24.移動の日
「住民の説得はお任せください。今の生活から抜け出せると知ったら、皆、喜ぶでしょう」
「領主と癒着している人物の特定もお任せください。って言っても、もうほとんど誰なのか知っていますから、最終確認をします」
上司と男性職員が自信満々にそう言ってくれた。二人が協力してくれて、本当にありがたい。
「私もそのお手伝いをしましょう。ユマ様、宜しいでしょうか?」
「もちろんだよ。私は受け入れの準備をしておくよ」
私が何か言わないくても、ここまでクラリスが話をまとめてくれた。流石、国政に携わり、実家の経営もしていた人だ。頼りになる。
だけど――。
「クラリス、無理してない?」
「えっ?」
「話をまとめてくれたのは嬉しいけれど、クラリスの体調が心配だよ。働きすぎて、以前と同じようになったら嫌だからさ」
今まで働きすぎて体も心も壊してきた人を見てきた。クラリスを知った時はどちらも壊れる寸前まで追い詰められていた。だから、余計に心配になる。
「無理な仕事は押し付けたくないから、クラリスも自由にやって欲しい。ちゃんと体と心を保ったままでね」
「ユマ様……お優しいんですね。そんな言葉をかけてもらったのは初めてです」
言葉をかけると、クラリスは優しく微笑んでくれた。その表情は心の底から安心しているように見える。
「無理はしていません。今までは、その……善政を敷くことが出来ませんでした。その心労もあって、弱っていたのです。でも、ここでは自分が思っていた事を実現できます。それが、とても嬉しいんです」
「そうだね。ここで見るクラリスはとても生き生きしている」
「私、ユマ様には本当に感謝をしているんです。だから、期待には全力で応えたいですし、期待してもらいたいです」
両手を握りしめて力説するクラリス。その圧に押されそうになっていると――。
「そのような人の下につけるのは、とても心強いですね。私たちも一緒になれると思うと、とても嬉しいです」
「素晴らしい人がいるようで、とても安心しました。私もユマ様の下で働きたいです」
「えぇ、ぜひ! 本当に素晴らしい方なんです! だから、みんなで全力で支えましょう! 心臓を捧げて!」
「いや、そこまでしなくてもいいから!」
心臓を捧げるとか、そんな重いものはいいから! そう叫ぶけれど、三人の目が輝いている。
……まぁ、協力してくれるほど信頼してくれたので、それでいい……かな?
◇
それからクラリス達は数日かけて、町の移動の説得に回った。誰もがこの状況から抜け出せると喜んでいたが、やはり他の町と一時的に交流が途切れることを懸念していた。
だけど、その懸念もクラリス達がしっかりと話、すぐに移動をしないデメリットを話した。すると、不安だった領民も納得をして移動に賛成してくれた。
クラリス達が活動をしてくれる頃、私は町が移動してくることを領民に伝えた。みんな、町が増えるとあって大喜び。
それもそうだ、作った作物を売る場所が出来るのだから。ここに来てからは自給自足だったけれど、これからはちゃんと儲けも出る。それで生活が豊かになると思っている。
村だけで生きていくのは無理なのは承知だったので、こうして町が出来ることは私も歓迎していた。今はまだ大変かもしれないが、少しずつ豊かになってくれればいい。そう強く思った。
そして、全ての準備が整い――町を移動する日が来た。決行はやはり早朝。夜に移動すると、周りの暗さで不安になるから、明るく、みんなが家にいる時間が早朝だったからだ。
「ユマ様、これが移動する家の見取り図です」
「クラリス、こんなものまで作ってくれたの? 助かるよ。これだと、どこを移動したらいいか分かるから」
「今回は全ての家を移動する訳ではありませんから。移動するのに困難があると思いまして。少しでもお力になれたら幸いです」
手渡された大きな紙。そこには移動をする家だけが描かれてある。ところどころ空欄があるのは、領民から絞ってきた人たちだろう。
「よし、じゃあ――始めるよ」
私がそう言うと、意識をあの町に向けた。まず移動させるのは城壁。そこで、働いている人も含めて、こちらの土地に移動させる。
「ユマ様! 城壁が現れました!」
エリザの声が聞こえる。どうやら、上手くいったみたいだ。次に家を移動する。移動する家をチェックしていく。それなりに広い町だから、チェックに時間がかかる。
だけど、クラリスが作ってくれた見取り図のお陰でチェックは思ったよりも早く終わった。それが終わると、能力を発動して移動させる。
「……うん。これで、城壁の中に家が移動されたはずだよ」
「見に行きましょう!」
エリザの言葉に私たちは頷いた。徒歩で城壁に近づくと、そこには門兵が待ち構えていた。
「あっ、ユマ様! 私たち、とうとう移動したんですね!」
「うん。変わりない?」
「はい! 領主と癒着していた奴がいなくなってせいせいしました! これから、ちゃんと仕事が出来ると思うととても嬉しいです!」
うんうん。そういう奴は排除したから、今頃守る城壁が無くなって困っているはずだ。まぁ、そんなのは関係ない。
私は門を通してもらうと――そこには朝日で照らされた町の通りが見えてきた。そして、人々が家から飛び出して歓喜の声を上げている。
「やった! これで普通の生活が出来る!」
「もう、借金を背負わなくてもいいんだ!」
「ありがとう……本当にありがとうございます!」
移動に気づいた人たちが外に出て、喜んで抱き合っている。もう、高い物価に悩むことはない。領主に借金をしなくてもいい。そう、みんなが喜んでいた。
「町を救いましたね。ユマ様のお力のお陰です。本当にありがとうございました」
「ユマ様のお陰で、こんなに喜んでいる人がいるんですね……。とても誇らしいです」
隣でクラリスとエリザが笑っている。そう、こんな笑顔が見たかった。誰もが笑って暮らせるような、そんな場所になったらとても嬉しい。
朝日の中で騒ぐ領民を見ながら、胸に広がる喜びを嚙み締めた。




