32.気づかれてしまった
それから数日後。私はクラリスたちと共に、議会が開かれる大きな会議室へとやって来ていた。
広々とした部屋には、大きな円形の机が置かれ、その周囲には各分野を担当する大臣や、国の運営に関わる者たちが席についている。
これから、この国の未来を左右する重要な議題について話し合うことになっている。私も首相として席に着くと、隣にいるクラリスが立ち上がった。
「それでは、これより議会を開会いたします。本日の議題は――我が国の国防についてです」
クラリスがそう告げると、議会に参加した大臣や関係者たちが、一斉に表情を引き締めた。
「これまでは、各町に残されていた兵力によって、それぞれの場所を守ってきました。しかし、もはやそれだけでは不十分です。我が国全体を守るための、統一された防衛組織が必要となります」
「その通りですな」
「国がこれだけ大きくなった以上、当然でしょう」
何人かの大臣が頷く。クラリスは満足そうに頷くと、私へ視線を向けた。
「そこで、本日は我が国の国防を担う人材についても、ご紹介させていただきます」
クラリスが合図すると、議場の扉が開いた。そこから二人の人物が姿を現す。
一人は、群青色の鎧をまとった壮年の男性。そしてもう一人は、ローブをまとった青年。
「こちらの二人は、ビゼル殿とリゲート殿です」
二人は議場の中央まで進むと、静かに頭を下げた。
「ビゼル殿は、かつてアラカマン王国の騎士団長を務めていた人物です。そしてリゲート殿は、同じくアラカマン王国の魔法師団長を務めていました」
その紹介に、議場がざわついた。
「アラカマン王国の騎士団長……?」
「魔法師団長まで……」
「まさか、あの二人が?」
クラリスはそんな声を気にすることなく、話を続ける。
「二人は長年、ベルルーガ国との戦いの最前線に立ち続けていました。実際に戦場で指揮を執り、多くの兵士を率いてきた歴戦の人物です」
「そんな二人が、我が国に……?」
「はい。今後はこの二人を中心として、我が国の防衛体制を整えていくことになります」
その言葉を聞いた瞬間、議場から次々と声が上がった。
「それは心強い!」
「これ以上ない人材ではありませんか!」
「前線で長年戦ってきた二人なら、魔物への対策にも詳しいでしょう」
「戦争を経験しているのなら、他国の軍事事情にも詳しいはずです」
誰もが歓迎するような表情を浮かべていた。どうやら、二人が味方になったことを喜んでくれているみたいだ。
「お二人が我が国に来てくれたのは、本当に幸運でしたな」
「ええ。これほどの人物が国防を担ってくれるのであれば、安心して暮らせます」
「私も同意します。これで我が国の防衛について、具体的な計画を立てられますね」
そんな声を聞きながら、私は隣に座っているビゼルとリゲートを見た。二人は少し驚いたような顔をしていた。これまで、戦場で命を懸けて戦っても評価されなかった二人。
そんな二人が今は、この国で必要とされている。ビゼルは少し照れたように髭を撫で、リゲートは小さく息を吐いていた。
その表情を見ていると、二人をここへ連れてきて本当に良かったと思う。
「では、続いて具体的な国防体制について――」
クラリスが次の資料を取り出す。そして、議会は盛んな意見交換がされていった。みんな、国を思い、懸命にいい案を考えてくれていた。
「――では、アラカマン王国が我が国を認識しているのか、ということについて触れたいと思います。ユマ様、今はどのような認識を持っているのか調べていただいてもよろしいでしょうか」
その言葉に私は頷いた。昨日までの様子だとユートリマ国のことを知っていないようだった。だけど、もしかしたら今日は違うかもしれない。
私は意識をアラカマン王国の王城に向け、話し合いを探った。すると、王城で少しの騒ぎが起こっているのを見つけた。
その声を拾ってみると――。
『ほ、報告します! デルトール地方に大きな町が出来ています!』
官吏が慌てて国王ガリレイに報告をしていた。
『な、なんだと……! あそこは不毛な大地だったはず! いかようにして、そんな町が出来たというのだ!』
『そ、それは分かりません! ですが、偵察部隊を向かわせると、確かに町が発展しておりました』
『むむむっ……。いつの間に……。だが、我が属国にする土地が増えただけのこと。侵攻し、その土地を支配する!』
『はっ! そのように!』
ガリレイの命令に官吏たちは忙しそうに動き始めた。
『ベルルーガが思うように侵攻できていない今こそ好機だ! あの土地を奪い、そこに暮らす連中をすべて奴隷にしてしまえ! 働ける者は死ぬまでこき使い、価値のある者は高値で売り飛ばせ! 土地も財産も何もかも取り上げ、奴らが持つものを一つ残らず搾り取ってやるのだ!』
そう言って、ガリレイは笑い声を上げた。私はそこで意識を切って、現場に戻ってきた。
「……どうやら、アラカマン王国に知られてしまったようだね」
私の一声に会議室はざわついた。そして、あの国を良く知っている者たちは、顔を青ざめさせた。
「ま、まさか……侵攻してくる気じゃ……」
「うん、そのまさかだよ。私たちを狙って侵攻してくる気だよ」
「そ、そんな! まだ国防を整えていないというのに! これでは、侵略されてしまう!」
会議室にいる人たちはざわめいた。再び、酷い目に合わされるんじゃないかと、戦々恐々としていた。
「大丈夫。まだ騎士団や魔法師団が出来ていないけれど――私がいる」
そんなみんなに向けて私は言葉を向けた。国防の要がいない今、どうにか出来るのは私しかいない。
「絶対にこの国を荒らさせないから」
もう二度と、虐げられてやるものか。自由をこの手で掴み取るんだ。




