『夜風とランタンと、ふたりの帰り道』
レベリスの町に夜が降りた。
昼の喧騒がようやく静まり、
石畳を撫でる風の音だけが残っている。
《前借亭》の営業を終え、
カケルとルシアナは店の前でゆっくりと歩き出した。
「……なんか、久しぶりの“普通の夜”だな」
「そうね。今日だけは、誰も世界を壊しに来なかったわ」
「いや、その基準どうなんだよ」
ふたりは笑い合った。
店先のランタンは、
いつもより少し強めに揺れていた。
◇
「ねぇ、カケル」
「ん?」
「あなたは……怖くなかったの?
神界で、最後のあの戦い。
全部を背負って、たったひとりで核の中まで行って……」
「怖かったに決まってんだろ」
カケルは苦笑する。
「正直……途中で“これ無理だな”って思ったし」
「あなたでも、そう思うのね」
「そりゃあな。
俺は最強でも何でもない。
ただの、サラリーマン上がりだし」
「でも……あなたは、誰より強かったわ」
「強かったんじゃなくて……」
カケルは夜空を見上げた。
「……みんなが、強さをくれたんだよ」
ルシアナはその横顔を静かに見つめる。
◇
「ねぇ、カケル。ひとつ聞いてもいい?」
「お、なんだよ。珍しいな」
「あなたは……後悔してない?
この世界に召喚されてからのこと」
「後悔?」
(……後悔なんて……
昔なら山ほどあったけどよ)
カケルはゆっくりと答えた。
「後悔、してないよ」
「……本当に?」
「ああ。本当にだ」
──ルシアナが小さく息をのむのが分かった。
「召喚されたおかげで、俺は“感情”を取り戻した。
お前に出会って……
仲間ができて……
この町ができて……」
「……カケル」
「もし召喚前の俺に会えるなら……
“お前はこれから最高の人生になるぞ”って言ってやるわ」
ルシアナは立ち止まり、
少しだけ俯いた。
「……そんなふうに言われたら……
私、また泣いちゃいそう」
「泣くなよ。帰り道で泣くんじゃねぇ。
俺の肩が濡れるだろ」
「濡れたら……拭けばいいじゃない」
「それもそっか」
ふたりはまた歩き出した。
◇
町外れの橋の上に来た頃──
星がきれいに見える場所で、
カケルは足を止めた。
「ルシアナ」
「なに?」
「俺……この先もずっと、お前と一緒にいたいと思ってる」
ルシアナは驚いたようにカケルを見た。
「……それって……」
「恋とか愛とか……
そういう大げさなやつじゃなくてもいい。
一緒に笑って、一緒に怒って、
一緒に飯食って、一緒に帰る……」
「……うん」
「そういう“人生”を、お前と歩きたい」
ルシアナの瞳が揺れる。
夜風がそっとふたりの間を通り抜けた。
「……カケル」
「なんだよ」
「私もよ。
あなたと一緒にいたい。
たぶん……ずっと前から」
カケルが照れたように頭を掻く。
「……だったら、決まりだな」
「ええ。決まりね」
ふたりの影が橋の上で重なり、
ランタンの灯りが柔らかく揺れた。
◇
遠くでミュコが「ピュイー!」と叫んだ。
どうやら待ちきれず、店に戻る合図らしい。
「……あ、ミュコが催促してる」
「くそ、ロマンチック台無しだな」
「ふふ。ミュコらしいわね」
ふたりは肩を並べて歩き出した。
夜の風が、暖かく彼らを包む。
「さ、帰りましょう」
「そうだな。
──帰ろう。俺たちの場所へ」
読者の皆様、最後まで『異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?』をお読みいただき、本当にありがとうございました!
全100話の本編、エピローグ、そしてこのスピンオフをもって、カケルたちの物語はこれにて完結となります。
本作は、私にとって「小説家になろう」で一番最初に投稿を始めた、非常に思い入れの深い作品です。
最初は手探りで始まった物語でしたが、カケルが仲間と共に「感情」を取り戻していく姿を、100話という長い道のりに渡って見守り、最後までお付き合いいただいた読者の皆様には、感謝してもしきれません。
皆様の存在が、私にとっての「仲間」であり、完結まで走り抜ける最大の原動力でした。
本当にありがとうございます!
もしよろしければ、完結の記念にブックマークや、ページ下部からの評価(☆☆☆☆☆)、ご感想などをいただけますと、作者としてこれ以上ない喜びです。
カケルとカケルの母「ヨシコ」さんとの話が、実はまだ少しだけあります。
『異世界総務のヨシコさん(58) ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~』
の後日談にて、投稿中です。
https://ncode.syosetu.com/n3143lo/
よろしければ、こちらもお読みください。
カケルたちの旅はここで一区切りとなりますが、私自身の創作の旅はまだまだ続きます。
現在、次回作も鋭意準備中です!
今後も皆様に楽しんでいただける物語をお届けしていきますので、引き続き「早野茂」の応援をどうぞよろしくお願いいたします。
また次の物語で、皆様とお会いできる日を楽しみにしています!
早野茂




