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第七章「再捜査」

 一方――再捜査を決めた山岸は、中島と鑑識二名を伴い、現場へと向かっていた。

車内。

「田所さんのお陰ですね。危うく冤罪を作るところでした」

助手席の中島がしみじみと言う。

山岸はハンドルを握ったまま小さく息を吐いた。

「まったくだ。また、アイツに借りが出来ちまった」

「別にいいじゃないですか」

軽く言う中島に、山岸は顔をしかめる。

「よくねえよ。アイツに無理難題を吹っ掛けられるのは俺なんだぞ」

「無理難題って……そんなにですか?」

「ちょっと前もな、あいつに頼まれて他の所轄の捜査資料を持ち出さにゃならなくなって大変だったんだ」

「それも事件がらみですか?」

「ああ。元は一般の依頼だったんだがな」

山岸は少しだけ笑う。

「その時も、自殺で片付けられてた事件の犯人を、事務所から一歩も出ずに見つけやがった」

「本当に優秀なんですね……」

中島は感心したように言う。

「探偵じゃなくて警察官になってくれてたら、未解決事件も減るかもしれないのに」

「無理だな」

山岸は即答した。

「アイツ、高校中退して引き籠ってたから学歴が無いんだよ」

「意外ですね。大学院とか出てるのかと思ってました」

「学歴が全てじゃないって事だ」

短く言い切る。

 やがて車は現場のマンションに到着した。

四人はエントランスを抜け、関根の部屋へ向かう。

室内は既に規制線が張られており、最低限の整理はされているが、大きく手は加えられていない。食卓の料理は片付けられていたが、それ以外はほぼ発見当時のままだった。

 山岸はリビングに入ると、周囲をゆっくり見渡す。

床、ソファ、テーブル、そして――ゴミ箱。

ふと、その中に視線が止まる。

「……おい」

中島が顔を向ける。

山岸はゴミ箱を指差した。

「これだ」

中には一本のワインボトルが見える。ラベルは同じだが、テーブルの上の写真に写っていたものとは状態が違う。

山岸は振り返る。

「このワインボトル、指紋と血痕を調べてくれ」

「分かりました」

鑑識が手袋をはめ、慎重に取り出す。

そのまま周囲の検証が進められる。

 しばらくして、山岸のスマートフォンが鳴った。

「田所か。どうした?」

『現場に置いてあるノートパソコンを調べたいんだ』

「今ちょうど現場に来てる。俺と中島はこのあと聞き込みに行くから、鑑識に頼んで持って行かせるよ」

『丁度いい。今、開いてみてくれるか?』

「分かった」

山岸はテーブルの上に置かれていたノートパソコンに手を伸ばし、慎重に開いた。

画面はスリープ状態から復帰するが、ログイン画面で止まる。

『そこに血痕が付いてないか見てくれ』

「分かった」

山岸は顔を上げる。

「おーい、ALSライト」

「はい」

鑑識が紫外線ライトを用意し、キーボードとパームレスト周辺を照らす。

すると、肉眼では見えなかった痕が青白く浮かび上がった。

「……出ましたね」

「血痕、あったぞ。拭き取った跡がある」

山岸が言う。

『電源は入ってるか?』

「ああ、入ったままだ。ただ、パスワードを入力しないと中には入れない」

『他に何か変わったところはないか?USBメモリが挿さってたり、SDカードが入ってたりとか』

山岸はパソコンの側面を確認する。

ポート、スロット、周囲。

「特に変わったところは……ないな」

ふと、底面に貼られたラベルに目が止まる。

「これは……管理番号か。会社支給のパソコンだな」

『じゃあ、会社側でパスワードを管理してる可能性が高いな。聞いてみてくれ。分からなければ解析に回せばいい』

「分かった」

『直前の状況を見たい。電源は切らない様にしてくれ』

「ああ、分かってる」

通話を切る。

山岸はすぐにスマートフォンを操作し、アーバンプロモーション株式会社へ連絡を入れた。

応対に出た高木に事情を説明し、パスワードの確認を依頼する。

さらに続けて言う。

「それと、営業部の山田、経理部の石川、営業企画部の内海。この三人に話を聞きたいので会社にいるようにしておいて下さい」

 通話を終え、山岸は振り返る。

「このPCは電源を落とさずにそのまま持ち出せるか?」

「はい、可能です」

「じゃあ頼む。パスワードは後で伝える」

「了解です」

 鑑識二名はノートパソコンを慎重に梱包し、電源を維持したまま運搬の準備に入る。

山岸は中島に目を向けた。

「行くぞ」

「はい」

 二人は現場を後にした。

向かう先は――アーバンプロモーション株式会社。

“解決したはずの事件”の裏側に、もう一つの影が浮かび上がり始めていた。

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