37.訪れた平和
明るい執務室で、椅子に座ってお茶を飲む。のどかな時間に心がホッとした。
「ユマ様、おかわりはいかがですか?」
「じゃあ、貰おうかな」
隣にいるエリザが気遣ってくれるだけで、執務室だというのに心が落ち着く。お茶菓子を食べ、のんびりとお茶を飲んでいると――ノックがされた。
返事をすると、扉からクラリスが現れた。
「ユマ様、お待たせしました。ベルルーガ側との会談が終わりました」
「そう、ありがとう。それで、どうなったって?」
「ベルルーガ側はユマ様に感謝を示しておりました。長年、アラカマン王国からの侵略に耐え兼ねていたようです。今回、ユマ様の能力で王都を陥落させ、王族を捕縛出来たことをとても喜んでいるようでした。王族は公開処刑されるみたいです」
アラカマン王国の侵略を受け、私は注意深く王城を観察していた。聖女と剣聖を追い返したというのに、国王ガリレイはさらなる侵略を考えているのに気づいた。
これは、放っておいたら面倒なことになる。クラリスに相談するとベルルーガ国を使って、王都を陥落させることを進言してくれた。
別に自分で陥落させるのも良かったけれど、今後の国の立ち位置を考えると、その方が都合が良かった。
私が自分でアラカマン王国を滅ぼさなかったのには、いくつか理由がある。まず、私はそんな広大な国のトップになりたいわけではない。
土地が広くなれば、それだけ管理する場所も増える。住んでいる人が増えれば、税金や法律、治安、産業、食料……考えなければならないことも増えていく。
私は、今のユートリマ国くらいの大きさで十分だと思っている。自分の目が届いて、困っている人がいたらすぐに助けられる。そのくらいの規模が、私にはちょうどいい。
それに、アラカマン王国を丸ごと手に入れてしまえば、当然ながら周辺国から警戒される。
強大な国を作ろうとしている。そんなふうに思われてしまったら、今度は私たちが周囲の国から狙われるかもしれない。
だから、ベルルーガ国に協力してもらい、アラカマン王国の王都を落としてもらう。
そうすれば、私が領土を奪ったわけではない。ベルルーガ国にとって長年の脅威だったアラカマン王国を倒すために手を貸しただけ、という形にできる。
さらに、アラカマン王国の民たちを私の国に大量に移住させる必要もなくなる。私が助けたいのは、目の前で苦しんでいる人たちだ。
だからといって、世界中の人を私一人で背負う必要はない。それぞれの国には、それぞれの国の人たちがいる。その人たちが自分たちの国を立て直していけばいい。
その方が、私にとっても、きっとみんなにとっても都合がいい。
それに――私は湯気の立つお茶を一口飲んだ。今の暮らしを手放したくない。エリザとお茶を飲んだり、クラリスたちと相談したり、困っている人を助けたり。
そういうことが出来る今の生活が、私は気に入っている。わざわざ国を大きくして、毎日山のような仕事に追われる必要なんてない。
「うん。やっぱり、今くらいが一番いいかな」
「ユマ様らしいお考えですね」
エリザが微笑む。私はそんな穏やかな時間を守るためにも、これ以上面倒なことを増やさない方法を選んだのだった。
「クラリスもお茶していきなよ。もう、今日の仕事が終わったんでしょ?」
「まだ仕事は残っていますが……そうですね、前のように自分を追い詰めて仕事をするのはやめにします」
「では、テラスでお茶にしましょう。今、用意してきますね」
私が誘うと、クラリスは柔らかい笑みを浮かべてくれる。エリザは嬉しそうな顔をして、お茶の準備に励んでいった。
もう誰も、私たちを虐げる者はいない。これからは、自分らしく生きて、人生を謳歌していこう。




