36.何がいけなかったのか
王城の執務室で、ガリレイは上機嫌に口元を歪めていた。
「くくく……。デルトールの攻略が終われば、あの土地の民は全て我が財産だ」
机の上には地図が広げられ、その一帯には赤い印がいくつも付けられている。
「不毛の大地だろうと関係ない。奴らには昼も夜も働かせる。畑を耕させ、鉱山を掘らせ、税を搾り取り、使えなくなれば捨てればいい」
ガリレイの言葉に、側近たちも卑しい笑みを浮かべる。
「奴隷商にも流せますな」
「うむ。若い者は売り払い、年寄りは死ぬまで働かせればよい。人間など金を生む家畜に過ぎん」
ガリレイは黄金の杯を手に取り、中の酒を揺らした。
「デルトールの民が何人死のうが知ったことか。我の望みはただ一つ。あの土地から最後の一枚まで金貨を搾り取ることだ。泣こうが喚こうが働かせ続けろ」
欲望に濁った笑い声が執務室に響く。だが、その頃には既に、ガリレイの思い描く未来は崩れ始めていた。
扉が荒々しく開け放たれ、そこからデルトール地方の攻略に向かっていたリリアンヌとリンガーダが現れた。
「おぉ! 帰ってきたか! デルトール攻略は上手くいったか?」
その姿に喜びを表すガリレイ。だけど、二人は覇気のない顔をして俯いていた。
「そ、それが……兵士が丸ごと消えてしまい、戦いにはなりませんでした」
「なっ!?」
「そ、それに……ユマの能力で追い返されました。あれは……化け物です」
「な、なんだそれは!?」
まさか、ここでも貴重な戦力が消えるのか? いや、それよりもユマのことが気にかかった。あれは、極小の収納魔法しか使えなかったはず。
いや、今はそれよも攻略が失敗したことの方が大事だ。
「攻略を失敗したな、お前たち! 南方地方の村や町が消え、税収が半分もなくなった今、デルトール地方を攻略しないと国は崩壊するぞ!」
「デ、デルトール地方は無理です! ユマの能力がある限り、攻略出来ません!」
「それに向こうには追放した騎士団長と魔法師団長がいて、強すぎて手に負えません!」
聖女と剣聖という強いスキルを授かったのに、なぜ、こんなことを言ってくるのか分からなかった。ガリレイはそこで怒りが頂点になった。
「俺の手足にならなければ、お前たちは用済みだ! 一生、幽閉してやる! 衛兵、つれていけ!」
「そ、そんな!」
「あんまりだ!」
ガリレイがそう指示すると、衛兵が現れて二人を連れ去ってしまった。残されたガリレイは内心焦っていた。デルトール地方を攻略出来なければ、今のような豪華な生活が出来なくなってしまう。
何か、活路はないか。そう考えていると、再び慌てふためく部下たちが入ってきた。
「た、大変です!」
「今度はなんだ!」
「ベルルーガ国の侵攻です! 王都まで迫ってきています!」
「な、何っ!? どういうことだ!」
その知らせにガリレイは驚愕した。ベルルーガ国はこちらが領土の一割を占拠していたはず。有利だったこちらが、なぜ攻め入られているのか理解出来なかった。
「ぜ、前線の兵力の半分をデルトール地方へ移動したため、ベルルーガ国が押し返してきまして……」
「だ、誰だ! 兵力を半分も移動させた奴は!」
「そ、それに……前線に残った兵力がごっそりといなくなってしまい……」
「ま、また消えたのか!? どうして、色んな物が消えるんだ!」
まさか、前線の兵力まで消えるとは思わなかった。それにはガリレイは信じられない気持ちだった。
「それで、南方地方の村や町が消えたことにより、北上がスムーズに進んでしまい……王都まで軍が押し寄せてきています」
「ほ、本当にそこまで軍が迫ってきているのか!? くっ、だったら領民を盾にして、この場を逃げるぞ! すべての領民に武器を持たせ、突貫させるのだ!」
そう指示をした瞬間――目の前の景色が一変した。今まで豪華な執務室にいたというのに、外にいた。後ろを振り向けば王都が見え、前を向けばベルルーガの軍旗が迫ってきていた。
「――は?」
周りには誰もいない。ただ一人、ガリレイだけがベルルーガ軍の目の前に放り出されていた。
「あれは、アラカマン王国の王、ガリレイだ! 捕縛せよ!」
それを見ていた、ベルルーガ軍の将が声を上げる。すると、兵士たちは武器を手に持ち、一斉にガリレイに詰めかける。
「よ、よせ! お、俺は国王だぞ! こんなことをして、生きていられると思うのか!?」
ガリレイは必死になって声を上げたが、誰も聞く人はいなかった。大勢の兵士にのしかかれれ、拘束される。
「は、離せ! こんなことをして、分かっているのか! お前たちは全員殺してやるぞ!」
その場にガリレイの情けない声が響いた。こうして、ガリレイは拘束され、アラカマン王国の王都は陥落した。




