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side:『神殺し』による最後の仕上げ.

はぁ


肺の中の全ての空気を吐き出すような勢いで、刹那は息を吐いた。

あぁ疲れた。

そう呟いた刹那は首を左右に揺らし、肩を鳴らしながら解し、両腕を空に向かって伸ばして、疲れた身体を和らげていく。

「でも、まぁ…それなりなんだよね」

刹那の視線が足下へと向かう。

原型など失くすつもりだったのだが、刹那の想像していた姿に成り果てることはなく、それは元の形を辛うじてでも残して足下に力なく転がっている。

本当は静音からの笑える連絡があってすぐに、『アウネ』との戦いを終えて『邪神』へと引き渡して…と考えた。だが、曲がりなりにも世界を生み出す神の一柱。それでも、刹那からすると"それなり"と評する程度でしかなかったが。

かといって、簡単に終わらせてはくれなかったのだから、やはり神は神という存在。

「技量としたら三番目に殺したヴィシュヴァカルマンの方が断然上、純粋な力なら五番目のデミウルちゃんにも劣る、そもそも神々しさ?さえも『邪神』にも及ばないってどうよ」

何度も殺す為の一撃を加えようと倒れることなく再生し続ける、その点においては神らしく、しぶといものだった。だが、それ以外の力を巧みに操り攻撃を仕掛けてくる手腕も、攻撃に込められた力も、己を護ろうと刹那の攻撃を阻もうとする力も、何もかもが『神殺し』である刹那には「本気は出すが全力は出しにくい」という程度のもの。


「というか、お前って最低だよな」


辛うじて刹那は足下に横たわり呻く『アウネ』へ唾を吐きかけることだけはおし留まった。

別に神への敬意などそんなものではない。マナーのなっていない最低な人間になどならないという彼自身の矜持だ。


「自分の力を貸し与えている奴等だろう、アウネの民は。そいつらが今まさに戦いの最中だって理解してるくせに、自分が大変だからって突然取り上げる。本当、最低だ、お前」


刹那が、静音や『邪神』との会話に気をやっている間に、『アウネ』は自分の民へと分け与えていた力という力を戻したのだ。

精霊獣達と戦う警邏隊に属するアウネの民達も、静音と対峙することになるであろう元・魔法少女達も、力を失くしてどう立ち向かえというのか。

そんな事を一切考えず、自分の進退にしか重きを置かなかった。

「うるさい…」

「はぁ?」

「うるさい、五月蝿い、煩い、ウルサイ…。黙れ、人間風情が!このようなこと、許されると思うな!神殺しなどと図に乗りやがって!そんなものを!何時までも我々が許しておくと思うか!貴様など!神の怒りによって消え去れ!」


「頭、狙い過ぎたかな?」


突然『アウネ』が顔をあげ、刹那に向けて怒りと憎悪の声を投げつける。

まだ再生途中の顔や体のあちらこちらはまだ、目を背けたくなる程度の損傷を負っている。それでも、それだけの声量を笑いながら搾り出してみせるのだから、腐っても『アウネ』も神だと知らしめる。

だが、鬼気迫る怨紗の声を投げつけられた刹那は表情を一つも変えることなく、動揺することもなく、その言葉を受け止めていた。

そして、刹那がようやく眉を顰めたかと思えば、その口から飛び出した言葉は拍子抜けする程に軽いものだった。

「やばいな…『邪神あのひと』の所に連れていかなきゃならないのに壊れてるとか、無いわ…俺としても正気のまま全部を見届けろっとも思うし…」


ヤバイ、仕置きされる。


刹那の表情に陰りが生まれた。

『アウネ』の放つ怨磋が怖いのではない、失態を起こした事で『邪神』が機嫌を損ねて仕置きという名の死ぬ目を合わされる事が怖いのだ。

簡単には気を失って逃げるということを許してはくれない、『邪神』の仕置き。

ねちねちねちねち、と指と爪の間に毒針を刺していくようなそれを思い出し、刹那は全身を震わせて怯えた。


「き、貴様!どこまで愚弄すれば…」


刹那が自分のことなど眼中にもいれていないのだと、その表情と自分に向けられることのない目によって気づいた『アウネ』がそれまで以上の激昂を露にするが、それさえも刹那にとってはそよ風程度のことでしかない。


