥が冷える。


 カイが一歩前に出ようとする。


 ロウ教師が肩を押さえた。


「言葉で行け」


 カイは頷いた。


 大きく息を吸い、声を整える。


「カイ・ロックハートとして言います。アルトは、移送に同意してない。保管にも同意してない。王の鐘にもなりたくないって言った。アルトとして帰りたいって言った。俺は聞いた」


 黒い紙片が震える。


 ミリアが記録する。


 カイは続けた。


「俺は外部声刺激じゃない。友達です。友達として、アルトの名前を呼びます。鍵にするためじゃない。帰るために」


 アルトの銀色が、深部で微かに揺れた。


 文字が浮かぶ。


 カイ。


 カイは顔をくしゃくしゃにした。


「おう。いるぞ」


 室長の声が冷たく響く。


「友人関係は、判断を曇らせます」


 カイが即答する。


「曇っても、聞く。紙だけで決めるよりましだ」


 ミリアが少しだけ笑いそうになり、すぐ記録した。


 エリアナが一歩前へ出た。


「エリアナ・ルクス・ヴェルグラントとして言います。私は旧ヴェルグラント血統関係者という分類のみで扱われることを拒否します。私の血を鍵にすることを拒否します。白鐘の言葉を、王宮の所有物として独占解釈することを拒否します」


 白鐘文字が光る。


 王の血で扉を叩くな。


 王の血ではなく、帰る声を聞け。


 エリアナは続ける。


「私は知る範囲を話します。知らないことは断定しません。けれど、知っていることを血統分類で消されることには同意しません」


 黒い紙片。


 旧ヴェルグラント血統関係者。


 偏向可能性。


 隔離対象。


 それにひびが入る。


 クラウスが続く。


「クラウス・ヴァイゼルとして測定結果を述べます。アルト君の銀環反応は、王の鐘への同意を示すものではありません。カイ君の名前呼称、リゼさんの本人確認、ミリアさんの記録、エリアナさんの香草と声、学園記録線により、銀環は安定方向へ変化しました。孤立、冷却、黒布による反応は、強制的な環境下の反応です」


 黒い紙片。


 反応適性。


 王鐘接続可能。


 そこへ測定者名が刻まれる。


 ひびが広がる。


 ユリウスが文書を掲げる。


「ユリウス・エインズワースとして法的異議を述べます。本人意思確認済と記載されたすべての文書に対し、本人発声および銀色文字による不同意・帰還意思が優先されます。本人意思を後整理で同意化することを拒否します」


 紙片が割れる。


 本人意思確認済。


 後整理。


 保護下整理。


 その文字が薄くなる。


 リゼは、最後に一歩前へ出た。


 黒い三点印の核が、彼女へ向く。


 灰銀戦時戦力。


 王宮剣。


 外装確認補助。


 灰銀一七。


 リゼの周囲に、また黒い分類語が浮かぶ。


 だが、アルトの銀色が深部で静かに光っている。


 リゼは、リゼ。


 リゼは言った。


「リゼ・グレイスとして述べます」


 ミリアが記録板を向ける。


「私は戦場にいました。灰銀一七として記録されました。王宮戦時搬送に関わりました。その事実を否認しません」


 黒い核がわずかに膨らむ。


 リゼは続ける。


「ですが、その記録は、現在の私がアルトさんを王の鐘へ接続することに同意した記録ではありません。灰銀戦時戦力として再使用されることにも同意しません。私の記録を開門具、接続補助、王宮剣として使うことを拒否します」


 黒い分類語が揺れる。


「アルトさんは、アルトとして帰りたいと伝えました。私は、その本人意思を確認しました。私は、灰銀ではなく、王宮の剣ではなく、リゼ・グレイスとして、アルトさんを迎えに行きます」


