22.協力者を探す
「そんなことになっていたんですね……。でも、これでからくりが分かりました。領主と商業ギルドのトップが癒着して、領民を苦しめているということが」
クラリスに見てきた内容を話すと、納得したように頷いた。
「商業ギルドのトップと領主が癒着していたなんてね。でも、これで誰を排除すればいいのか分かった」
「いや、もしかしたら、今見てくださったものが全てではないかもしれません。これは、関係者に詳しく聞いた方が良さそうです」
「関係者……と、なると商業ギルドの職員が良さそうだね。ちょっと、ギルド長に反感を持っている人物がいないか探ってみるよ」
そうして、私は意識を商業ギルドの内部に再び向けた。全体を見通して、ギルド長に反感を持っている人を探す。
すると、先ほどギルド長に直談判した職員を見つけた。憤った様子で、誰かと話しているようだ。
『そうか……ダメだったか』
『はい……。今、商会はギリギリのところで踏ん張っています。それこそ、明日潰れてもおかしくない状況です』
『過剰な搾取は商会も領民もダメにする。あの人は領民がいれば、無限にお金が湧いてくると思っているらしいな』
『もう、領民は出せるものはないのに……。借金だけ背負わされて……。これじゃあ、借金奴隷よりも酷いですよ』
二人の男性が神妙な顔で話し合っていた。どうやら、領主やギルド長の横暴に気づいているようだが、手の打ちようがない様子だ。
『どうにかしたいですが、どうすればいいか……。いっそ、町が破壊されれば、領民は解放されるでしょうか』
『そんなことはいうものじゃない』
『ですが! このまま何もしないでいたら、本当に誰もが生きられなくなります!』
『これは、俺たちの手に余るということか……』
町の人たちのために何かしてあげたい。だけど、その手段がまったくない。八方塞がりで、悔しそうに顔を歪めていた。
この人たちなら、私の話を聞いてくれるんじゃないだろうか? それどころか、領民を説得してくれるかもしれない。
「うん。協力してくれそうな人を見つけたよ」
「本当ですか? では、早速話をしに行きましょう」
私たちは席を立ち、商業ギルドへと向かった。
◇
商業ギルドに着いた私たちは、あの時に見た男性たちを探した。名前が分からないから、見て探すしかなかった。
商業ギルドのホールで目を凝らしていると、部下らしき男性の姿を見つけられた。私はすぐに受付の人に取り次いでもらい、その男性を話す機会を得た。
「えっと、何か御用でしょうか?」
「突然、お呼び出してしまって申し訳ありません。少し、込み入った話をしたのですが……」
「でしたら、別室を用意しましょう。こちらへどうぞ」
その男性に連れられて、商業ギルドの奥へと進んだ。奥にある部屋に通されると、私たちはソファーに座って向かい合った。
「それで、込み入った話とは? ……物価の事でしょうか?」
「いえ、違います。私たちは離れた土地の代表なんですが、その土地で今、住民を募集しているんです」
そこからクラリスは私たちの土地の事を話した。すると、その男性は驚いたように目を見開いた。
「村々が消えているという噂を聞いていましたが、まさか……本当に?」
「はい。ここにおられます、私たちの国の王、ユマ様の能力です」
「でも、本当にそんなことが……」
「じゃあ、ちょっと移動してみる?」
「えっ?」
私の言葉に男性が顔を上げると、一瞬で景色が変わった。そこは村の家々が建ち並ぶ地区で、元村人たちは明るい表情で生活を送っているところだった。
「こ、これは!? 一瞬で、どうして?!」
「この力を使って、村々を移動させたんだよ。信じてくれた?」
「は、はい……。摩訶不思議な力があるんですね……」
男性は初めは信じられない様子だったが、私の能力を間近で見て信じてくれたようだ。そして、またあの部屋に戻ると、男性は落ち着いたようにこちらを向く。
「その力を使って、町を移動させるんですね。ですが、町を移動させると、今までの他の町との繋がりが消える懸念があります」
男性は真剣な表情で話を続ける。
「この町は、この町だけで成り立っているわけではありません。商会が他の町から商品を仕入れたり、逆にこの町で作った物を他の町へ売ったりしています。人の行き来もありますし、様々な物が町と町を繋いでいるんです」
「その通りです」
「もし町だけを別の場所へ移動させれば、これまであった繋がりが突然なくなります。そうなれば、他の町で作られた物が入ってこなくなり、生活に必要な物まで手に入らなくなるかもしれません」
男性は少し心配そうに私を見る。
「町を救いたいというお気持ちは分かります。ですが、移動させた後の生活については、どうお考えでしょうか?」
私はクラリスを見る。すると、クラリスは落ち着いた様子で口を開いた。
「その点については、すでに考えております」
「本当ですか?」
「はい。実は、私たちはこの町だけを移動させようとしているわけではありません」
クラリスは男性の目を真っ直ぐ見つめる。
「現在、私たちはこの地方そのものを移動させる計画を立てています」
「この地方を……?」
「はい。今すぐすべてを移動させることはできません。まずは、移動することに同意してくださった町や村から順番に移動していただく予定です」
「しかし、それでは……」
「おっしゃる通りです。最初のうちは、不便に感じることも多いでしょう」
クラリスは申し訳なさそうにしながらも、はっきりと言った。
「これまで繋がっていた町が離れてしまえば、商売にも生活にも支障が出ます。今まで当たり前だった物が、すぐには手に入らなくなることもあるでしょう」
「……」
「ですから、そこは少しだけ我慢していただく必要があります」
男性は難しい顔をして黙り込んだ。
「ですが、それは一時的なものです」
クラリスの言葉に、男性が顔を上げる。
「私たちは、この地方にある他の町や村も順番に移動させる予定です。そして、最終的には移動した町同士が、私たちの国の中で再び繋がるようにします」
「……そうすれば」
「はい。これまで別々の土地にあった町も、同じ国の中で新たな繋がりを作ることができます」
男性は腕を組み、深く考え込んだ。町を移動させると、今までの繋がりを失う。けれど、その先には新しい繋がりを作る。
簡単に決められることではないのだろう。しばらくの間、男性は何も言わなかった。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。その表情からは、先ほどまでの迷いが消えていた。
「……分かりました」
「では……?」
「この話、ぜひ進めていただきたいです」
男性は真っ直ぐに私たちを見つめた。
「この町の人々は、今の暮らしから抜け出したくても、その方法がありません。私たち職員も、どうにかしたいと思いながら、何もできずにいました」
男性は拳を強く握る。
「ですが、あなた方には、それを変える力がある。もちろん、町を移動させることに不安がないわけではありません。ですが、このまま何もしなければ、町が壊れてしまうのを待つだけです」
そして、男性は決意を込めた表情で続けた。
「それならば、私は新しい道に賭けてみたい」
「本当に協力してくれるの?」
「はい。私一人の力では、町の人々を動かすことはできません。ですが、私の言葉を信じてくれる人ならいます」
「誰?」
「私の信頼する上司です」
男性は立ち上がると、深々と頭を下げた。
「この話を進めるためにも、ぜひ紹介させてください」
「その人なら、町の人たちを説得するのを手伝ってくれる?」
「はい。少なくとも、私よりはずっと多くの人に話を聞いてもらえるでしょう」
クラリスと顔を見合わせる。どうやら、町を移動させるための最初の協力者を見つけることができたようだ。
「分かった。その人に会わせて」
「ありがとうございます。では、すぐに案内いたします」
男性はそう言って、部屋の扉へ向かった。この町を変えるための道が、少しずつ見えてきた気がした。




