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第291話 脱出 3

 

 ーーーカイト視点ーーー


「カイナン、この馬車は何処に向かっているんだ?」


 そう言えば聞いてなかった


「ゴウルンに向かっています、そこで食料等の補充してベスス領に向かいます」


「ゴウルンか、だったら丁度アルス達が攻めてる筈だ……」

「アルス様が? 詳しく聞かせていただいても?」

「もちろん」


 俺はカイナンにアルス達、オーシャン軍が今何をしているかを説明する

 俺を助ける為に無茶させてるからな、これぐらいは伝えておかないとな



「それなら、ゴウルンからアルス様の居る村に向かった方が近いですね……いつバレて追手が来るか分かりませんから、合流は速いほうが良いです」


 そりゃそうだ


「この馬車でゴウルンまでどれくらいかかる?」

「この速度なら1日もあれば着きますよ、食料も水もあるので、安心してください」


 俺はチラリと荷物を見る

 商品以外に大量の保存食と水やワインの入った樽が目に入る


「2週間は余裕で保ちそうな量だな」

「不測の事態になっても対処できるように、最善を尽くすだけです」


 頼もしいなほんと



 ··············


 ーーーカイナン視点ーーー


 リールの都から出て、そろそろ1時間頃だろうか

 砂漠を馬車が走る

 真っ暗な砂漠を走り続け、時折道を間違えてないか確認して


「…………」


 カイト様は荷台の中から外の景色を眺めている

 従業員達も思い思いに過ごしている


「カイナンさん! なんか凄いのが来てます!!」


 従業員の1人が叫ぶ


「凄いの?」


 彼女から望遠鏡を受け取り、覗く


「なんだあれ!?」


 砂煙が上がっている、そしてこちらに向かって走る人影


「人!?」


「ちょっと見せてくれ」


 カイト様に望遠鏡を渡す


「…………マジか、すまないカイナン、もうバレたみたいだ」

「知ってる人ですか?」

「リールの将、ガルダだ……」

「……」


 戦姫の右腕と呼ばれてる将軍!?


「ガルダ殿はカイト様の顔を?」

「知ってる……」


 状況は最悪ですね

 カイト様の顔を知ってるリールの将が追ってきている


「速度上げますか!?」


 手綱を握る子が叫ぶ


 …………


「いや、速度はこのままに!」

「追いつかれるぞ?」


 カイト様が望遠鏡を返却しながら言う


「……カイト様、私に任せてもらえますか? 一か八かの賭けですが……彼を欺いてみせます」

「…………わかった、カイナン、信じてるぞ! 俺はどうすればいい?」

「カイト様は……」



 ···········


 ーーーガルダ視点ーーー


 ようやく馬車に追いついた


「そこの馬車! 止まれ!」


 私は馬車と並走し、手綱を握ってる男に向かって叫ぶ


「止まらなければ、無理矢理止めるぞ!!」

「止めなさい」


 馬車の中から声がする、馬車が止まる


「その姿、ガルダ将軍とお見受けします」


 1人の男が降りてきた


「ああ、私がガルダだ、貴殿はカールサルス商会の者で間違いないか?」

「はい、カールサルス商会のカイナンと申します」


 カイナン……商会の当主であるブラスイン殿の息子だったな

 無理矢理止めなくてよかった、商会と出来る限り揉めたくはないからな


「すまないが、馬車の中……従業員と荷物を確認させてもらいたい、リールの都から罪人が逃げ出してな……馬車の中に隠れてる可能性がある」

「それは恐ろしいですね、どうぞご確認を……皆さん、降りてください」


 カイナンが従業員を降ろす

 んっ? 1人だけ顔を隠してる奴が居るな?


「そいつは何故顔を隠す」

「彼女は顔に火傷を負いまして、人目に晒したくないのです……それにガルダ将軍も顔を隠されてるので人の事は言えないかと」

「……ふっ、確かにな」


 一瞬カイトが変装してるかと思ったが、見た目も匂いも女性だと感じた、流石に性別は誤魔化せないだろ


「荷物を見せてもらうぞ」

「自分も共に、説明が必要でしょう?」

「頼む」


 カイナンと共に馬車に入る


「ふむ、匂いは普通だな」


 入った瞬間に果物の匂いや、酒の匂い、干し肉等の保存食の匂いを感じる


「この箱は?」


 蓋を開ける


「そちらは果物ですね、種類ごとにそれぞれの箱に分けています」

「ふむ、不審なところは無いか」


 匂いも人の匂いはしない


「この樽は?」

「そちらの3つは水です、道中で我々が飲むものですね、そちらの4つは果実酒です、2つは売り物で、2つは我々が飲むものです」

「ふむ……」


 水の樽は問題ないな……果実酒は……ぐっ!


