26.町が出来た
「よし、これで全員だね。目的地に向けて移動させるよ。帰りは午後五時になったら、一斉に戻すから」
そう注意すると、目の前に勢ぞろいした商会関係の人たちが頷いた。私が意識をして、移動先を捕捉する。そして、その移動先に紹介の人たちを一度に全部飛ばした。
すると、目の前にいた商会関係者はいなくなり、また静かな空気が流れた。
「ユマ様、お疲れ様です。しばらくは町との繋がりがなくなりますので、ユマ様の力で関係者を移動させてください。これにより、今まで通り……いえ、今まで以上に商売が捗ります」
私の国に新しく町が出来た。だけど、それにより町は断絶された。それを解消するためには、私が収納魔法の能力を使って、架け橋になることが必要だった。
これにより、今まで通りに他の町とのやり取りが可能になり、商売が出来る。いや、移動の手間が省けたから、その分活発になるらしい。
「ユマ様……仕事が増えて大変ではありませんか? 何か、手伝えることがありましたら遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう、エリザ。今、エリザに色々と手伝ってもらって助かっているよ。それに、ただの移動ならそんなに手間がないし、まだまだ増えても大丈夫」
「そんなこと言ったらだめですよ。ユマ様はまだ子供なんですから、周りの大人を頼ってください」
一日二回の移動が増えただけで、そんなに仕事が増えていないと思うんだけど、エリザは過保護だ。まぁ、でも……お陰で助かっているんだけどね。
「それで、クラリスの方は大丈夫? 問題起きていない?」
「はい、問題は起きていません。ユマ様がおっしゃった通りに町の代表者を決めて、選ばれた議員と話し合って町の運営を施していく。とても上手く機能していると思います」
領主という貴族がいなくなった今、町を運営するには代表者が必要だ。その代表者に商業ギルドの上司の人を推薦し、一緒に運営をしていく人たちを商業ギルドや他の人たちを当てた。
「皆さん、とても熱心に話し合われているみたいです。今まで虐げられてきたせいか、よい町にしたいという強い気持ちが芽生えたようです」
「それは良かった。このまま町の運営を頑張ってくれればいいね」
議会制にしたお陰で、良い運営を出来そうだ。今まで貴族に虐げられてきたから、これからは貴族に縛られることなく生きてくれればいい。
「それで、あの場所に残された人たちはどうなったんですか?」
エリザが少し心配そうに尋ねてくる。
「領主と癒着していた人たちは……どうしようもなくなったみたいだね」
「どうしようもなく、ですか?」
「うん。だって、働ける場所がなくなったんだから」
町そのものがなくなってしまったのだから、当然といえば当然だ。商売をする場所もなければ、ギルドとして仕事をする場所もない。
これまで領主との繋がりを利用して利益を得ていた人たちは、その繋がりがなくなった途端、何もできなくなってしまった。
「手持ちのお金を使って、近くの町へ移動した人もいるみたい。でも、そこで上手く生きていくことはできなかったみたいだね」
「……そうなんですか?」
「うん。これまで領主との癒着で利益を得ることばかり考えていたから、普通に働いて生活する方法を知らなかったみたい」
今までなら、領主に取り入れば仕事が回ってきた。商業ギルドの立場を利用すれば、商人たちから利益を吸い上げることもできた。
だけど、それは領主という権力があったからこそ成り立っていたものだ。その権力を失えば、残るのは本人の能力だけ。そして、彼らには頼れるものが何も残っていなかった。
「特に、ギルド長はかなり落ちぶれたみたいだよ」
「ギルド長が……」
「うん。領主に見捨てられて、なんとか別の町へ向かったみたいだけど、誰も助けてくれなかったらしい」
商業ギルドのギルド長という肩書きも、もう何の意味もない。新しい町では、ただの一人の商人に過ぎなかった。
これまでのように領主と繋がっているわけでもないし、特別扱いしてくれる人もいない。結局、持っていたお金を少しずつ使いながら生活するしかなくなり、それも尽きてしまった。
「今では、路頭に迷っているみたい」
「……以前は、あれほど裕福だったのに」
「そうだね。でも、自分で稼ぐ力がなければ、どれだけお金を持っていても、いつかはなくなるから」
エリザは複雑そうな表情を浮かべていた。そんな彼女に、私はもう一つの話を伝える。
「領主も同じだよ」
「領主様も、ですか?」
「うん。国に訴えたらしいよ。突然町が消えたのはおかしい、自分の領地を返してほしいって」
「それで……?」
「相手にされなかったみたい。それどころか、納税ができなくなったことで爵位まで剥奪されたみたい」
「まあ……」
エリザが驚いたように目を見開く。
「領地を失ったことで税収がなくなって、国に納めるお金もなくなった。だから、貴族としての役目を果たせないと判断されたみたいだね」
「では……」
「うん。領主も今では、元領主だよ」
権力も、領地も、爵位も。昨日まで当たり前のように持っていたものを、すべて失った。
「今はギルド長と同じように、路頭に迷っているみたい」
「……なんだか、皮肉ですね」
「そうだね」
以前の町では、領主の言葉が絶対だった。商業ギルドも領主に従い、領民たちは理不尽な税や借金に苦しめられていた。
だけど、今は違う。住民たち自身が代表者を選び、その代表者たちが話し合って町の未来を決めている。商売をする人も、農業をする人も、職人も、普通に暮らす人も。
誰か一人の都合ではなく、みんなで町を良くしていく。
「まあ、私としては、もうあの人たちのことを気にする必要はないと思うよ」
「そうですね」
エリザも頷いた。
「それよりも、これからこの町がどう発展していくのか、そのほうが楽しみです」
「うん。私もそう思う」
かつて権力を握っていた者たちは、すでに舞台から降りている。だからこそ、これからはここで暮らす人たち自身の手で、新しい町を作っていけばいい。
私はそう願いながら、町の様子を眺めていた。




