第290話 脱出 2
時間は少し遡る
カイトが城門を抜けた頃
ーーーフラン視点ーーー
むむむ、まさかカイトが既に結婚しておったとは……
子がいるって話を聞かなかったから、独身だと思っておった
しかし、しかしだ!
別に何人と契ろうが構わないのではないか?
別に余と関係を持っても良いのではないのか?
そうと決めれば押してみるのである!
見張りの兵と軽く話してから、カイトの部屋の扉を開ける
地下に移す前に行動するのだ!!
「カイト! 今夜は共に過ごそうではないか!!」
部屋に入る
むっ?
「……カイト?」
姿が見えぬ……トイレか?
いや、人の気配を感じぬな……むっ?
「シーツ?」
ベッドに結ばれたシーツ
窓に向かって伸びている
「…………」
窓から顔を出す、結ばれて紐のようになっていたシーツが垂れている
「……まさか、あの木か?」
視線を横に動かすと、枝がアチコチ折れた木が見える
「むむむ、意外と行動力があるのだな……いかん、感心してる場合ではないな」
カイトが逃げ出した
ほっておくわけにはいかぬな!
余は兵達にカイトが逃げ出した事を伝え、鐘を鳴らしに行かせる
さてと……カイトを探すとするかな
ーーーカイト視点ーーー
カイナンに案内されて、広場の端に辿り着く
「カイト様、馬車の中に」
「あぁ」
馬車の中に入る、そこには数人の人が色々と準備をしていた
「出発する直前って感じだな」
「今夜中に都を出るつもりでしたからね、カイト様に会えて良かった」
カイナンに席に座らされ、水を渡される
俺は水を飲み干す
「カイナンは行商でここに来たのか?」
「はい、3日ほど前から」
カイナン、カールサルス商会のブラスインの息子であり
現在は行商人として活動してる
彼が行商をやるまでに色々あったが、簡単に説明すると
ブラスイン経由で相談される
直接会って相談を詳しく聞く
同席したメイリーの提案で行商を始める
そんな感じで1年前にカイナンはオーシャン領から旅立っていった
「街中でカイト様が捕虜になってると噂が流れてましたが……本当だとは思いませんでしたよ」
「まぁ、してやられてな……」
さて、どうするか……ここでカイナンに脱出の協力を頼むのか……
それが最も正しい選択だと思うが……
それはつまり彼等を巻き込む事になる……
脱出出来ても、道中で捕まれば終わりだし
俺は捕虜として生き延びれるかもしれないが、彼等は殺される可能性が高い
流石にそれは申し訳ない……
しかし俺が1人で脱出出来るとも思えないし……
「それではカイト様、この服に着替えてください」
カイナンから従業員達と似た服を渡された
「えっ?」
「部下のふりをしてもらいますので」
「……良いのか? 捕まったら殺されるぞ?」
「カイト様には多大な恩があります、今こそ恩を返す時かと」
「……従業員の皆は良いのか?」
従業員達を見ると、全員が頷いた
…………
「ありがとう、とても助かる」
無事に戻れたら、色々と礼をしなくてはな
「よし、じゃあ着替えるけど……その前にナイフとかある? 剃る為の」
「剃る? 髭をですか?」
「髭もだけど髪、俺の髪色は目立つからな、全部剃り落としたい」
「……よろしいのですか?」
「元々短めだから、二月もすれば元通りだろ」
「わかりました、準備します」
·············
門
「止まれ!!」
馬車が止められる
「現在、門は封鎖している! 通れるのは一部の者だけだ!」
兵士が叫ぶ
「カールサルス商会のカイナンです、証明書と通行許可証ならここに」
カイナンが馬車から降りて、数枚の書類を兵士に渡す
「ん……確かに本物だな……だが念の為に検品させてもらうぞ、馬車から全員降りて、カイナン殿だけ私と共に荷物の確認をさせてもらうぞ」
「皆さん、降りてください」
そう言われて、カイナンが指示を出す、従業員達が降りる
