第8章 第5話:白布の少女
白い布の話をすると、部屋の空気は少しだけ冷たくなる。
それは布そのものの色のせいではない。
白という色が、王立学園では清潔や祝福や制服の襟を思わせるのに、今この生徒会室では、荷車の上で誰かが抱えていたものとして語られているからだ。
顔のない子ども。
名前のない未成年者。
荷車六台の二台目、後方寄り。
白い布を抱えていた、小柄な子。
リゼ・グレイスは、その子の顔を覚えていない。
その事実を、昨日、彼女ははっきり言った。
覚えているふりはしない。
罪悪感で誰かの過去を作らない。
だが、見なかったことにもしない。
その確認の続きとして、今日は白布についての照合が行われる。
アルト・レインフォードは、生徒会室の机の端に置かれた白い布片の写しを見て、左手首に触れた。
痛みはない。
熱は少し。
声はない。
布片そのものは原本ではない。王国軍接収物記録に添付されていた模写だ。
紙の上に描かれた、白布の端。
そこに、細い蔦と小さな鐘のような刺繍が写されている。
線は不完全だ。
擦れている。
だが、アルトの銀環はその形に反応した。
「痛みなし。熱少し。声なし。白布の刺繍写しで反応しました」
隣に座っていたリゼが頷く。
「確認しました」
その声は静かだが、昨日より少し低い。
今日の主題は、彼女の記憶に直接触れる。
白布を抱えた子ども。
その顔を覚えていないこと。
それを認めること。
認めた上で、探すこと。
エリアナ・ルクス・ヴェルグラントは、机の向こうで白布の写しを見ていた。
淡い亜麻色の髪を、いつもより少し低い位置で結んでいる。
薄紫の瞳は紙面に向けられ、指先は机の縁に触れている。
硬い。
でも、逃げてはいない。
ミリア・ファルネーゼはエリアナの斜め横に座り、視線と呼吸を確認している。
カイ・ロックハートは、今日は最初から静かだった。
布包みは椅子の横に置いてある。
まだ出さない。
重い話の前に出すものではないと、彼なりにわかっているのだろう。
ユリウス・エインズワースは資料を整理している。
エレオノーラ・ヴィンスフェルトは記録板を持つ。
クラウス・ヴァイゼルは白鐘紙工房の透かし資料を持参していた。
ロウ教師は窓際に腕を組んで立っている。
授業ではない。
だが、今日も彼は必要な時だけ言葉を挟むためにいる。
ユリウスが確認した。
「本日の確認対象。戦時輸送記録に含まれる“白布を抱えた未成年者”に関するリゼの記憶、接収物記録に残る白布端刺繍、旧ヴェルグラント母方記録との照合。個人名は未確認。推定で名をつけない。エリアナさんの親族との関連は可能性として扱う」
エレオノーラが続けて読む。
「記録範囲。リゼさんの記憶は本人確認のうえ記録。エリアナさんの母方家族記憶は本人許可範囲。白布刺繍と白鐘紙工房透かしの比較は技術記録として扱う」
エリアナが静かに頷いた。
「はい」
リゼも頷く。
「了解しました」
アルトは左手首に触れる。
「聞けます」
ユリウスはまず、昨日のリゼの発言を書き写した紙を机の中央に置いた。
荷車二台目、後方寄り。
白い布を抱えた小柄な未成年者。
顔、名前、性別、年齢は不明。
布端に蔦のような刺繍を見た可能性あり。
記憶不確実。
アルトはその最後の行を見た。
記憶不確実。
この言葉は冷たいようでいて、今は大事だった。
曖昧なものを曖昧なまま置く。
それが誰かを守ることもある。
ユリウスがリゼへ向く。
「リゼ。昨日の記憶確認から、追加で思い出したことはあるか」
リゼはすぐには答えなかった。
目を伏せるのではなく、机の上の紙を見ている。
呼吸は浅くない。
だが、身体の奥に力が入っている。
「状態」
