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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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三六三 サムイコク、万歳!


 サブの涙にタケルは驚き、


「どうした?」


 と声をかけ、アジもサブを気にしてその様子を窺う。


「スラム出身であるサスケを、治安部隊の部隊長にまで引き立てていただき、心から感謝しています。サスケも部隊長として死ねたことを誇りに思っていると思います」


 サブは声を震わせ涙の理由を告げ、深く頭を下げた。


 タケルはそんなサブに優しく語りかける。


「人間の価値を決めるのは何だろうか。この肉体だろうか。それともこの肉体に宿る魂だろうか。どんなに素晴らしい肉体を持っていたとしても、そこに宿る魂が卑しければ、その者は卑しい人間に違いない。どれほどみすぼらしい肉体であったとしても、そこに宿る魂が高潔なら、その者は高潔な人間だろう。この肉体に宿る魂こそが、その人物の評価を決める唯一のものじゃないだろうか。血とか出自とか、そんなものに(とら)われるのは、この肉の体に囚われているからだ。肉の体なんて、いずれ朽ち果て消えていくものだ。消えてなくなるものは、そもそも存在しないものと同じだ。肉の体なんて、その程度のものに過ぎないのだ。そんな価値のないものに囚われて、人を見誤ることほど愚かなことはない。私は、サスケの魂に惹かれたのだ。私はサスケを心から尊敬していたし、サスケほど優れた男を見た事もない。私とアジが、サスケを部隊長に抜擢したのは当然だったし、治安部隊の兵士たちの誰もが、サスケの人柄と能力に魅了されていたということを、知ってほしい」


 タケルが熱くサスケへの想いを語ると、


「ありがとうございます・・・私たちスラム出身の者にとって、これほど有難いお言葉はありません・・・」


 サブは心から感謝し、肩を震わせ涙するのだった。


「サスケは、我々の誇りだ」


 アジはきっぱりとそう言い、涙するサブを温かく見つめた。


 ケンタ・ナガサはこのやり取りを聞いて驚き、そして、強い感銘を受けていた。


 今回の遠征を通じて、ケンタ・ナガサはタケルの人柄に魅了された人間の一人ではあったが、今の話を聞いて、タケルという男が、自分が思っていた以上に懐が大きく、人を惹きつける魅力に溢れた人物であるということを思い知ったのだった。


 そしてそのタケルが、これからのサムイコクを導いてくれることを思うと、背中がゾクゾクとし、頭髪が逆立つかと思うほどの喜びを感じるのだった。


 食事を終える前に、タケルとアジは西地区の部隊長たちのところに行って、労いの言葉をかけることにした。


 西地区の部隊長たちは車座になってしんみりと食事を摂っていた。


「私とアジも交ぜてもらっていいか」


 タケルはそう声をかけて車座に加わった。


「どうぞ、どうぞ」


 部隊長たちは喜び、少し輪を広げて二人に場所を空けた。


 西地区の遠征隊では、第十部隊隊長のジロウ・サカミと、第十二部隊隊長のサスケが壮絶な死を遂げていて、第十一部隊隊長シノブ・ウエタ、第十三部隊隊長オサム・ミキノ、第十四部隊隊長タケ・フコシは無事だった。


 つまり車座といっても三人しかいなくて、どことなく寂しい感じだったのだが、そこにタケルとアジがやって来たので部隊長たちはそれを喜び、場の雰囲気も明るくなった。


「焼き魚は食べた?」


 タケルがそう声をかけると、


「ああ!食べました、食べました。あれは美味かった」


 シノブ・ウエタはその味を思い出し、とろけた顔でそう答えた。


「さすが奉仕者の作った料理です。どれも美味しかったですけど、焼き魚のあの味付けは見事でした」


 オサム・ミキノは奉仕者たちの腕前に感心し、


「今までで一番美味しかった。ウオチで食べるより美味かったです」


 タケ・フコシはその味を称賛した。


「奉仕者たちの行為は常に神に捧げるものだから、その仕事はどれも一流なんだろうな」


 アジはそう言って奉仕者たちの仕事を高く評価し、


「奉仕者たちは国に帰ったら、料理人に限らず、どの分野でも優秀な人材として活躍してくれるはずだ」


 タケルは奉仕者たちの活躍に期待した。


 奉仕者たちはスラム出身者や貧しい生まれの者がほとんどだった。その奉仕者たちに活躍の場を与え、その能力の高さを知らしめることで、彼らの出自に対する偏見が尊敬の念に変わることを願わずにはいられない。