「随分と濃い匂いだな……これは薄めて飲むものか?」

「はい、ガルダ将軍は酒は飲まれないので?」

「付き合いで多少嗜む程度だ……そもそも匂いが強いものは好まん」

「そうですか、それならこちらの酒はキツイでしょうね、冬場などジョッキに大量の氷を入れて飲むと美味しいですよ」

「冬場にか?」

「暖炉がよく効いた部屋で飲むのが良いのです」

「贅沢だな……」


 蓋を全て開けてみたが……この中に潜ってるのは流石に無理か……数分も息が続くとは思えんしな


 コンコン


「床を叩いてどうしたのです?」

「いや、良い素材を使ってると思ってな」


 反響する音から、仕掛けがあるわけでもないか……


 ……………………


 気の所為だったか?

 この馬車に乗ってると確信していたのだがな……


「どうやら、罪人は隠れていないようだ、邪魔をしたな」

「いえいえ、お勤めご苦労さまです……お疲れのようですし、水か酒か飲まれます?」

「水を貰おう」

「どうぞ」


 ジョッキに注がれた水を飲む

 普通の水だ

 しかし、渇いた喉にしみる


「助かった、代金は」

「いえいえ、結構です、これは我々を案じてくださった御礼ですから」

「そうか……ありがとう」


 馬車を降りる


「それでは、また!」

「ああ、気をつけて」


 カイナン達の馬車が走り出す


「……さて、フライトの方に向かってみるか」


 こっちが外れならあっちだな

 途中でオアシスがあったな、そこで軽く食事をしていこう


 ···············


 ーーーカイト視点ーーー


 …………

 …………


「カイト様、もう良いですよ」


 カイナンの声が聞こえた、俺は立ち上がる


 バシャア、と果実酒が樽からこぼれる


「はぁ、はぁ、生きた心地がしなかった……」


 いつバレるかとヒヤヒヤした

 俺の隠れてる樽の前にずっと居るんだもん!

 焦った!!


「ちゃんと静かにしていたらバレませんよ、果実酒の樽に、何分も隠れてるなんて、普通思いませんから」


 カイナンはそう言うと俺の手をとる

 俺はカイナンの手を借りて樽から出た


 俺は果実酒の樽に隠れていた

 普通の樽ではない


 1 空っぽの樽に座って隠れる

 2 樽の蓋を渡されて、取っ手側を下にして、俺の頭上で蓋をする

 3 蓋の上に果実酒を注ぎ、見た目では樽にタップリ果実酒が入ってるように見せかける


 そんな感じで、俺は果実酒の樽の中に隠れていた

 隙間から果実酒が垂れてきたから、少し濡れてしまった


「それにしても、こんな蓋を用意してたのか?」

「ええ、本当の使い方はこうして、樽に蓋をして、上に氷を置いて、冷蔵するための樽なんですけどね」


 あっ、取っ手はやっぱり上側に向けるよな


「それにしても、あの短時間で良く思いついたな……」

「我ながら良く出来たと思いますよ、速度を上げなかったのも効きました」

「上げてたらどうなったと思う?」

「ガルダ将軍の中で、自分達がカイト様を逃がしてるのが確信に変わったでしょうね」


 カイナンが座る、俺も座る


「カイト様が逃げたなんて、よそ者の自分達には言えないでしょう、だから『罪人が逃げた、私は貴方達の為に調べます』って形にしてきました、だから荷をひっくり返して調べるとか、荒事は避けると思いました」

「だから、協力的に接する事で、ガルダからの警戒や疑いを晴らしていった訳か」


 お見事としか言えないな

 カイナン、前に会った時は自分は小物だとか言ってたが

 充分大物だと思うぞ?



 ··············


 ーーーガルダ視点ーーー



 暫く走り、オアシスに辿り着く


「おっ、ガルダ! 仕事帰りかい?」


 馴染みの店に行くと、店主が声をかけてくる


「いや、途中だ、少し休憩しようと思ってな……いつもの頼む」

「はいよ!」


 店主が調理にかかる……

 手際よく調理していく

 昔から、フラン様とよく食べたなぁ……ここの料理

 樽の蓋を開けて香辛料をタップリ取って…………


「!!!!」


 ガタン!っと椅子が倒れる


「うおっ!? どうしたガルダ!?」

「おっさん、厨房に入っていいか?」

「んっ? 構わねえが」

「その蓋貸してくれ」


 店主から蓋を受け取り、逆向きにして樽にはめる


「おいおい、そんな事したら開けれなくなるだろ!」

「…………」


 バキィ!!


「蓋がぁ!?」

「悪い、おっさん……急用ができた、樽の弁償代と、飯代置いとく」

「なんだ? 何キレてんだ?」

「ちょっと騙されたみたいでな……これから潰しに行く」


 私はそう言うと、店を飛び出した


「……飯は食っていって欲しかったなぁ」


 そんな店主の声が遠くから聞こえた







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