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過去話 サーヤとアレクの出会い

少し前のこと。


今日はサーヤがひとりで街に行く、はじめての日。


「よおし。今日は売り物も少ないから、早く着けたら少し街を回れると良いな。」


道中はすごく順調で、あっという間に街に着いた。


「さて、と。さっそくギルドに行って売ってしまおう。」


ひとりでも大丈夫そう。サーヤは少し肩の力を抜く。気付かなかったけれど、緊張していたみたいだ。


「あ、あのパン屋、たくさんの種類を置いてる。ルシアに買って帰ったら喜ぶかな?帰りに寄ってみようかな?…って、うわぁ!」


ドンッ、ガシャンッ


ついよそ見をしていたら、側道の石に荷馬車がぶつかって、たくさんの作物が転がり落ちてしまった。


「大変!早く拾わなくちゃ。」


サーヤは焦って地面にしゃがみこみ、ひとつひとつ拾い上げていく。軽いものは随分と遠くまで転がってしまい、広い範囲で道を占拠してしまっている。早く早くと気持ちばかりが()いていた。


「はぁ。こんなことで往来を塞ぐなど。これだから教育のなっていない者はダメなのだ。」


そんな声を耳が拾ってしまい、つい声の主の方を見上げた。そこにはサーヤが落とした作物のせいで前に進めなくなった馬車から、顔を覗かせてこちらを見る紳士がいた。紳士は帽子を被っており、ツバの下から見える眼は、サーヤを蔑むように冷たかった。サーヤは蛇に睨まれた蛙のように、身体は強張らせた。


「あ、あ、…。」


村ではそんな風に言われたことは無かった。皆が大きなひとつの家族のようで、そんなことをサーヤに言う人はいない。加えて、馬車や紳士の格式高い様子は、サーヤにとって全く親しみの無いもので、威圧感となってサーヤを襲った。


こわいこわいこわい。


とてつもない恐怖心により、サーヤは顔を上げることはおろか、落としたものを拾うことすらできなくなっていた。


「ゆっくりで良い。」


そのとき、サーヤと紳士風の男性の間に割って入る人がいた。それがアレクだった。


サーヤの視界から紳士風の男性がいなくなり、アレクの低く優しい声が、サーヤの耳に届く。サーヤはゆっくりとアレクに視線を合わせた。気付かないうちに息を止めていたらしい。浅いながらも、何度か意識して呼吸を繰り返せば、肺が空気で満たされるのが分かった。


「あ、あの…。」


「立てるか。」


アレクはサーヤの手をそっと取り、ゆっくりと立たせる。サーヤがひとりで立っていられることを確認すると、作物をひょいひょいと荷馬車に戻していった。


「…あ!すみません、拾ってもらってしまって!ありがとうございます!」


アレクが拾う間、サーヤはぼうっと眺めていただけになってしまい、申し訳なくなり謝った。


アレクは最後の作物を拾い終わると、気遣わしげにサーヤを見てから会釈し、通りを歩いていった。


「また、きちんとお礼を伝えたいな。」


それからは、街に行く度にアレクを探した。でも全くと言っていいほど、姿を見かけることすら無かった。


「どうして会えないの。もしかして、お店をやっていて、あまり通りには出てこないとか?」


それからサーヤはしらみ潰しに店を見て回った。高級なお店は、なかに入れないから外から見るだけ。


「あ、あのときのパン屋さん。」


サーヤがよそ見をしていて、荷馬車をぶつけて作物を落とした場所だ。いつもこの辺りを通るときは自然と早足になる。まだあのときの、身がすくむ気持ちは無くなっていない。また、あんな風に言われ、あんな風に見られてしまったら。そう思うと怖くなってしまう。


「でも、今日こそ、あのひとを見つけるんだもの。」


いつもはうつ向きがちに早歩きで過ぎるこの通りにもいくつかの店がある。そのなかのどれかに、あのひとがいるかもしれない。サーヤはぐっと顔を上げ、周囲の店を見て回る。


そして、サーヤは金物屋の扉を開いた。


見つけた!


店のなかにはアレクがいて、サーヤはすぐに気付いた。


「あの、あのときはありがとうございました!」


いきなりお礼を言ったサーヤに、アレクは何のことか、と驚く。助けてもらったことをサーヤが話すと、顔は覚えていないが出来事については覚えていたらしい。


アレクは安心したように目を細めて笑う。


サーヤは少し恥ずかしくなって、うつ向いてしまう。ふと、少し傷んでるせいで売り物にならなかった柿が目に入る。


「あの、よかったらこれ食べてください。うちで育てた柿なんです。…あ、少し傷んでますけど。」


どうしよう。つい目に入った柿を差し出しちゃったけど、傷んでいる果物を渡すなんておかしいよね。


怒ってないかな?と、サーヤは恐る恐るアレクを見た。アレクは少し驚きながらも、さっきと同じ優しい目で笑って言った。


「ありがとう。」


ーーー


後日。


サーヤが街のパン屋の前を通るとき、ほかの場所よりも少しだけ、歩みが遅くなっていた。

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