三六四 地底深く
ムオーーーーン、オーーーーム、オーーーードゥ・・・
岩肌をくり抜いて作られた祭壇の前で、ミザイ・ゴ・ミザイは祈りを捧げていた。
その背後、右側にラギラ・ゴ・ラギラが、左側にリライ・ゴ・リライが立ち、共に祈りを捧げている。
祭壇の真ん中に置かれた水晶を囲むようにしてロウソクの炎がゆらゆらと揺れ、真っ暗な空間のそこだけが、ボンヤリと浮かんで見えるのだった。
ムオーーーーン、オーーーーム、オーーーードゥ・・・
ミザイ・ゴ・ミザイは静かに目を開け、祈りをやめる。
ラギラ・ゴ・ラギラ、リライ・ゴ・リライも祈りをやめ、顔を上げてミザイ・ゴ・ミザイの次の動作を待った。
ミザイ・ゴ・ミザイはゆっくりとした動作で二人に振り返ると、威厳のある態度で静かに口を開いた。
「神は言った。
晴天の空は切り裂かれ、天と地が入れ替わる。
異端の者が神の使いを殺し、世界は秩序を失う。
混沌と混乱は狂気を生み、人は騙し合い、殺し合うだろう。
ああ、なんと愚かなことか。
生と死の狭間で人はもがき、
光と闇の狭間で人は神にすがりつく。
しかし、神はもはや何も語ることはない。
神は黙ってそれを見る。
神は時が来るのをじっと待っている。
祈りを捧げよ。
祈りだけが、天に届く声なのだ。
祈りを届けよ。
その祈りが聞き届けられたとき、
罪は赦され、
神は再び使者を遣わし、
汝に力を与えるであろう。
・・・
これは、我が爬神族の祖であるグレド・ゴ・グレドが死の間際に見た夢として伝えられているものだ」
ミザイ・ゴ・ミザイは重々しい口調で、その預言めいた言葉を伝えた。
グレド・ゴ・グレドのその言葉は不吉なものとして、代々最高爬神官のみに伝えられてきた言葉だった。
「まるで、今を預言しているような言葉です」
ラギラ・ゴ・ラギラは驚き、目を見開いた。
「遥か昔、グレド・ゴ・グレド様は、今のこの状況を見ていたということでしょうか」
リライ・ゴ・リライは信じられないといった表情でそう聞き返し、ミザイ・ゴ・ミザイを見つめた。
「私に言えることは、グレド・ゴ・グレドの語った言葉が、まさに現実になってしまったということだけだ」
ミザイ・ゴ・ミザイは無表情に淡々と答える。
リライ・ゴ・リライにはミザイ・ゴ・ミザイのその落ち着きが理解できなかった。
「もし、グレド・ゴ・グレド様の見た夢が預言であったとしたなら、今回のことを未然に防ぐことはできなかったのでしょうか」
リライ・ゴ・リライが首を傾げて問いかけると、ミザイ・ゴ・ミザイの表情は険しくなり、その目つきも鋭くなる。
「私はできる限りのことはした。今にして思えば・・・ということも山のようにある。しかし、預言が正しいのなら、どうやってそれを防ぐことができようか。起こることは、起こるのだ。見えない力が水晶を使って預言の一つを成就させたとしか私には考えられない。私は水晶の力を信じ、水晶が見せる有り様によって、判断を下してきたからだ」
ミザイ・ゴ・ミザイは起こった出来事に対する納得のいかない感情を押し殺すように、地を這うような低い声で一つひとつの言葉を吐き出し、反論を許さない厳しい眼差しでリライ・ゴ・リライを睨むのだった。
リライ・ゴ・リライはミザイ・ゴ・ミザイのその迫力に気圧されながらも、あることに気づくと、
「それならば我々にできることは・・・」
と呟いてミザイ・ゴ・ミザイを見つめ返した。
ラギラ・ゴ・ラギラもそれに気づいてはっとし、
「預言を最後まで成就させること・・・」
そんな声を漏らすのだった。
ミザイ・ゴ・ミザイは二人に重々しく頷くと、怒りに声を震わせながら預言の結末を示した。
「そうだ。預言が成就されたそのとき、神は再び我々の元へドラゴンを遣わすであろう。そのとき、我々は神兵たちを蘇らせ、再びドラゴンの絶対的な力と共に世界を支配するのだ。愚かな異端者の末裔たちは地獄の炎によって焼かれ、神に背いたことを後悔することになるのだ」
ミザイ・ゴ・ミザイは恐ろしいほどの憎しみに満ちた眼差しでそう告げると、その片頬に残酷な笑みを浮かべた。
ラギラ・ゴ・ラギラとリライ・ゴ・リライはミザイ・ゴ・ミザイのその表情を見て安堵し、冷たい笑みを浮かべてその目を輝かせるのだった。
ムオーーーーン、オーーーーム、オーーーードゥ・・・
地底の闇の中から、爬神の祈りが神に捧げられる。
その祈りの声に気づく者はいない。