アルトが小さく声をかける。
リゼは答える。
「身体異常なし。感情、緊張。記憶確認による負荷あり。継続可能です」
ロウ教師が低く言った。
「戦場に戻りすぎるな。現在地」
「王立学園、生徒会室」
「名」
「リゼ・グレイス」
「役割」
リゼは一拍置いた。
「王立学園の生徒です。記憶を確認しています」
「よし」
リゼは静かに息を吸った。
「追加で思い出したことがあります」
生徒会室が静かになる。
「白布を抱えた子どもは、荷車の内側ではなく、縁に近い位置に座っていました。布を胸に抱え、外へ見せないようにしていたと思います」
エレオノーラが記録する。
リゼは続けた。
「隣に成人女性がいたかもしれません。ですが、顔は覚えていません。声も覚えていません」
エリアナの指が、机の縁を強く押した。
ミリアが静かに見る。
エリアナは首を横に振る。
止めなくていい、という合図だった。
リゼはさらに言った。
「その子が泣いていたかどうかも、覚えていません」
その言葉で、エリアナの表情が揺れた。
泣いていたかどうか。
そこまで覚えていない。
リゼは自分を許すために言っているのではない。
覚えていない範囲を正確に切り分けている。
エリアナが静かに言った。
「泣いていたことにしないでください」
リゼは頷いた。
「はい」
「泣いていなかったことにもしないでください」
「はい」
「覚えていない、としてください」
「はい」
エレオノーラが記録する。
「泣いていたか否か不明。記憶なし」
カイが小さく息を吐いた。
「覚えてないって言うの、きついな」
ロウ教師が答える。
「覚えているふりをする方が楽な時もある。だが、楽な補完は他人の過去を奪う」
カイは真剣に頷いた。
「はい」
ユリウスは次に、接収物記録の白布端刺繍写しを中央へ寄せた。
「こちらが、王国軍接収物一覧に残っていた白布端の模写。白布包み三のうち、一つの端に刺繍があったとされる。模写の精度は高くない」
クラウスが資料を重ねる。
「こちらが白鐘紙工房の透かし資料。第6章で確認した半盾、白鐘、蔦の意匠」
紙の上に、二つの意匠が並ぶ。
一つは布端の刺繍模写。
もう一つは紙に透かされた白鐘と蔦。
完全には同じではない。
だが、蔦の曲線と、鐘の下部の形が似ている。
アルトの左手首が熱を持つ。
痛みはない。
声なし。
「痛みなし。熱少し上昇。声なし。白鐘紙工房の意匠との比較で反応しました」
クラウスが頷く。
「反応は参考として記録。ただし一致判定には使わない」
エレオノーラがすぐに記録する。
エリアナは二つの模様を見つめている。
「似ています」
声は小さい。
「母の手帳の裏表紙にも、似た印がありました。白鐘と蔦。ただし、母のものはもう少し蔦が多かったと思います」
ユリウスが尋ねる。
「記録していいか」
エリアナは少し考えた。
「はい。ただし、“母の手帳の裏表紙の記憶による”としてください。原本確認ではありません」
「了解した」
エレオノーラのペンが走る。
ミリアが柔らかく言う。
「母方の親族に、白布を儀礼用に保管していた家があったのよね」
エリアナは頷く。
「はい。白鐘を覆うための布です。鐘を鳴らさない祝祭の時に使うものだと、母が言っていました」
「布は、何か特別な扱いをされていた?」
エリアナは少し目を伏せた。
「湿気を避けるため、香草と一緒に保管していました。白布に香りを移すためでもあったと思います。灯皿、香草束、白布は同じ箱に入れない。けれど、近くに置く。そう言っていました」
アルトの左手首が淡く温かくなる。
白布。
香草。
灯皿。
同じ箱に入れない。
その言葉に、少しだけ胸が動いた。
ミリアも気づいたように微笑む。
