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5-1. 井戸まで行くのは面倒です

それから私は、サーヤたちにお願いされれば一緒に井戸まで行って水を汲んだ。するとそれを見た人たちからもお願いされるようになった。


「はーい、今行きますね!」


属性なしの私が頼られることは初めてで、うれしくて期待に応えたくて頑張った。すると、私の電動水汲みの話は、瞬く間に村中に広まった。


「パン屋のお客さんより、水汲みのお客さんの方が多いかもしれないわね。」


どうも、サーヤのお母さん以外にも水汲みで身体を痛める人が多かったらしい。パン屋のお客さんだけじゃなく、水汲みだけお願いしに来る人もいた。毎日毎日、私は何度も井戸に行って水を汲んだ。


「ルシアちゃん。今日も水汲みお願いできるかい?」


「う…、はい。だいじょうぶです。今いきますね。」


はじめは意気揚々と取り組んでいた水汲みも、1週間ほどすると、退屈で面倒に感じるようになっていた。


「あううう。水汲みが全然楽じゃない!遠くの井戸まで行くの、毎日毎日しんどいよぉ。」


私は今日も元気にピカピカしているホタルをぎゅーっと抱いてめそめそする。私がいないとホタルは井戸に行けないし、私がいないとホタルはちょうどよい電気が流せない。


「むぅ。お母さん、今から井戸の近くに引っ越さない?」


「無理よ。第1階級の木属性でもない限り、木造住宅の我が家を簡単に引っ越しさせることなんてできないでしょう?」


第2階級ですら少ないのに、第1階級なんてもっと少ない。本当に存在するのか怪しいレベルだ。


はぁ。井戸が遠いならこっちから井戸に近づけばいいのでは?と思ったけどダメらしい。分かってはいたけどね。


「じゃあさ、井戸を家のとなりに掘ろうよ。」


「それは第1階級の水属性で水脈を移動させるということかしら?王さまにでも、おうちに来てもらうつもり?」


お母さんがもう堪らないという様子でクスクスと笑っている。


私は悲しくて腕の中のホタルに頭をグリグリする。あ、ちょっとホタルが迷惑そうにしている。


「やっぱり頑張るしかないのかぁ。」


私はため息をついた。


ーーーーーー

翌朝。


「そっか、サーヤは今日、街まで作物を売りに行くんだね。」


朝イチ、パンを買いにきたサーヤと私はおしゃべりしていた。朝が弱いホタルは私の肩ですやすやと気持ち良さそうに寝ている。


「今回は特に量が多いから、風ロバの歩みも遅くなるだろうし、帰ってくるのは夕方になりそうよ。」


サーヤは眉尻を下げて残念そうだ。街は色んなものがあって楽しいけれど、忙しくて街歩きもできずに、行って帰ってするだけじゃ、しんどいだけだからね。


「お互いに大変だね。」


「そうね。せっかく街に行くのにアレクさんにも会いに行けないし。もういっそのこと、作物が勝手に街まで行ってくれたらいいのにって思うわ。」


サーヤが昨日の私みたいなことを言ってて、つい笑ってしまう。クスクス笑う私の肩の上でホタルはゆらゆら揺られている。


「そうだね。私も、電気が勝手にモーターのところまで行ってモーターを回してくれるなら、楽できるのになって思うよ。」


2人で顔を合わせて、ねーっと頷きあう。


あれ?


私が項垂れていると、脳裏にここじゃない映像が浮かんだ。青い空を見上げると、行き交う無数の黒い線。そうだ、あるじゃん。電気が勝手にモーターまで行ってくれる方法!