「神々の怒り?そんなものが本当に、俺に振りかかると思ってるわけ?」

仕方無いといった風情で対応した刹那からは深い深い呆れの声が零れ落ちる。

「何を…」

「『神殺おれし』をそもそも生み出したのは『邪神』。数多の世界を管理する神々の中でも五指に入る程に古く、力も発言力もある神」

一体誰が、どの神が、文句を言えるのか、罰を与えることなど出来るのか。

そんな事は『アウネ』曰く只の人でしかない刹那よりも、永く生きて永く『邪神』と関わりを持ってきていた『アウネ』こそが理解している筈だろう。

「それに、お前になんかに、味方してくれる、そんな神が、居るとでも?」

わざとらしく、幼子に言い聞かせるつもりで、短く切るようにして、刹那は言葉を突きつける。


「何を馬…鹿…」


刹那のその物言いが自分を馬鹿にしてるのだと感じ取った『アウネ』がまた一度激昂しようとした時、周囲の景色が一転した。

真っ黒に暗転し、そして『アウネ』が自分の優位性を誇る為に作り上げた、結果的には『神殺し』である刹那を前にして無用の長物でしかなかった『アウネ』力と気配が支配していた空間が、一瞬にして違う誰かを絶対とする支配空間へと変わり果ててしまった。


「…これって、あれか?"きゃーお父さん、助けに来てくれたの?ありがとう。超ー感激!!"とかって言わないといけない感じ?」


突然に起こった変化にも、刹那は顔色一つ変える事はなかった。

いや、ほんの少しだけ。面倒臭いという考えが浮かび上がって、すぐに隠すように消え去ってはいた。

一方で『アウネ』の顔には、ほんの少しだけ、僅かに明るい表情が浮かぶ。

それを見て取ってしまった刹那は、鼻をはっと笑わせた。


「おう、言えよ。可愛い息子のところに駆けつけてやったお父様に対して、お礼の言葉なら喜んで受け取ってやるぜ?」


辺りに圧倒的なまでの自分の存在を満たしているとは全く思わせない、休日に遊びに出掛けるような気怠げな様子で、『邪神』は姿を現した。

「大兄!」

目を見開き、『アウネ』が現れた憧れでもある偉大なる神に向かい呼び掛けるが、彼は自分を気安げに呼ぶそれに目を向けることはなかった。

「ん、ごほんっ」

一つ『邪神』は咳払いをして、地に伏せる『アウネ』を視界に入れることなく、纏う気配を一新させた。


「役割ご苦労。『神殺し』たるお前の活躍は俺も誇り高い。己が世界に置いて今回の事態を見守る神々もお前の働きには感謝の声をあげている」


普段のそれとは全く違う、神と呼ぶに相応しい威厳と神々しさを纏った表情と声が、刹那の全身へと降り注いだ。

「俺にだけ?それは彼女しずねにこそ向けられるものだろ?」

此処まで頑張ってきたのは使命を見失わなかった魔法少女である静音で、刹那が行ったことは良いとこどりでしかない。この程度の相手かみならば、『神殺し』の名前を冠する刹那でなくとも、ただ一人の『管理者かみ』の名代となっている静音にも可能だ。


仲間を失い、身近にある人々全てが敵に回って。

その孤独の中でも一人で戦い続けることの難しさと苦しさ、刹那はそれを知らない。世界の神である『邪神』と戦え、楽しませろ、という無茶振りを背負わされた上に、数柱の神々を殺して世界を滅ぼして来いという使命を負わされ。そんな経験豊かな刹那であっても、それでも孤独ではなかった。助言者も協力者も、愚痴を吐き出させてくれる仲間達は何時も居た。勿論、静音には『精霊獣』という寄り添う仲間、家族といってもいい存在が傍に居たが、たったの六人だけ。それ以外の存在からは敵として追われる日々。