「同じ箱には入れないのね」
エリアナは一瞬、言葉の重なりに気づいた顔をした。
「はい。湿気や香りの関係です。でも……」
「でも?」
「今は、その言葉が少し違って聞こえます」
リゼが静かに言う。
「情報も、同じ箱に入れない」
エリアナは頷いた。
「はい」
カイが小さく呟く。
「白布も香草も灯皿も、近くに置くけど同じ箱には入れない」
ロウ教師が低く言った。
「今日の要点の一つだな」
カイが驚いて顔を上げる。
「え、今のですか」
「そうだ。違うものを一緒くたにせず、しかし離しすぎもしない。儀礼も記録も人間関係も同じだ」
カイは少し得意げになりかけ、ミリアの視線に気づいて姿勢を直した。
「はい」
クラウスが意匠の比較へ戻る。
「布端の刺繍と白鐘紙工房の透かしは、同一ではないが系統は近い。白鐘儀礼に関わる地域意匠と見るのが妥当だ。ただし、白鐘紙工房そのものが布を作ったとは限らない」
エレオノーラが記録する。
「同一ではない。意匠系統近似。布作成元は未確定」
エリアナが小さく言った。
「母方の家では、紙と布を別の家が管理していました」
クラウスが顔を上げる。
「別の家?」
「はい。紙は記録を残す家。布は鐘を覆う家。香草は灯と一緒に扱う家。正確には、母がそう話していました」
生徒会室の空気が変わる。
紙、布、香草、灯。
それぞれを扱う家。
白鐘儀礼は、鐘だけではない。
複数の家が、複数の役割を持っていた。
ミリアが言う。
「記録管理家族三戸」
エリアナが顔を上げる。
「はい」
リゼも資料を見る。
「接収記録にあった三戸は、紙、布、香草または灯の管理家族だった可能性があります」
クラウスが頷く。
「あり得る。白布を持つ子どもは、布を管理する家の子だった可能性がある」
エリアナの指が硬くなる。
「私の母方の従姉妹に、布の家へ養子に入った子がいました」
その言葉で、全員が止まった。
エリアナはすぐに付け加える。
「断定はできません。私は幼かったので、名前もうろ覚えです。会ったのも一度か二度です」
ユリウスが静かに問う。
「話せる範囲でいい。覚えていることは」
エリアナは目を伏せた。
「白い髪飾りをしていました。布の端を指で撫でる癖がありました。母は、あの子は布の家へ行くから、と言っていました」
リゼの表情が痛みに沈みかける。
アルトはすぐに見た。
しかし、リゼは自分で戻った。
エリアナが言う。
「年齢は、私より少し上かもしれません。少し下かもしれません。名前は……たぶん、リナか、リネに近かったと思います。でも、確信はありません」
エレオノーラが記録前に確認する。
「仮名として記録しますか。それとも未記録にしますか」
エリアナは長く黙った。
名前らしきもの。
でも、不確実。
間違った名前をつける危険。
名前を残さない痛み。
その間で、彼女は息を整える。
「“リナまたはリネに近い音の名を持つ可能性”としてください。名前としては確定しないでください」
「了解しました」
アルトは胸が苦しくなった。
名前が戻りそうで、まだ戻らない。
呼びたいのに、間違えるのが怖い。
それも、名前を消された人を探す時の痛みなのだと思った。
リゼは静かに言った。
「私は、その子の髪飾りを覚えていません」
エリアナがリゼを見る。
「はい」
「布の端を撫でる癖も覚えていません」
「はい」
「私が覚えているのは、白布を抱えていたことと、布端の蔦のような刺繍の可能性だけです」
「はい」
エリアナは少しだけ目を閉じた。
「覚えていないことが多いのですね」
「はい」
「それが、悔しいです」
「はい」
「でも、覚えていないと言ってくれていることは、受け取ります」
