4-3. 水属性について
んんん。なんか良い香りがする。
「ふふっ。いま起こそうと思ってたのよ。お昼ごはんのタイミングで起きるなんて、あなたらしいわ。」
私は恥ずかしくなって、ぷくーとふくれてみせた。ごはんと聞いて、私はふと疑問に思っていたことを聞く。
「スープとか水やりとか、何にでも水は必要なのに、なんで水を汲まないと手に入らないの?」
私はまだ休んでいるホタルを撫でながらお母さんに聞く。お母さんは、王都だとみんな知っていて当たり前なのだけど、と前置きをして話し始める。
「水属性があるのは知ってるわね。水属性はこの国の王族をはじめ、王都に住む人の割合がすごく大きいの。」
たしかに、このあたりで水属性の人は見たこと無いかも。
「だからなのか、王都には水が豊富だけれど、王都から離れた場所ほど水が無いのよねぇ。」
お母さんは頬に手を当て、困ってしまうわよね、なんて呟いている。
じゃあ、王都だったら苦労して水汲みしなくて良いってこと?なにそれ、うらやましい。
「王都って、いいなぁ。」
ガタタッ
大きな音がして、驚いたホタルがバタバタっと飛んだ。振り返るとお母さんが緊張した表情を私を見ている。
「ルシア!」
な、なに?
お母さんが大きな声を出して私を呼んだ。何かに怯えているみたいだ。
「王都に…、いきたいの?」
お母さんが強く両手を握りながら、ゆっくりと私に尋ねた。私はうーんと悩みながら答える。
「王都のことはよく分からないけど、今より生活が便利になるなら行きたいかなぁ。」
返事をする私を、お母さんとホタルが様子を伺うように静かに見ていた。
…お母さん、どうしたんだろう。
お母さんは意を決したように固い表情で話す。
「確かに王都の方が便利なことが多いわ。けれど、王都は色んな人がいて、今のようにルシアが穏やかに暮らせるかは分からないの。いつか王都に連れていくから、今は待っていてくれるかしら。」
まるで私に言い聞かせているみたい。ひとことずつ丁寧に、ゆっくりと私に伝えた。
私が属性なしだから危ないってことかな。何かがあっても、属性なしじゃ対抗できないもんね。王都に行けないのなら、やっぱりここでの生活を改善していくしかないみたい。
「大丈夫。そこまで行きたいわけじゃないよ。」
お母さんを安心させるために、私は宣言する。お母さんの顔はまだ強ばっているけれど、先程よりも少し力が抜けたように思う。
生活改善といえば。私は電動水汲みのことを思い出した。サーヤには見せたけど、お母さんにはまだ見せてなかったな。
「ねぇ、水汲みが楽にできたらうれしい?」
「え?そ、そうね。水汲みが楽なら、誰でもうれしいわ。たくさんお水があれば、朝にも洗顔できるわ。」
お母さんは頬に手を当てて洗顔の真似をする。お水は貴重だから身体を洗うのはタライ1杯の水で1日1度だ。どうも、お母さんにはそれがつらいらしい。
よし、お母さんにも電動水汲みを紹介しよう。
「このあと、一緒に井戸まで行ってくれる?」
ずぶ濡れで帰ってきたこともあって、すぐにお母さんは了承してくれた。
私は肩にホタルを、お母さんは荷車に火リスと水を入れる用の大きなタライを乗せて歩く。
「あれ?サーヤだ。」
井戸に向かう途中、サーヤとサーヤのお母さんに会った。ちょうどパン屋に来る途中だったらしい。
「ルシア。昨日やってた水汲みの仕方、教えてくれない?」
サーヤ達は井戸で電動水汲みを使おうとして出来ずに、私に使い方を聞きにきたらしい。
そういえばサーヤにホタルのこと話してなかったね。ついでなのでサーヤたちも一緒に井戸に向かった。
「井戸のロープは上に取り付けたモーターで動くんだけど、モーターはこの"ホタル"に動かしてもらってるの。」
井戸に着くと私はモーターとホタルを紹介した。私の手のひらにのったホタルが『えっへん!』というように、お尻をピカピカさせている。ふふ、かわいいなぁ。
「やっぱりそうなんだ!属性の力かなとは思ってたけど。相棒が出来てよかったね。」
サーヤが両手を合わせて、自分のことのように喜んでくれる。
「そっか!私、ホタルと相棒になってたんだね。」
私はニコニコとサーヤと笑い合っていた。そのとき。
「ちょっと待ちなさい!」
お母さんが大きな声でわたしの話を遮った。
「もう属性の力を使ったの?そのとき、あなたに怪我はなかったの?」
お母さんは勢いよく捲捲し立てた。最近、お母さんが声を荒げることが増えた気がする。
サーヤが慌てて私とお母さんの間に割って入った。
「私、ルシアの水汲みを見たけど、全然危なくなかったよ!むしろ勝手に動いてくれるから楽そうなぐらい。ルシア、1回見てもらおう?」
サーヤが私の擁護をしてくれた。お母さんはまだ不安そうな顔をしていたけれど、周りの目もあって、しぶしぶというように私から少し離れた。
「じゃあ、まわすね。」
私はホタルと一緒にモーターに電気を送り込み、井戸の水を汲んだ。お母さんを見ると、さっきの勢いは無くなって、ずっと黙っている。私に危険が無いことがわかって安心してくれたのかな。
「ねぇ、ホタルは何属性なの?私の木テントウムシにも同じことが出来るの?」
サーヤ肩に乗っている木テントウムシを撫でながら、キラキラした顔で私を見た。
ホタルの属性かぁ。
モーターが動くなら属性はなんでも良いかな、なんて思ってる私は、お母さんに助けを求めた。
「そうねぇ。ホタルは結局、ロープやバケツを動かしているのよね?それなら木属性かしら?でもこんなにも操作が出来るなら第2階級以上かもしれないわね。」
お母さんにも良く分からないようで歯切れの悪い言い方をしていた。
「私の木テントウムシは第3階級だから出来ないってことだね。」
サーヤがしょんぼりとした。
生き物の属性の力の強さは4段階で区分されていて、第3階級は第2階級よりも力が弱く、属性物の操作が劣る。
「第2階級以上だなんて珍しい生き物、私は初めて見たよ。こんなに操作が出来るなんてねぇ。よかったねぇ、ルシアちゃん。」
サーヤのお母さんが私とホタルを褒めてくれる。そんな風に言われ慣れてなくて、私は照れてしまう。
第2階級の相棒持ちは少なくて、村にはひとりもいないし、街でもチラホラいるぐらいなんだそうだ。
「うん。ホタルに会えてよかったよ。全部ホタルのお陰なの。ありがとう、ホタル。」
ホタルが『うれしい!』というように、クルクルと宙を舞い踊っている。ホタルも褒められてうれしそうだ。
「じゃあ、これからの水汲みはルシアとホタルにお願いしようかな?」
「もちろん!いいよね、ホタル?」
ホタルはピカピカして頷いてくれてるみたい。『もちろんだよ!』って言ってくれてるのかな?私は嬉しくてホタルを撫でた。
そして。
このときの安請け合いを、私はすぐに後悔することになる。