 白鐘文字が強く光った。


 黒い核に、大きなひびが走る。


 室長の声が、低く、複数の声を重ねたように歪んだ。


「名前が多すぎます」


 ミリアが言った。


「ええ。空白を埋めるには必要です」


「責任が分散します」


 オルドが答える。


「責任を消すためではなく、戻すために分散します」


「王宮は処理できません」


 リゼは言った。


「処理できないなら、確認してください」


 黒い核が激しく脈打った。


 その中から、紙片が一枚浮かび上がる。


 臨時調整室長、承認。


 室長名欄。


 空白。


 その空白の上に、三点印。


 全員が、その紙を見た。


 リゼは言った。


「臨時調整室長の氏名を確認します」


 室長の声。


「名は不要です」


 ミリア。


「不要ではありません」


 ユリウス。


「命令発出者名を確認します」


 ナイル。


「本会議にも、現在の臨時調整室長任命記録はありません」


 レアナ。


「封印管理室にも権限委譲記録はありません」


 オルド。


「監察局にも確認記録はありません」


 エレオノーラ。


「学園記録線にも氏名なし」


 カイ。


「名乗れよ」


 エリアナ。


「名乗らない声に、人の名を奪う権利はありません」


 白鐘文字が光る。


 名は、責任を戻すためにも呼ぶ。


 黒い核が震えた。


 そして、初めて、三点印の奥から複数の紙の声が漏れた。


 室長は前任から引継ぎ。


 前任名、整理中。


 任命記録、戦後処理期。


 確認者、後日補記。


 後日補記、未了。


 未了。


 未了。


 未了。


 オルドが低く言った。


「……やはり」


 リゼが問う。


「個人ではないのですか」


 クラウスが測定具を見て答える。


「少なくとも、現在見えている核は、個人の名前を失った権限集合です。名乗らなかった者、記録しなかった者、後で確認するとした者たちの空白が束ねられている」


 ミリアが言う。


「名前のない室長」


 ユリウスが苦い声で続ける。


「責任のない承認」


 オルドが拳を握った。


「それを、私たちが作った」


 室長の声が響く。


「王宮が必要としました」


 オルドは答えた。


「違います。王宮の誰かが、必要だと言いながら、名前を置かなかった。その積み重ねです」


 黒い核が歪む。


「空白は、処理を続けるために必要でした」


 ミリアが言う。


「空白で人を運ばないでください」


「空白でなければ、多くの処理が止まります」


 リゼは答えた。


「止めて確認してください」


 カイが言う。


「止まって困るより、人が消える方がだめだろ」


 白鐘文字が光る。


 開くな。


 外せ。


 名は、責任を戻すためにも呼ぶ。


 その光が、三点印の核へ伸びる。


 黒い核は激しく抵抗した。


 紙片が舞う。


 その中に、アルトの紙が混ざる。


 王宮保護移送、正式完了。


 本人意思確認済。


 王の鐘接続、継続。


 リゼはすぐに言った。


「その記録を否認します。本人不同意、帰還意思確認済み」


 ミリアが重ねる。


「アルト・レインフォード本人、“僕は、アルトとして帰りたいです”と発声。記録済み」


 カイ。


「聞いた!」


 エリアナ。


「帰る名として白鐘層が反応しています」


 学園線から声が返る。


 学園長。


「王立学園は、アルト・レインフォード君の帰還意思を保全します」


 エレオノーラ。


「学園記録室、本人意思保全継続」


 黒い紙片が、ついに割れた。


 正式完了の文字に、白い亀裂が走る。


 だが、その瞬間、三点印の核が収縮した。


 紙片を失う代わりに、残った黒を一点へ集める。


 室長の声が低く、鋭くなった。


「ならば、本人に同意させればよい」


 空気が凍った。


 クラウスが測定具を見て叫ぶ。


「三点印中核、アルト君の銀環へ直接接続を試みています!」


 深部投影の中で、黒い線が王の鐘の記録柱を迂回し、まっすぐアルトの左手首へ伸びる。


 外部記録。


 部局否認。


 白鐘手順。


 学園線。


 それらを避け、直接本人へ。


 同意させるために。


 リゼが一歩踏み出す。


 ロウ教師が短く言った。


「走るな」


 リゼは止まった。


 止まったまま、声を出す。


「アルトさん。三点印が直接接続を試みています。あなたに同意させようとしています。怖いことと同意は違います。守りたいことと、消える同意は違います。無理に返さなくていいです」


 カイが叫ぶ。


「アルト! 同意しなくていい! 皆を守りたいって思っても、鐘にならなくていい!」


 ミリア。


「本人へ圧力が向いています。外部は同意を要求しません」


 エリアナ。


「孤独な音にしません。あなた一人に答えを背負わせません」


 青い学園線が震える。


 学園から無数の声が届く。


「同意しなくていい」


「帰ってきて」


「待ってる」


「アルト君」


 黒い三点印の線は、それでも銀環へ近づく。


 王の鐘の白い光が黒く染まる。


 室長の声が、アルトのすぐ近くで囁くように響いた。


「同意すれば、皆を守れる」


 深部の銀色が激しく揺れた。


 アルトの声は、まだ聞こえない。


 リゼは青いリボンに触れた。


 戻るための目印。


 彼女は、剣を抜かなかった。


 走らなかった。


 門を破らなかった。


 ただ、名前で呼んだ。


「アルトさん」


 銀色が、ほんのわずかに光る。


「あなたの答えを、こちらで書きません」


 黒い三点印が、ついにアルトの銀環へ触れた。


 王の鐘が、低く、深く震え始めた。


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