31.懐柔
二人を応接間に通すと、深いため息を吐きながらソファーに座った。
「このような綺麗な場所に通してくれるとは……」
「こんな場所に入るのは久しぶりだな」
二人はそれだけで感嘆とした様子だった。
「今までどうしていたの?」
「ベルルーガ国への侵攻を始めてから、前線から離れたことはない。ずっと、戦っていた」
「私も同じだ。前線の粗末な状況にずっと身を置いていたから、こんなに歓迎してくれたことが素直に嬉しい」
どうやら、二人は前線で酷使され続けた人らしい。そのせいで、普通の応接間でも感動を覚えているみたいだ。
「そうだ。自己紹介はまだだったね。私はユマ。一応、この国で首相をしているよ」
「わしはビゼル。騎士団長……だった者だ」
「俺はリゲート。魔法師団長をしていた。まぁ、その役目は解除されていると思うが……」
壮年の男性が騎士団長、青年が魔法師団長か……。かなり重要な役目を負っていたようだ。
「追放を言い渡され、殺されそうになったところを助けてくれて、感謝する」
「俺も感謝を……。あのままだったら、本当に殺されていただろう」
「あの場面を見ていて良かったよ。それで、二人はこれからの当てはある?」
「それは……何もないな。今まで戦う事しかしてこなかったから、どう生きていいか……」
「俺も似たようなものだ。自分の力を生かす場所があればいいのだが……」
そう言って、二人は俯いた。どうやら、行く当てはないらしい。これは、勧誘のチャンスでは?
「だったら、私の国で働かない? 丁度、外敵の驚異から守ってくれる人を探していたんだよね」
「国で……? だが、またわしを追放するのでは?」
「追放されるなら、一人でのんびり旅でもしていた方がマシだ」
どうやら、二人は疑心暗鬼になっているみたいだ。それもそうだ。今まで忠誠を誓っていた国にゴミのように捨てられたのだから。
「じゃあ、私が二人を重宝するって証拠を出すよ」
「証拠?」
「何か欲しいものを言ってみて。それを、必ず渡すから」
「欲しい、もの?」
口で説得するよりも、この方が分かりやすい。二人のために必要な物を用意する、というだけで信用度も変わってくるはずだ。
二人は難しい顔をしていると、先にリゲートが口を開く。
「では、一つ。その昔、大魔法師と言われたビビゼルという人が身に着けていた指輪をください。その指輪には無限の魔力と魔法の威力を高める特別な力があったみたいです。その指輪を手にしたい」
真剣な顔をしてそう言ってきた。どうやら、難しいものを頼んで、私を試す気だ。
「どこにあるか知っている?」
「ビビゼルは自分の死を予知すると、大霊峰ポポモルクに身を隠したと言われています。死後に指輪を悪用する人を恐れて……」
「なるほど、大霊峰ポポモルクね。ちょっと、待ってて」
話を聞いた私はすぐに意識を世界に向けた。大霊峰ポポモルクと言われた場所を探し出すと、その地域を観測した。
すると、とてつもない魔力を感じた。その場所にフォーカスすると、小さな洞窟の奥――岩にはめられた指輪を見つけた。きっと、これが言われていたものだ。
すぐにその指輪を手元に引き寄せた。目を開けると、私の手のひらには一つの指輪があった。
「はい、これかな?」
「ほ、本当に? ……少し確かめさせてくれ」
リゲートに手渡すと、しげしげとそれを確認した後、それを指にはめた。その途端、リゲートは驚いた顔をした。
「こ、この膨大な魔力! それに引き上げられる力! す、凄い! この世にこんなものがあったなんて!」
「どう? 約束のもので間違いない?」
「こんな尋常じゃない力、偽物なわけがない! これは本物だ! す、凄い! こ、こんなに簡単に手に入るなんて!」
「な、なんとっ!」
私たちのやり取りを見ていたビゼルが驚いて声を上げた。リゲートの歓喜の様子を見て、慌てたように私に声を掛ける。
「で、では……昔、魔王との戦いで生き延びた騎士が身に着け、持っていたという、ヒルセームの鎧と大剣を見つけられるか? いかなる攻撃も魔法も弾き、魔王を倒したと言われる大剣。その一式が、火山ドドルマンに沈められたと聞く」
「火山ドドルマンね……」
ビゼルの話に私は再び意識を飛ばした。火山ドドルマンに意識を飛ばすと、今も活発化していて、火口ではマグマがぼこぼこと音を立てている。
その中に意識を向けると、強い気配を感じた。そのマグマの下に意識を向けると、火山の内側のくぼみに何かが引っかかっている感じがした。
それをこちらに移動させる。すると、私たちの目の前には群青色に輝く鎧と大剣が現れた。
「この色はっ……伝承通り!」
「あっ、熱いから触らない方がいいよ。えっと、リゲートはこの熱を魔法で取ることは出来る?」
「もちろん」
リゲートにお願いすると、リゲートは魔法を唱えた。すると、冷気が鎧と大剣を包み込み、一気に熱が冷めた。
「もう、触っても大丈夫だ」
「ほ、本当か!?」
すると、待ちかねたようにビゼルがその鎧と大剣を触った。
「この強大な気配……伝承通りの姿かたち……。本当にヒルセームの鎧と大剣なのか! 装備してもいいか?」
「もちろん」
私が頷くと、ビゼルは自分の鎧を脱ぎ、ヒルセームの鎧をまとい、大剣を装備した。
「こ、これは……!」
ヒルセームの鎧をまとい、大剣を握った瞬間、ビゼルの表情が一変した。
「なんという重厚な鎧だ……! だが、重いはずなのに身体に吸い付くように馴染む! まるで、何十年も使い続けてきた自分の身体の一部のようだ!」
ビゼルは鎧の表面を撫でながら、信じられないものを見るような目をしている。
「それに、この大剣……! なんという力だ! この剣を握っているだけで、身体の奥から力が湧き上がってくる! これなら、今まで苦戦していた魔物でさえ、一撃で斬り伏せられそうだ!」
ビゼルはしばらく言葉を失ったあと、感極まったように笑った。
「ははっ……! まさか、この歳になってこんなものを身に着けられるとはな!」
その顔には、先ほどまで追放を告げられた男とは思えないほどの喜びが浮かんでいた。
「ユマ……いや、ユマ様! これほどの物を、わしに……?」
「もちろん。そのために、拾ってきたものだからね」
「で、では! 俺にもこの指輪を!?」
「うん、あげるよ」
そういうと、二人は感動したように喜んだ。そして、すぐに私の前で跪く。
「これほどの力を託してくれたのなら、わしは必ず応えよう。この命が尽きるその日まで、この国と民を守ることを誓う!」
「このリゲート、今日この時よりユマ様とこの国に忠誠を誓います! 授かったこの力も、この命も、すべて国と民を守るために使い、命ある限りユマ様にお仕えすることを誓いましょう!」
二人は生き生きと私に忠誠を誓ってくれた。これで、国の防衛を担うトップを仲間にすることが出来た。