リゼの瞳がわずかに揺れる。
「ありがとうございます」
「感謝されることではありません」
「はい。それでも、受け取ります」
何度目かのやり取り。
だが、今日のそれは少し違った。
エリアナはリゼを責めるだけではない。
リゼの正確さを、必要なものとして受け取っている。
それは許しではない。
でも、調査を一緒に進めるための細い橋だった。
ユリウスが確認する。
「現時点で白布の子どもについて言えることを整理する」
エレオノーラが記録板を新しい紙に替えた。
ユリウスは一項目ずつ読み上げる。
「一、民間移送護衛任務の荷車列に、白布を抱えた小柄な未成年者がいたとリゼが記憶している」
リゼが頷く。
「はい。ただし記憶不確実です」
「二、顔、名前、性別、年齢、泣いていたか否かは不明」
「はい」
「三、布端に蔦のような刺繍があった可能性」
「はい。不確実です」
「四、接収物記録の白布端模写に、白鐘と蔦に近い意匠がある」
クラウスが頷く。
「はい。同一断定不可、系統近似」
「五、エリアナさんの母方記憶に、布の家へ行った親族がいる可能性。名前はリナまたはリネに近い音かもしれないが未確定」
エリアナが頷く。
「はい。未確定です」
「六、白布の少女がその親族である可能性はあるが、現時点では断定しない」
全員が頷いた。
ロウ教師が言う。
「よし。ここで止めろ」
カイが少し驚く。
「もうですか」
「今止める。名前が戻りかけている時ほど、急ぐな」
エリアナが小さく息を吐いた。
急ぐな。
香草を強く潰すな。
また、その言葉が戻ってくる。
リゼも頷いた。
「了解しました」
だが、エリアナは机の上の白布写しから目を離せなかった。
ミリアが静かに声をかける。
「エリアナさん」
「はい」
「状態は」
エリアナは少し時間をかけて答えた。
「身体異常なし。疲労あり。感情、混乱。少し、泣きたい感じがあります。でも、泣くかどうかはわかりません」
ミリアは頷く。
「言えたわ」
「はい」
カイが小さく言った。
「泣いてもいいと思います」
エリアナはカイを見る。
カイは慌てて付け足す。
「泣かなくてもいいです」
ミリアが柔らかく笑った。
「そうね」
エリアナは少しだけ目元を緩めた。
「ありがとうございます。今は、泣きません」
「はい」
リゼが言う。
「泣くか否かは本人意思です」
カイが小さく笑った。
「それ、なんかリゼっぽいな」
「はい」
エリアナもほんの少し口元を動かした。
重い空気の中に、小さな隙間ができる。
ユリウスは資料をまとめた。
「次に必要な照会。布の家に関する旧ヴェルグラント母方記録。接収物白布三点の詳細。荷車二台目の搭乗者名簿。臨時保護集積所の受領記録」
エレオノーラが記録する。
クラウスが少し苦い顔をした。
「王宮接収資料庫に触れる必要が出てくるな」
ミリアの表情が引き締まる。
「出す情報と求める情報を分けましょう」
「そうだ」
クラウスは頷く。
「こちらから白布の少女の可能性を出しすぎると、王宮はアルトやエリアナの白鐘反応と結びつけるだろう」
アルトの左手首が少し熱を持つ。
痛みなし。
声なし。
リゼが静かに言った。
「白布の少女を、アルトさんの鍵情報にしないでください」
エリアナがリゼを見る。
リゼは続ける。
「エリアナさんの親族可能性を、白鐘反応実験の材料にしません」
アルトも頷いた。
「僕も、それは嫌です」
エリアナの瞳が揺れる。
「ありがとうございます」
カイが低く言う。
「人の名前探してるのに、また実験とか対象とかにされたら最悪だろ」
「ええ」
ミリアが静かに頷いた。
「だから手順を作るの」
エレオノーラが記録した。
