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5-3. アレクの寝物語

「あ、サーヤ!…と、アレクさん。」


サーヤの家に向かう途中に、ちょうどサーヤがいた。アレクさんと何か話しているみたい。アレクさんがここにいるということは、今日は採掘の日なのかもしれない。


「ルシア。パン屋に行く途中に、アレクさんに会ったの。」


ホタルと出会った日、アレクさんの様子がおかしくて少し怖かった。ちらりと彼を確認すると、いつも通りにみえて、少し安心した。


「引き留めてしまって、すみません。ルシア、これからパン屋に行ってもいい?」


サーヤは私に近づいて手を引いた。


パシッ


「え?」


突然アレクさんがサーヤの手を掴んだ。サーヤが驚いて振り向いている。


「これ。」


アレクさんがサーヤに何かを差し出した。なんだろう。


「あ、ルシアに、ですよね。」


サーヤは私を見て苦しそうに言葉を紡ぐ。大丈夫かな?


「ちがう、サーヤのだ。」


サーヤとアレクさんは身長差があって、アレクさんの困惑した顔がよくわかる。


「なんで、なんで…。」


サーヤはアレクさんの手を勢いよく振り払って、私の腕を抱いた。


「行こう、ルシア!」


サーヤは、今にも泣き出しそうで、それでも泣くまいと唇を噛んで耐えていた。振り返るとアレクさんが呆然と立っている。


少し離れた場所に来ると、サーヤの走りが緩まったから、私はサーヤに声をかけた。


「ねぇ、そんなに引っ張られると痛いよ。声を荒げるのもサーヤらしくない。急にどうしたの?アレクさんが変なもの渡してきたの?」


私は何があってもサーヤの味方だから。もしアレクさんがサーヤをいじめるなら、私がアレクさんをやっつけてやる。


「え?あ、ちがうの。ええと。渡してきたのはいつものクッキーで。」


「え?クッキーをもらってサーヤは怒ったの?」


私は口を開けてポカーンとする。意味が分からないよ。


「だってルシアの分は無いって言うし。」


「私、べつに要らないよ?」


そりゃあ、お菓子は好きだし、貰えるなら貰うけど。泣きそうだったサーヤだけれど、話しているうちに目をパチパチと瞬かせたあと、顔を青ざめさせた。


「そ、そうよね。アレクさんはただ私にお菓子をくれようとしてただけだよね。」


サーヤは両頬に手のひらをあて、どうしようどうしようと呟いている。


あ、サーヤはアレクさんに謝りたいんだ。サーヤに謝りたかった少し前の私を思い出す。謝りづらくならないように、早くアレクさんに会わなくちゃ。


「サーヤ、戻ろう!」


今ならまだアレクさんはいるかも。私は先ほどと逆で、サーヤの手を引いて来た道を戻った。無事にアレクさんを見つけられた。


「あの、アレクさん。さっきはごめんなさい。」


サーヤが深く謝ると、アレクさんはサーヤの頭に手を置き、ひとなでした。それから、謝るサーヤの顔がよく見えるように、低い姿勢をとった。


「菓子は、君が喜ぶと思って渡していた。子供扱いをしていたつもりはないんだが、嫌な気持ちにさせてしまい、すまない。」


アレクさんは珍しく饒舌に話している。サーヤの反応を窺いながら話す顔つきは真剣そのもので、確かに子供扱いしているようには見えない。


「あ、お菓子が嫌だったわけでは。あの、どうしてルシアじゃなく私なんですか。この間の採掘のとき、とても見つめていたじゃないですか。ルシアのことを。」


サーヤは思わずというようにアレクさんに尋ねた。服の胸あたりをギュッと掴み、返事を聞きたいような聞きたくないような、戸惑った表情をしている。


「あれは、金の光を見たからだ。」


そうしてアレクさんはすっと姿勢を正して私を見た。


え?金の光?


「子供の頃の寝物語に、金の光の話がある。金の光はどの属性も持たず力も使えない。だから属性を持つ他の光たちが金の光を助けるという話だ。」


どの属性でもない金の光?たしかに私やホタルの光はどの属性でもないみたいだし、黄色い光は金色に見えなくもない。


「でも私、そんな話、聞いたことないよ。」


「ルシアは無いのね。私は聞いたことある気がする。」


ふうん。実は私も聞いたことがあるのかなぁ。…いや、全然覚えがないし、やっぱり無さそうだ。


「あのときは母さんの寝物語の光景が目の前に現れたように感じた。だが初めて見る光の色だったのもあって、本当に金の光なのか近くで見て確かめたいと思ったし、その光について君に聞きたいと思った。」


つまり、アレクさんはホタルの光について興味津々だったってこと?私が納得していると、サーヤはおずおずとアレクさんに尋ねる。


「あの。アレクさんは、ルシアを気にしていた訳ではなく、金の光を気にしていたということですか。」


「ああ。」


服の胸元を掴むサーヤの手から力が抜け、強ばりがほどけていく。


「…そっか。」


サーヤは脱力して、にへらと笑った。私は辺りの空気が途端に軽くなるのを感じた。


やっぱりサーヤには笑っていてほしいね。

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