「サーヤ!作物は無理だけど電気ならできるよ!」 


私が大きな声をだして、ホタルが起きあがる。


「でんき?え、なに?って、ちょっと!ルシア、どこ行くのー!?」


私は家にある銅製品をたくさん荷車に積んで、サーヤのお父さんに会い、銅線をつくって欲しいと頼んだ。そうしたら、サーヤのお父さんは眉尻を下げて腰を低くして言った。


「ルシアちゃん、この前はごめんな。疑ってしまって …。それにあれだ。水汲みを楽にしてくれたんだよな。ありがとうな !」


おじさんは、お詫びとばかりに土アナグマと一緒に銅線作りを請け負ってくれた。


銅がチーズのように、うにょんと引っ張られて細くなり、千切れないまま銅線になっていく。おじさんはそれを引っ張り銅線を板に巻き付けていく。あっというまに、とても長い銅線が出来た。


私は浮き足立つ気持ちで銅線を荷馬車に乗せ、家路を急ぐ。


「ルシアじゃん。何それ?へんてこりんなもの運んでるじゃん。」


少し年上で同じ村のカイルが声をかけてきた。フワフワした私の気持ちは急降下する。


「銅線だよ。」


私は簡潔に返事をしてすぐにカイルから遠ざかる。カイルはいつも私を出来そこないだって馬鹿にしてくるから好きじゃない。


「あ、おいっ。待てよ!そういえばさ、ルシアが水汲みを改造したから楽になったって、うちの母さんが喜んでたんだぜ。」


!!


作ったものを褒められて嬉しくなった私は、満面の笑みを浮かべ、カイルの方を振り返ってぐいっと近づいた。


「ふふふ。そうでしょうそうでしょう!モーターはすごいんだから!」


私がカイルの目を見て上機嫌で話しているのに、カイルは私と目を合わせてはくれない。


「っ!…ルシアはいっつも失敗ばかりしてるのにな。ははっ!おっかしいのな。なんか変なものでも食べたんじゃねぇの?」


カイルは視線をさ迷わせて、だけどいつも通りに悪態をついてきた。


むっ。


せっかく楽しく話せるはずだったのに。やっぱりいつものカイルだ。大嫌い!


「うるさい。もう話しかけてこないで。」


電動水汲みで皆から褒められるばかりだった私は、久しぶりに聞く悪口に無性に腹が立ってしまった。


「お父さん、いる!?」


私はムカムカする気持ちを抑えながら、帰宅早々にお父さんを探す。庭で木を切っていたお父さんに、突撃する勢いで話しかけた。


「私、もっと良いもの作りたいの!丸太で電柱をつくって、銅線とゴムで電線をつくるでしょ!そしたら、電柱を井戸まで立てて、電線をモーターまで繋げて、電気を流すの!」


それでねそれでね!と私は息継ぎも忘れるくらい、早口で捲し立てていく。お父さんが焦って私の背中を撫でる。


「ルシア!?どうしたんだ、まず落ち着け。大丈夫、話しは聞くから。ほら。すーはー。」


すーはー、すーはー…。


私はお父さんに言われて呼吸を整える。


「で、なにをしてほしいんだって?」


「お父さん、ありがとう。あのね、私がわざわざ井戸にいかなくても、水が汲めるようにしたいの。そのためには電柱と電線が必要なの。」


口で話しても分からないようで、お父さんは首を捻る。私は地面に木の枝で絵を描いて説明する。


「なるほど。理屈は分からないが、ルシアのやってほしいことは分かった。ただなぁ。その電柱?というのを立てるのは難しいぞ。」


むむむ。やっぱり木属性があっても第1階級とかじゃないと電柱を立てるのが難しかったりするの?


「ん、まぁ、それもあるが…。1番は木の無いところに電柱を立てることだ。電柱があると荷馬車が通れなくなるんじゃないか?」


たしかに、木の無い場所は皆が使う道ぐらいだ。電柱が邪魔をして誰も荷馬車を使えなくなってしまう。


「じゃあ、電線用の道と荷馬車用の道を作るとか…?」


「人が通れば自ずと整地されるが、電柱は整地してくれないんだろう?」


私なりにアイデアを出してみたけど、お父さんに苦笑されてしまった。


でも電線に木が触れれば山火事や感電の危険があるから、そこは譲れないんだよね。


「ううう、どうにかならないかな。」


「そうだな。まずはお(ばあ)に相談しに行こう。良い方法があるかもしれない。」

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