「んっ? そこのお前は? 何故顔を布で隠している?」
兵士が1人の従業員に聞く
「……恥ずかしいので」
顔を隠す従業員が答える
「……顔を出せ!」
兵士が言う
「従ってください」
カイナンが言う
「…………」
従業員が布を外す
「!?」
兵士は顔を伏せた
身体を震わせる
「もう良いですか?」
「あ、ああ、だ、大丈夫だ……くく、すまない」
兵士はそう言うとカイナンと共に馬車に入る
馬車の中から声が聞こえる
「あのハゲはなんだ? 自前か?」
「病気の影響でああなったんです、ですから隠してるんですよ」
「そうか、不意だったから思わず笑ってしまった……悪い事をしたな」
数分後
「確認は終わった、通って良し!」
門が開く
従業員達が馬車に乗り込む
「ああ、そこの! さっきは悪かったな!」
「……いいえ」
兵士が再び顔を隠した従業員に謝る
「それでは、失礼します」
カイナンが馬車に乗り込み、馬車は走り出した
············
都から出て20分ほど走った馬車の中
「いや〜何とか誤魔化せましたね」
「剃った甲斐があったな」
カイナンはそう言って、布を外したカイトを見る
カイトは髪と眉毛を剃り落として、つるっつるになっていた
「眉も剃る必要ありましたか?」
カイトの髪を剃った従業員が聞く
「俺の毛って水色だし、目立つだろ? だったら剃り落とすべきだ……顔は一部の将しか知らないと予想してたが、予想通りだったな」
カイトはそう言って頭を触る
「でもスースーして落ち着かないな……」
「昼間は布巻いときましょう、火傷しますよ」
「ああ、そうする」
こうして、カイトはリールの都から脱出する事は出来た
次はリール領からの脱出である
············
ーーーガルダ視点ーーー
「今、なんて?」
「カイト·オーシャンが城から逃げ出しました! 現在都中を捜索中です!!」
「…………」
思わず頭を抱える
「最初っから地下に幽閉していれば……いや、そうしたらここの事は知れなかったか……まあいい、起きたことは仕方ない」
しかし、よく逃げ出せたな……
「カイト·オーシャンはどうやって部屋から? 見張りを殺したのか?」
「いえ、窓からシーツを使って逃げ出したそうです、フラン様曰く、こう、結んだシーツで勢いをつけて木に飛んだのだと、木の下で縄に縛られていた兵士から証言も取れました」
「ほう、縛られていたって事は、その兵士から装備を奪って兵士のフリをして城外に出たと」
「その様です」
…………
「どうやら、私はあの男を嘗め過ぎた様だな……そうだな、『東方の覇者』だ、無能な訳が無い」
あの弱さも、あの態度も、自分が無能だと思わせる為の演技だったりするのか?
「君、すぐに城に戻って、フラン様に報告を」
「はい! どの様な内容で?」
「『カイト·オーシャンは既に都も出て居るはず、追跡部隊を出して下さい、私も追いかけます』っと」
「わかりました!」
「それと、門の兵士に、外に出した者を全て書類に書き出すように伝えてくれ、私はここの指示を出し終わったらすぐに戻る」
「わかりました!!」
············
20分後
「成る程、カールサルス商会の馬車だけだな?」
「はい、私達が通したのは彼等だけです」
「カールサルス商会……オーシャンとも深いつながりがあった筈……」
その馬車に乗ってる可能性が高いな
「カールサルス商会はどっちの方向に?」
「ゴウルンの方に向かいました」
「ゴウルン……」
オーシャン軍が何度も攻めてきてる都だな
決定的だな
「君、追跡部隊が来たらフライト方面に向かう様に伝えてくれ」
「ガルダ将軍、馬は必要ですか?」
「いや、自分で走った方が速い」
そして、私は走り出す
カールサルス商会の馬車が門を通ったのが20分ほど前
私の足なら、40分もあれば追いつけるな