だからこそ、刹那は彼女の存在を始めに知らされた時から感謝の念が尽きなかった。その心の強さに対する憧れを忘れたことはない。

黒の魔法少女に対する、好意が尽きることなく刹那の心を占めていた。


「勿論、『管理者の愛娘』に対する我が同胞達からの感謝の念は何時までも尽きることは無いだろう。そして、他の世界へと旅立っていった勇者達からの感謝と、崇敬の念も」


「…『管理者の娘』?」

「ん?娘だろ?あいつの力を全部、補佐してる奴等がいようと肩代わりしてるんだ」

『邪神』の言葉の一部に反応した刹那に答える際には、『邪神』はすっかりと神々しさの成りを潜めさせ、いつもの雰囲気へと戻っていた。

「で?なんだって、『アウネ』ぇ。神々が刹那を許さねぇ?」

今まで無視したいたことなど無かったかのように、『邪神』がようやくその存在に目を向けた。

この場に居なかった時のそれの発言を当たり前のように知っているのだと、悦楽に歪ませた表情で示す。

「ぅんなこと、無いな。俺が此処に介入してきたのは、俺が気に喰わねぇってことも大有りだが、神々の訴えがあったからこそだ。"他の世界には基本不介入だが、貴方なら何時も通りどうにでも出来るだろう"ってよぉ。失礼するよなぁ、俺を一体何だと思ってるんだか。まぁ、止められたって好きなようにやるつもりだったけど?」

は~やれやら、と肩を竦めて困り顔を作った『邪神』。

「で、神々(あいつら)が何て訴えてきたと思う?"『アウネ』の行いは到底許されることでなく、あれを放っておいては後々に悪しき禍根を残すことになる。何よりも故郷を思って嘆く勇者達を慰める為にも"だってよ」


器用にも声を変え身振り手振りで、その時の訴えてきた神の憤りの強さを表現までした『邪神』。

その変化した声は覚えのあるものだ、と顔を上げて『邪神』を見つめていた『アウネ』は、他人事のように考えた。

『邪神』程では無いにしろ、『アウネ』達若き神よりも永くを存在している神の一柱。

その神もまた、自分の悪しき流れに陥った世界を整える為に勇者を招いたことがあった。『管理者』に対して礼と勇者からの伝言を伝えているその神を、『アウネ』は目撃したことがあった。


「勇者達が今にも、此処に戻ってこようとしたらしいぜ?それを止められたら止めたで、大暴れした。追い出される気満々でな」


お、追い出してくれないと、R指定ノベルの勇者みたいな事するからな!

なんて言い分で神を脅し、呆れられながら説得された勇者も居たと言う。


「お前の名も存在も、全ての世界が消え去る時が訪れようと、神々の間で語り継がれるだろう。愚かで悪しき、最悪の堕神、としてな。勿論、神々の目に何時までもちゃぁんと留まるように、罰も用意してやった。良かったなぁ、注目される存在に、なりたかったんだろ?」


地に身体を伏せながら顔をあげて、という状態だった『アウネ』の前髪を掴み、『邪神』はアハハと笑う。


「もう満足したのか、お前は?」


一通り笑った後に、『邪神』は刹那に短く問い掛けた。

「こいつ相手に満足するなんてことは無い。けど、こいつを相手にしているよりも、あっちの方が気になるし」

「ふぅん。まぁいいか。また憂さ晴らししたくなったら、何時でも出来るようになるんだしな」

「えっ?…何をするのか、いい加減教えて…くれないよな。そういうネタ晴らししてくれる人じゃないし」

彼の子と呼ばれる刹那も、今『邪神』が何をしようとしているのか知るものではなかった。

故郷である、この『管理者』の世界を救う為、とだけ言われて連れられてきたに過ぎず。『アウネ』をどう裁くのか、きっちりと刹那達を納得させるものとなるだろう、という事だけしか。

そういう性格だとは分かっていても、知りたいと思わずにはいられない。

「じゃぁ行くぞ」

「えっ、俺はあっちに…」

自分の要件が終わったのならば、静音の所へと駆けつけたかったのだが。『邪神』はそれを掴んでいるのとは反対の手で刹那の腕を掴み、逃がさないようにと力を込めてきた。

「いいから、来い。これの処理、俺一人でやれってぇのか?」


一人で出来るだろ、という刹那の訴えは音にすることも許されない。





「じゃっ、後は簡単だし頼んだぞ?俺はあっちで、おもてなしの準備してくるからよ」

『アウネ』の首根っこを鷲掴みにして、『邪神』が刹那と共に降り立った空間にて。

ある程度まで『アウネへの罰』の為の入念な仕組みを作り進めた『邪神』はあまりにもあっさりと、それらの作業を刹那に対して丸投げにする。

あとは簡単だろ?と軽く言って手を振った『邪神』は、また別の空間へと消えていった。

「はぁっ?おもてなしって」

「早く終わらせろよ?じゃないと、俺一人で静音ちゃん達と楽しくおしゃべりするからな?」


その空間には刹那と『アウネ』、そして面白可笑しく笑う『邪神』の声の余韻だけが残された。


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