21.町の問題(2)
私たちは町を知るため、お店に入った。お店の中には他のお客さんが二人ほどしかおらず、閑散としている。
大きなお店だからもっとお客さんがいると思ったが、そうでもないらしい。ここにからくりの秘密があるのだろうか?
私は商品の値段を見た。調理器具を見ていると、その値段に驚いた。
「これは……高い?」
「そうですね……。定価の四割ほど高くなっている感じですね」
「そんなに高く?」
定価の四割って、そんな事ってある? それだけ高くなると、普通は買えないじゃないだろうか?
でも、他のお客さんは商品を取って、それを会計に持ち込んでいる。もしかして、これが普通ってこと?
すると、会計を終えたお客さんが出口へと向かっていく。そこにクラリスが近づいた。
「すいません、少しお伺いしてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「ここの商品は他の町に比べて高いみたいですが、知っていて買っているんですか?」
クラリスの疑問にそのお客さんは大きくため息をついた。
「やっぱり、他の町よりも高いんだね。でも、仕方ないよ。この町はそうじゃないと成り立たないから」
「高く売らないと成り立たない、ですか……」
「借金を返済するためには、そうしないとお店も生き残れないってことさ」
「借金?」
お客さんの口から出た借金の言葉。まるで、日常会話のように軽く話してくれた。その違和感に私とクラリスは顔を見合わせた。
「他の町から来たんだね。この町は住民みんな領主に借金をしているんだよ」
「えっ……どうしてそんなことになっているんですか?」
「そりゃあ、物価が高いから普通に働いて得た給金では生きていけないからね。足りないお金を領主から借金しているわけだよ。だけど……」
そう言ってお客さんは口ごもった。その様子にクラリスが踏み込む。
「どうしたんですか? まだ、何かあるんですか?」
「利子がとてつもなく高いんだ。だから、借金を返すどころじゃない。利子を返すだけで精一杯で、ずっと借金がなくならないんだ」
……なるほど、そんな状況になっていたのか。利子を返すだけで精一杯なら借金は返せない。それだけ、法外な利子をつけられているということかもしれない。
「君たちはこの町に来たばかり? 悪いことは言わない、この町から離れた方がいい。と言っても、他の町でも生活は楽にならないかもしれないけれどね」
「そうなんですね。色々と教えてくださってありがとうございます」
暗い表情をしてお客さんは店から出ていった。私たちもそれを追うように、お店の外へと出ていく。
「どうやら、ここの町の人たちは借金に縛られているみたいだね。物価が高いから買えないって理由だけど……そうだったら領主が働きかけて物価を下げればいいのに」
「流石、ユマ様。そこにお気づきになりますか。そうです、物価を下げればいいのに、それをしないのが問題なんです。これは、何かありますね」
「もしかして、物価が高いのと借金がなくならないのは、何か関連があるかも?」
「それが本当だとしたら、この町は色んな人物の思惑に操られているかもしれません」
悪いのは領主だけじゃない、って事だろうか。そういうことなら、この現状で甘い蜜を吸っている人を全て洗い出さないと。町を移動するのはそれからだ。
新しい土地に相手を陥れてまで自分の私腹を肥やす輩はいらない。誰もが自由に人間らしく生きれる土地にしたい。
「じゃあ、まずはどこから調べたらいいかな?」
「商品の値段を決めているところに行きましょう。この様子だと、店が勝手に値段を決めている様子はありませんから」
「だったら、商業ギルドを調べた方が良さそうだね」
商会をまとめている組織と言えば、商業ギルドだ。きっと、ここに物価が高い理由が隠れているはずだ。
「でも、どうやって調べればいいか……」
「それは任せて。私の収納魔法で何が起きているか見るから」
「あぁ、なるほど! その手がありましたね!」
そう、ここは収納魔法の内側。私が自由に観測出来る場所になっている。私たちは喫茶店に入り、お茶を飲むふりをして、目を閉じて商業ギルドに意識を向けた。
すると、町の中心地に商業ギルドがあった。たくさんの人が行き来して、とても賑やか……ではなかった。行き交う人々はどの人も表情が暗く、気が重い。
「ユマ様、どうですか?」
「やっぱり、様子がおかしいよ。みんなが意気消沈していて、元気がない。相当、絞られているみたい」
「商業ギルドのギルド長を調べてみましょう」
「それなら、何か分かるかもね」
クラリスの言う通り、ギルド長を調べることにした。商業ギルドの建物の色々な部分に意識を向ける。そして、丁度ギルド長の部屋へと向かう職員を見つけた。
その後を追っていくように意識を向けると、職員はとある部屋に入って行った。その部屋に意識を向けると、豪華な椅子に座った太った中年男性を見つけた。
『ギルド長、商会からの陳情が……』
『商会からの陳情だと? そんなものは聞かない!』
『ですが、ギルド長! このままでは商会が潰れます!』
職員は必死に訴えかける。
『すでに何軒もの商会が、仕入れに必要な資金すら用意できないと訴えています。このまま物価が上がり続ければ、商売を続けることもできなくなります。どうか、物価を下げることをご検討ください!』
『黙れ!』
ギルド長は机を叩き、職員を睨みつけた。
『物価を下げるつもりはない。今の価格を維持しろ』
『しかし、それでは商会だけではなく、町の人々も……』
『町の連中がどうなろうと知ったことか!』
あまりにも身勝手な言葉に、職員は言葉を失う。
『領民にはこれまで通り、領主様から金を借りさせればいい。商品が高くて買えない? なら借りればいいだけの話だ』
『ですが……借金を返せず、苦しんでいる人が大勢います』
『それがどうした?』
ギルド長は鼻で笑う。ギルド長は領民の事をなんとも思ってはいないみたいだ。
『借りた金は返す。それが当たり前だろう。返せないのなら、また借りればいい』
『……っ』
その言葉に職員は悔しそうに拳を握りしめた。
『ギルド長……どうか、もう一度だけお考えください。このままでは本当に、この町から商会がなくなってしまいます』
『しつこいぞ!』
ギルド長は苛立ったように手を振った。その顔は憤怒に満ちている。
『私は何も変えん。物価も下げない。領主様からの借金も続けてもらう。お前は黙って私の命令に従えばいい。命令を聞かないと、クビにするぞ』
『……分かりました』
職員は俯いた。それ以上、何を言っても無駄だと悟ったのだろう。悔しさを滲ませながら、職員は部屋を出ていった。
部屋に一人残されたギルド長は、先ほどまでの怒りが嘘のように穏やかな表情を浮かべた。
『ふふふ……』
そして、誰に聞かせるでもなく、楽しそうに呟く。
『物価が上がれば上がるほど、領主様の利益は高くなる』
机の上に置かれた帳簿を撫でながら、ギルド長は口元を歪めた。
『そして、物価を上げた私にも利益が転がり込む』
その目には、隠しきれない欲が浮かんでいる。
『領民が商品を買うために借金をする。借金が増えれば増えるほど、領主様は儲かる。そして、私にも金が入ってくる……』
ギルド長は椅子に深く腰掛け、満足そうに笑った。
『なんと素晴らしい仕組みだ!』
その笑い声が、誰もいない部屋に響き渡る。
『領民が苦しもうが、商会が潰れようが、私には関係ない。金が入ってくる限り、この仕組みをやめる理由などどこにもない!』
なるほど、それがこの町の税収が高いからくりっていうことね。




