第34話 次のクラリッサを作りたくない
ジュリアンとミレーヌの面談が終わった後、アメリア王女が同じ部屋へ呼ばれた。
王妃は、机の上へ三つの封筒を並べた。
「隣国から、同盟を補強するための提案が三つ届いています。一つは、あなたと第一王子の婚姻。二つ目は国境警備費の追加負担。三つ目は希少鉱物の十年優先供給です」
アメリアは最初の封筒だけを見て、背筋を伸ばした。
「私が嫁ぐのが、国庫にも民にも最も負担が少ないのでしょう。謹んでお受けします」
即答だった。
クラリッサの口から「そんな必要はない」が出かかった。
テーブルの下で指を組む。
ロザリーの顔を思い出し、言葉を変えた。
「アメリア殿下。三通とも、もうお読みになったの?」
「いいえ。ですが、王族として当然の――」
「当然かどうかではなく、あなたが選ぶのに、情報は足りている?」
アメリアの答えが止まる。
「助けが要るかしら」
破談にするとも、受けるべきだとも言わない。
アメリアは三つの封筒を見比べ、初めて年相応に迷う顔をした。
「……要ります。私は婚姻以外の案が、国へどれほどの負担を生むのか知りません。第一王子がどんな方かも、嫁いだ後に私へ何を求めるのかも」
「では、返事は資料を読んでからにしましょう」
王妃が安堵したように頷いた。
レオナールは、すでに用意していた三冊の薄い綴りを差し出した。婚姻案には第一王子の経歴、隣国の王妃権限、居住環境。軍事案には必要な兵員と税。通商案には十年間の推定損失が記されている。
「先方は婚姻を第一希望としていますが、三案とも正式な選択肢です。どれを選んでも、負担は消えません」
アメリアは最初の頁を開き、質問した。
「第一王子本人は、この婚姻を望んでいるのですか」
「先方の書面には、本人の署名があります。ただし、どのような妻を望むかは、直接お聞きになるべきでしょう」
「ならば、会わせてください。私自身で確かめます」
自分を差し出す覚悟ではない。
契約相手を見定める声だった。
「クラリッサ様」
「はい」
「三案の比較を、一緒にしていただけますか。ただし、どれが正解だとは言わないでください」
先に境界線を示され、クラリッサは少し笑った。
「承知しました。質問には答えます。決めるのは、あなたです」
その夜から、アメリアは財務官、国境軍の代表、鉱山組合、隣国に滞在した経験のある女官を自分で呼び、一人ずつ話を聞いた。
クラリッサは面談の日程と資料の棚を整えただけで、質問はアメリアに任せた。
三日目、机の上には付箋だらけの資料と、王女自身の字で埋まった質問帳が残った。
「明日、第一王子と会います」
アメリアは疲れた目で、それでもはっきり言った。
「会った上で、私が選びます」