「白布の未成年者調査は、個人特定および記録回復を目的とする。白鐘反応実験またはアルトさんの鍵情報補強として扱わない」
その文を聞いて、アルトは少し息を吐いた。
白布の少女。
彼女はまだ名前がない。
でも、少なくとも今この部屋では、誰かの反応を測る材料ではなく、名前を探すべき一人として扱われている。
それが大事だった。
資料が閉じられると、部屋の緊張が少し緩んだ。
だが、全員の疲れははっきりしていた。
エリアナは指先を一度開き、また閉じた。
リゼは記録帳を閉じる前に、最後の一文を書いた。
顔を覚えていない。
名前を覚えていない。
白布を抱えていた可能性。
探す。
アルトには、最後の「探す」という文字が見えた。
リゼの字は、いつもより少し強かった。
生徒会室を出ると、廊下の空気は少し温かった。
午後の授業が終わった直後らしく、遠くから生徒たちの声が聞こえる。
誰かが笑い、誰かが廊下を走りかけて注意されている。
その日常の音が、今は少し眩しい。
アルトは左手首に触れた。
「痛みなし。熱少し。声なし。確認終了後」
リゼが続ける。
「身体異常なし。感情、重い。白布の子どもの顔と名前は覚えていません。探します」
エリアナも言った。
「身体異常なし。疲労あり。感情、混乱。リナ、またはリネに近い名前かもしれない子について、確認したいです。ただし、確定しません」
ミリアが頷く。
「良好よ」
カイが布包みを持ち上げた。
ミリアが尋ねる。
「名前は?」
カイは珍しくすぐに答えなかった。
廊下の窓の外を見て、少し考える。
「白布の子を勝手に作らない用」
エリアナがその言葉を聞いて、ゆっくりカイを見た。
リゼも。
アルトは胸が少し温かくなった。
ミリアが静かに微笑む。
「とても良い名前だと思うわ」
カイは少し照れたように頷いた。
「長いけど」
「長くていいです」
エリアナが言った。
その声は少し疲れていたが、確かだった。
「今日は、その名前がいいです」
布包みの中には、小さな焼き菓子と、香草パンの欠けが入っていた。
アルトは成分を読み上げる。
「焼き菓子は小麦、卵、乳、林檎、杏。香草パンは小麦、卵、乳、蜂蜜、香草候補二、香草候補三。蜂蜜減量版です」
エリアナは頷く。
「確認しました」
廊下の窓辺で、五人は少しずつ食べた。
香草パンは少し硬く、蜂蜜は控えめで、香草の苦味が前より残る。
エリアナはそれを食べて、少しだけ眉を寄せた。
「香草候補三が、少し粗いです」
カイがすぐに頷く。
「次、細かく」
「はい。次は、私が砕きます。急がずに」
リゼが静かに言う。
「記憶も、急がずに扱います」
エリアナはリゼを見る。
「はい。急がずに。でも、止めたままにもしないでください」
「はい」
アルトは左手首に触れた。
痛みなし。
熱少し。
声なし。
廊下の向こうで、誰かが名前を呼んだ。
呼ばれた生徒が振り返る。
その声に、アルトは白布の少女のことを思った。
リナかもしれない。
リネかもしれない。
まったく違う名前かもしれない。
まだ呼べない。
間違えたくないから。
でも、探すことはできる。
名前が戻るまで、数にも分類にも戻さないことはできる。
エリアナは窓の外を見ながら、小さく言った。
「白布の子を、勝手に作らない」
リゼが頷く。
「はい」
「でも、消さない」
「はい」
アルトも頷いた。
「はい」
カイが焼き菓子を持ったまま言う。
「探す」
ミリアが微笑む。
「ええ。探しましょう」
白布の少女には、まだ顔がない。
名前もない。
けれど、もう誰かの罪悪感だけで作られることも、軍記録の数だけに戻されることもない。
そのための小さな確認が、廊下の午後の光の中に残った。




