35.懲らしめてみた
それから時間はかかったが、兵士たちを全て寝返させることが出来た。敵兵がいなくなったと同時に、自国の兵士が新しく生まれて、二重の意味でみんなが喜んだ。
一人ずつ話を聞き、どこに住みたいかなど聴取をした。家族を呼び寄せたい人は家族がいる場所を詳しく聞いたり、移住の準備を進めた。
そんな忙しい時間を過ごしていた時、ふと思い出したことがある。そういえば、リリアンヌとリンガーダはどうしたのだろうか?
兵士が全ていなくなったから、もう国に帰ったか。それとも、まだこの土地を目指しているのか。気になった私は、二人の気配を探した。
すると、二人の反応がまだこちらの領土にあった。意識を向けると、二人は馬車を動かして、二人だけで侵攻してきていた。
もう少しで、町に辿り着く。このまま二人を野放しにしていたら、町が破壊されてしまう。リンガーダは剣聖、リリアンヌは聖女。実力はあるから、放っておけない。
「うーん、どうしようかなぁ……」
「どうされました?」
「リリアンヌとリンガーダが町の近くまで来ているんだよね。このまま、向こうの王都に飛ばすことも可能なんだけど、それだけで侵攻を止めてくれるわけじゃないよねぇ」
「……そうですね。きっと、この侵攻は国王ガリレイの指示。そうでなければ、二人が動くことはありません。例え、王都に戻したとしても再び兵を率いて侵攻してくるでしょう」
「じゃあ、こっちに絶対に勝てない強い人がいるって分からせた方が早いかなぁ」
このまま戻したら再侵攻の可能性がある。出来れば、その可能性は潰しておきたい。あの二人を負かせてくれる人は――やはりあの二人しかいない。
「ビゼルとリゲートを呼んで」
「かしこまりました」
◇
目的の場所に移動をすると、目の前にゆっくり進む馬車が見える。私たちはその前に立ち、向こうが気づくのを待つ。
すると、こちらに顔を向け、叫び声を上げた。御者台から飛び降りると、二人は駆け寄ってきた。
「どうしてここに、ユマがいる!?」
「そ、それに……ビゼルとリゲートもいるじゃない! ど、どういうこと!?」
「どういう事って……私をここに追放したのはそっちじゃない。それも、忘れたの? 二人は追放されたから、私が拾っただけだよ」
「はぁっ!? い、意味が分からん!」
「もうここは私の土地だから、無暗に入らないで欲しいんだけど……」
「そ、そんなの関係ないわ! この土地のものは私たちのものになるのよ!」
二人は困惑しながらも、対峙した。リンガーダは剣を抜き、リリアンヌは杖を構えた。
「へへっ、ここでお前たちを懲らしめて、町まで案内させてやる!」
「身の程を知りなさい!」
「それは、どっちかな?」
したり顔で笑う二人に向けて、私も笑う。そして、瞬時に二人の武器を取り上げた。
「へっ? お、俺の剣は?」
「わ、私の杖は!?」
「これかな?」
「ど、どうしてそれを持っている!」
「か、返しなさい!」
私は二人の物を手にすると、収納魔法の外側に移動させた。それにより、小さな空間で一気に圧縮され――。
「じゃあ、返すね」
私は圧縮された剣と杖を二人の前に放り投げた。剣と杖は粉々に砕け、無残な姿で地面の上に転がった。
「なっ!? ど、どんなものでも切り裂ける国宝級の剣がぁぁっ!」
「国の英知を集めて作った、国宝級の杖がぁぁっ!」
二人は無残な姿になった武器を見て、絶望した顔をした。だけど、それだけじゃ、二人は侵攻を止めないだろう。ここは分からせなければならない。
「ビゼル、リゲート」
「お任せくだされ!」
「俺の力、見ててください」
二人を前に出すと、二人は武器を構えた。ビゼルには過去の英雄の鎧と武器を。リゲートには過去の大魔法師が使っていた強化指輪が。今までよりも強い力が備わっている。
「ま、待ってくれ! 剣、剣がないと!」
「杖がないと上手く魔法がっ……!」
二人は武器がなくなったことで、怖気づいてしまう。だけど、そんなことで見逃すほど私は甘くない。
「私の土地に侵攻してきたんだから、覚悟をしてきたんだよね?」
そう言うと、二人の表情が酷く強張った。
「どうなろうと、いいってことだよね」
笑顔を作ると、その表情が凍えて固まった。
「二人ともお願い」
私がそう言うと、ビゼルとリゲートが前に進み出る。二人が前に進み出ると、戦いはすぐに始まった。
最初に動いたのはビゼルだった。リンガーダが剣を持っていないこともあり、まともに戦えるはずがないと思っていたのだろう。
けれど、そんな考えは一瞬で打ち砕かれた。ビゼルが大剣を振るうたび、リンガーダは後ろへ吹き飛ばされる。
「ぐっ! な、なんだ、この力は……!」
何度も立ち上がろうとするものの、そのたびに叩き伏せられる。剣聖という肩書など、まるで意味をなさなかった。
「お前が剣聖だと名乗っていたのか?」
ビゼルの一言が、リンガーダの心をさらに折っていく。
「これでは、戦場で生き残ることすらできんぞ」
「そ、そんな……俺は剣聖なんだぞ!」
叫びながら立ち上がる。けれど、また一撃で吹き飛ばされた。
一方のリリアンヌも、リゲートの前では何もできなかった。杖を失ったことで満足に魔法を使えず、なんとか発動させた魔法も、リゲートが簡単に打ち消してしまう。
「そ、そんな……私の魔法が……」
「杖がなくては何もできないのか?」
リゲートが魔法を放つ。炎、氷、風。次々と繰り出される魔法に、リリアンヌは逃げ回ることしかできない。
「きゃあっ!」
足を凍らされ、転倒する。そこへ風の魔法が襲いかかり、地面を転がされた。
「わ、私は聖女よ! こんなことをして、ただで済むと思っているの!?」
「では、聖女の力を見せてみろ」
「……っ!」
そう言われても、何もできない。リゲートとの差は、あまりにも大きかった。結局、二人が立っていられた時間は長くなかった。
リンガーダは地面に倒れ、リリアンヌも泥だらけになっている。つい先ほどまで、自分たちがこの町を奪う側だと思っていた二人とは、とても思えない有様だった。
「そ、そんな……」
「私たちが……負けた……?」
二人は信じられないものを見るような目で、自分たちを打ち負かした二人を見る。かつて自分たちが追放した元騎士団長と元魔導士団長。
もう自分たちの敵ではないと思っていた二人に、今度は手も足も出ずに叩き潰された。
「これで分かった? この国に侵攻してきても、あなたたちじゃ勝てないんだよ」
「い、命だけは助けてくれ!」
「帰る! 王都に帰るから、助けてぇっ!」
私が前に出ると、二人は怯えたように声を張り上げた。これで、侵攻を諦めてくれればいい。その二人をその場に置き去りにして、私たちは居場所に戻っていった。




