20.町の問題(1)
瞬きをすると、一瞬で景色が変わる。広い大地から、目の前に城壁が聳え立つ町の外へ。私とクラリスは目的の町に到着した。
「まずは町の様子を確認しましょう。それから、どうやって町を移動させるか考えます」
「分かった。じゃあ、町に入ろうか」
すぐに町を移動することはできない。しっかりと町の人の了承を取ってからじゃないと、混乱が起きるからだ。
城壁を伝って移動をすると、目の前に門が見えてきた。そこには門兵がいて、町に入る人を監視しているようだった。
いや、監視ではない。入領税を取っているらしく、町に入る人からお金を徴収していた。その様子を眺めていると、声が聞こえてくる。
「えっ!? そ、そんなに入領税を取るんですか!?」
「当り前だ! 払えないっていうのなら、入らなくてもいいぞ!」
「ぐっ……払います……」
商人が悔しそうに懐の袋からお金を取り出して手渡した。すると、門兵が嫌味な笑みを浮かべる。
「いや、お前は俺たちの手を煩わした。よって、入領税を倍にする」
「ば、倍ですか!? そ、そんな横暴な!」
「嫌ならいい。町に入るな」
「そ、それは……払います……」
門兵の横暴な態度に商人は絶望した顔をして、震える手で入領税を払っていた。まるで、見せしめかのような出来事だ。
後ろの人たちはそれを見て、一切無駄口は言わず、淡々と入領税を払っていた。だけど、門兵は無意味に罵声を浴びせ、入領する人たちは苦しそうに顔を歪めていた。それを見て門兵たちは愉悦に浸っていた。
「ユマ様、ここは私に任せてください。何も喋らず、私の後ろへ」
その門兵を警戒して、クラリスがそう言った。私は大人しくクラリスの後ろにいき、その様子を窺った。
「次!」
「はい。入領税です」
「ふむ……おっ?」
クラリスがお金を手渡すと、門兵が驚いたように目を見開いた。そして、ニヤニヤと笑う。
「よく分かってるじゃねぇか。よし、通れ」
「ありがとうございます」
罵声も浴びせられることもなく、私たちはすんなりと町の中に入ることが出来た。
「クラリス、どうやったの?」
「入領税を多く支払ったんです。あの人たちは入領税の一部を懐に仕舞っていそうだったので、お金で解決しました。ユマ様に余計な罵声を浴びせたくなかったので」
「そっか……ありがとうクラリス」
クラリスの機転で何事もなく町の中に入ることが出来た。私たちの目的はこの町の移動だ。それまでに余計な騒動を起こしたくなかった。
町に入ると、色んな人が行き交っていた。だけど、空気が重くどんよりとしている。
「なんか、活気がない感じだね」
「これは予想以上に悪い環境なのかもしれませんね」
「ちなみにこの町はどんな問題があるわけ?」
人々に元気がなく、店では人を呼び込む声も聞こえない。まるで、問題があると言っているような様子だ。
「この町について、私が事前に調べた限りでは……税収が非常に多い町です」
「税収が多い?」
「はい。町の規模や人口を考えますと、明らかに不自然なほどです」
クラリスは周囲を見渡しながら、静かに説明を続ける。
「この町よりも大きく、人口も多い町はいくつもあります。ですが、それらの町と比べても、この町から納められている税はかなり多いのです」
「それって、みんながたくさん税金を払っているってこと?」
「単純に考えれば、そういうことになります。しかし……実際に町を見てみると、とてもそのようには見えません」
「うん……」
道を歩く人たちの顔には疲れが浮かんでいる。店の品物も少なく、客の姿もほとんどない。これだけ町全体が疲弊しているのに、どうして国に納められる税だけは多いのだろう。
「では、どうしてこんなに税収が多いのでしょう?」
「うーん……」
私が考えていると、クラリスが答えを口にした。
「おそらく、何かからくりがあります」
「からくり?」
「はい。この町の規模と人口、それから今の町の状態。その三つを考えると、普通に税金を集めているだけでは説明がつきません」
クラリスは真剣な表情で町の様子を見つめる。
「税を多く納めているように見せかけて、実際には別のところからお金を集めているのかもしれません。あるいは、町の人々から本来必要ではない税まで徴収している可能性もあります」
「……じゃあ、この町の人たちが苦しんでいる原因も、それなのかな?」
「その可能性は高いと思います」
私は周囲を見渡した。俯きながら歩く人。店先でじっと座り込んでいる人。子どもの手を引きながら、疲れた顔で歩いている母親。
みんな、何かに押し潰されているように見える。
「だったら、調べないとね」
「はい。まずは、この町で何が起きているのかを確認しましょう」
「どうやって?」
「町の人々から話を聞くのが一番でしょう。ただし、いきなり『税金について教えてください』と尋ねるのは危険です」
「どうして?」
「先ほどの門兵を見ましたでしょう?」
「あっ……」
町の入口で見た光景を思い出す。あの門兵たちは、町に入ってくる人間から平然と金を巻き上げていた。
「町の中にも、あのような者がいる可能性があります。下手に探りを入れれば、私たちが調査していることを知られてしまうかもしれません」
「なるほど……」
「ですから、まずは普通の町人として、この町の暮らしを知りましょう」
クラリスはそう言って、少しだけ微笑んだ。
「買い物をしたり、店で話を聞いたり、宿を探したり。その中で、自然に情報を集めます」
「うん。それなら怪しまれなさそう」
「はい。そして、もし税に関する話が出てきたら、そこから詳しく調べていきましょう」
私は頷いた。この町の事を知ってから、今後の事を計画したほうが安全だ。
「よし。それじゃあ、この町のからくりを探そう」
「はい、ユマ様」
こうして私たちは、町の人々が何に苦しめられているのかを探るため、ゆっくりと町の奥へ歩き始めた。




