1-2. 属性のない私ができないこと
逃げるように自室に戻った私は、昨日の宿題の続きに取りかかる。お母さんはこの辺りじゃ唯一読み書きと計算ができるので、毎日空いた時間で私に教え、宿題をくれる。
勉強は達成感があって好きだ。ひとつできればまたひとつ、新しいものが増えて私のなかに積み重なっていく。
「できた!宿題おわり!」
宿題を終えたあとは今日の手伝いに取りかからないといけない。勉強は嫌いではないけれど、家の手伝いは嫌いだ。毎日毎日同じことの繰り返しで、もう飽きちゃったよ。
手伝いの内容は、井戸での水汲みや小麦の脱穀やパン屋の店番、作物の水やりとかだ。まぁ、昔はパンを焼いたりしてたんだけど、火の属性を持たない私では釜の熱の調整が難しくて焦がしたり生焼けになったりで失敗することが多かったんだ。だから今では、お客さんにパンを売ったり店を掃除することしかしていない。
新しいことに挑戦しても失敗するから、結局いつもどおりの面倒な退屈な手伝いしかできない。パパッとなんでも上手くしたいよ!
「お母さんやお父さんみたいに、火リスや木カマキリも手伝ってくれないしね。」
両親の火リスや木カマキリは、それぞれと同じ属性であるルシアの両親が大好きだからこそ、彼らは仕事を手伝ってくれる。私はというと、どちらとも属性が同じではないので、火リスや木カマキリにとって私は好きでも嫌いでもない存在だ。だから、近づくくらいじゃ嫌がられることはないけれど、仕事を手伝ってくれることはないので、結局私は1人で仕事をすることになる。
「うう、暑いよ…。」
パン釜の熱が店から居住スペースまで漏れだしている。私は腹をくくって店に出ると、お母さんがお客さんにパンを売っているところだった。
「ルシアちゃん、おはよう。今日はこれからおうちのお手伝いかい?」
お客さんはサーヤのお母さんだった。サーヤは少し年上の幼なじみで、ひとりっ子の私にお姉ちゃんがいたらサーヤみたいな感じかな?と思っていたりする。
「うん!っあ!ねぇ、お母さん?そろそろお塩が少なくなっきたから、今日は店番をお父さんに任せて、買い出しに行こうよ!」
我が家のパン屋は小麦粉と塩と酵母だけで作るリーンなパンが主だ。街まで出れば砂糖などを使ったリッチなパンもあるけど、少し値がはるので、うちで売ることは少ない。
「ルシアちゃん。それなら、サーヤがこれから街に作物を売りに行く予定だから、良ければ一緒に行ったらどうだい?サーヤも喜ぶよ。」
「え、行きたい!お母さん、良いよね?」
私は精一杯かわいい顔を作ってお母さんに聞いてみた。お母さんはかわいくお願いされることには割と弱かったりする。案の定、お母さんは少し困った顔をしつつも了承してくれた。
「…ご提案、ありがとうございます。ぜひご一緒させてください。」
買い出しに行く許可がでた私は、急いでサーヤの家に向かった。サーヤは大家族の長女で、小さい弟妹がいる今は、街に行くのはサーヤの役目だ。
サーヤは倉庫にいるだろうと思い、倉庫に入ったけれど真っ暗でよく見えない。
……ああもう。こんなとき、お母さんみたいに火属性なら、火リスに火を灯してもらって明るくできるのに!
そんなことを言っていても属性はもてないので、私は大声で叫ぶ。大声なら私にもできる!
「サーヤ!!!ルシアよー!!!どこにいるのー!!?」
すると倉庫の外からサーヤの声が聞こえたため、外に出るとそこにはサーヤと木てんとう虫がいた。
「ルシア?どうかしたの?」
聞くと木てんとう虫が収穫時期のきた果物を教えてくれたらしく、街で売るためにこれから取りに行くとのこと。
ルシアは折角なので一緒に果物を収穫しに行くことになった。
「あのあたりの3本のいちじくの木の、上の方がちょうど収穫時期みたいで。私はこっちの木から収穫するから、ルシアは向こうの木から収穫してもらって良いかな?」
高いところにある果物を収穫するときは、木属性が役に立つ。木てんとう虫が枝を切り、サーヤが下で受け取るのが効率的だからだ。サーヤはさくさくと収穫を進め、早々に1本目の木の収穫を終えた。
一方、ルシアは木の下から長い剪定ばさみを使い、いちじくを落としていく。むやみに木を傷つけないために慎重に切り、収穫を進める。
「もう、なんで収穫するだけでこんなに大変なの!サーヤ、ずるい。私ももっと楽にしたい!」
私はサーヤの前で不満を呟くけれど、サーヤは笑って言った。
「そんなこと言わないで。水汲みだったり、ルシアの方が上手なことだってあるじゃない。それに今回はルシアのお陰でひとりでするより早く終わったんだよ。街で作物を売ったあと、時間が取れそうだから、少し街のお店を見て周ろうよ。」
「ほんと?サーヤ大好き。楽しみ!」
作物を売り街に頻繁に行くサーヤと違って、街に行く機会の少ないルシアは、街のお店を見てまわるだけでも楽しいものだ。
サーヤと作物を荷馬車に積み込み、ワクワクした気持ちでルシアは街へ向かった。