「奉仕者たちは我が国にとって宝のような存在だ」


 タケルはしみじみとそう言う。


 国に帰ったらムサシと相談し、適材適所で奉仕者たちを活用するつもりだ。


「タケル様、アジ様」


 シノブ・ウエタが急に真顔になり、タケルとアジに体を向け、両手を床についた。


 二人が視線を向けると、


「我々西地区治安部隊で、サスケのために墓を建ててやることはできないでしょうか」


 シノブ・ウエタはそう懇願し、深く頭を下げたのだった。


 それに合わせるように、


「お願いします」


 そう言って、オサム・ミキノ、タケ・フコシも両手を床について深々と頭を下げた。


 タケルとアジは彼らの想いに胸を打たれた。


 それは身寄りのないサスケを想ってのことだった。


 今のままではサスケに墓は建てられず、ひっそりとどこかに埋められるだけだろう。


 それではあまりにもサスケが可哀想だ。


 そういう想いから、シノブ・ウエタ、オサム・ミキノ、タケ・フコシの三人は、西地区治安部隊として墓を建て、サスケをきちんと葬ってやりたい。


 そう願っているのである。


 当然、国として今回の遠征に参加した戦死者のための墓苑は作られるだろうが、それは身元の判別がつかない遺骨を納めるための墓苑であって、個人としての墓はそれとは別だった。


 その三人のサスケへの想いに、


「わかった」


 タケルはそう応えて頷き、


「サスケも喜んでいると思う」


 アジはそう言って頭を下げた。


 友を想う気持ち、仲間を想う気持ちは尊い。


 タケルはしみじみそう思う。


 その後は、ジロウ・サカミやサスケの思い出話に花が咲いた。


「サスケは人の心が読めるのだろうか、そう思った事が何度もあります」


 オサム・ミキノがそう言うと、


「あ、私もある」


 タケ・フコシがそれに同調した。


「私は体の具合の悪さを指摘されて驚いたことがあります」


 シノブ・ウエタは嬉しそうに言う。


 彼らが語るサスケにまつわる不思議な出来事は、サスケと長く過ごしてきたタケルとアジには当然心当たりのあることだった。


「私にも同じ・・・」


 と、タケルが言いかけたとき、そこに奉仕者たちが酒を運んで来て、一人ひとりにコップ一杯の酒を手渡していった。


 酒の入ったコップを受け取ると、皆の関心が酒に向かい、サスケの話はどこかに飛んでいってしまった。


 奉仕者たちが酒を配り終わると、広間の兵士たちの視線がタケルを探していた。


 酒は、食事の締めの合図だった。


 タケルは立ち上がって広間を見渡し、締めの挨拶をする。


 タケルは大きく息を吸い、それをふーっとゆっくり吐いて気持ちを落ち着けてから、口を開いた。


「私はここにいる皆さんのことを誇りに思います。そして、ここにはいない、今、東ガルウォで治療を受けている者たち、戦場に散っていった者たちを、誇りに思います。この遠征に参加したすべての兵士は、賢烏族の未来のために、その命を惜しまず、死力を尽くして爬神軍と戦いました。かつて、爬神族に反旗を翻すことを考えた者がいたでしょうか。世界が変えられるなんて、誰が想像したでしょうか。誰も考えもせず、誰も想像すらしなかったことを、我々は成し遂げたのです。我々は勝利したのです。これほど誇らしいことがあるでしょうか。我々の示した勇敢さと、誇りある精神は、子々孫々語り継がれることになるでしょう。私は、皆さんが誇らしい。皆さんと共に築いていく未来が、素晴らしいものになることを、私は確信しています。そして、私を信じ、命懸けで戦ってくれた皆さんに、心から感謝します」


 タケルはそこまで言うと、広間の兵士たちに向かって頭を下げた。


 広間はしんと静まり返っていた。


 タケルの言葉は、兵士一人ひとりの胸に響いていた。


 タケルは顔を上げると、改めて兵士たちを温かい眼差しで見渡した。


 それから満面の笑みを浮かべると、


「いよいよ明日、ここを発ち、サムイコクに帰ります。途中、セダイで祝宴を開いてもらえるようです。それも楽しみにしつつ、胸を張って帰還の途につきましょう!サムイコク、万歳!」


 タケルは目を輝かせて声を張り上げ、手に持つコップを顔の高さに掲げてから、それを一気に飲み干した。


「サムイコク、万歳!」


 広間の兵士たちも一斉に叫び、手に持つコップを顔の高さに掲げてから、それを一気に飲み干すのだった。


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