30.また、そうやって追放するんだ
どうやら、またあの人たちは誰かを追放しようとしているみたいだ。そこで私は、追放されそうな人を観察した。
傷だらけの鎧をまとい、傅いているのは、髭に覆われた壮年の男性。
長年にわたって戦場を渡り歩いてきたのだろう。鎧には無数の傷跡が刻まれ、鍛え上げられた身体からも、歴戦の騎士であることが伝わってくる。
けれど、その表情には疲労が色濃く浮かんでいた。顔には深い皺が刻まれ、目の下には濃い隈がある。長い戦いを終えたというより、戦い続けることに疲れ果ててしまったような顔だった。
『こんなに長い戦いを続けるなんて、あなたは本当に無能ね。これだけ時間をかけても敵を倒しきれないなんて、騎士団長としての能力がないとしか思えないわ。もう、これ以上あなたに任せておく価値なんてないわ』
その言葉を聞いた瞬間、男性の目が大きく見開かれた。
『……なん、ですと?』
歴戦の騎士とは思えないほど、戸惑った声だった。まるで、自分が何を言われたのか理解できていないようだった。
そして、もう一人。隣で傅いているのは、ローブをまとった青年だった。一見すると細身で、戦士には見えない。
だけど――青年の身体から、とてつもない魔力が感じられる。これほど濃密な魔力を持っている人を見るのは初めてだった。もし戦えば、私でも簡単には勝てないかもしれない。
それなのに、その顔にも疲労が浮かんでいた。整った顔立ちに、知性を感じさせる鋭い目。きっと頭の回転も速いのだろう。
けれど、目元には濃い疲れがあり、長い間休めていないことが一目で分かった。
『やっぱり、魔法は万能じゃねぇな。どれだけ魔力を持っていようが、これだけ長く戦いを続けて敵一匹まともに片付けられないんじゃ、何の役にも立たねぇ。口だけは一人前の魔法使いでも、実戦じゃこの程度か。そんな役立たずをこれ以上置いておく理由はねぇ。お前は今日限りで追放だ』
『……え? わ、私を追放ですか?』
青年は呆然と顔を上げた。信じられない。その表情には、そんな感情がはっきりと浮かんでいた。
強そうなのに、二人とも疲れ切っている。そして、そんな二人が今、追放を言い渡されている。
『そ、そんな……わしらを追放したら、ベルルーガの侵攻を止めれる奴がおりません! 今は何年もかけて、ようやく一割の領土を占領できたというのに!』
『何年もかけて一割だなんて、本当に無能ね! 一年で陥落させてない時点で、あなたは無能よ!』
『休みなく戦ってきて、これだけの領土しか占領出来ないんですよ。相手を侮ってはいけません!』
『お前たちが侮っていたせいだろうが! 俺が出ていけば、一瞬で制圧できるっていうのに……職務怠慢だ!』
傅いている二人は必死に訴えるが、リリアンヌとリンガーダには言葉が通じない。それどころか、まるで働いていないように言い放った。
それには、二人は絶望顔をした。きっと、今まで人生をかけて戦ってきたのだろう。そんな言葉を言われるとは思わなかったみたいだ。
呆然とする二人を見て、リンガーダがニヤリと笑う。
『今すぐ目の前からいなくならないと、俺の剣技で殺す!』
剣を目の前にチラつかせて、そう言った。だけど、二人はショックで身動きが取れず、傅いたままだった。
流石にこのまま放置はできない。追放されたんなら、私が拾っても問題ないってことだ。
「喜んで、拾わせてもらうね」
私は能力を使い、一瞬で二人をこちらに移動させた。その光景を見て、二人は目を見開いて驚いた
『なっ、いなくなった……だと!?』
『またなのっ!? どうして、こんなことが起こるのよ!』
リンガーダとリリアンヌは理解できないと困惑した様子だ。だけど、それに構っている暇はない。こっちには大事なお客さんが来たのだから。
「こ、ここは……」
「なぜ、私がここに……」
意識を元に戻すと、私の前には先ほどの二人がいた。困惑したように辺りを見渡していた。
「ようこそ、ユートリマ国へ。あのままいたら、殺されていたかもしれないよ。大丈夫?」
「ユートリマ国? も、もしかして……お主が助けてくれたのか?」
「転移の魔法で助けてくれたのか?」
声を掛けると、二人はすぐに状況を理解してくれた。私は頷いて肯定をする。
「あの場面を見かけちゃってね、見過ごせなかったんだよね。助けちゃったけど、それでよかった?」
「あ、あぁ……ありがとう。まさか、あんなことを言われるなんて思ってもみなかったから、すぐに行動ができなかったんだ」
「私も同じだ。追放されるなんて思ってもみなかった……。今まで尽くしてきたのに、こんな仕打ちになるなんて……」
どうやら、助けても大丈夫だったみたいだ。二人とも肩の力を抜いて、大きくため息を吐いた。
「とりあえず、心を落ち着かせてから話そうか」
「では、案内させていただきます。こちらへどうぞ」
私がそういうと、すぐにエリザが行動をしてくれた。その案内に二人は困惑しながらもついて行ってくれた。




