第18話
朝の冷気が、崩壊した大広間の熱をゆっくりと奪っていく。
砕け散ったガラスが朝日に反射して、まるで残酷な宝石のように足元で輝いていた。
リゼットは一度も振り返ることなく、静かに、かつ堂々とした足取りで広間の出口へと向かう。
その後ろには、かつて彼女を追い詰め、あるいは奪い合おうとした三人の男女が、影のように付き従っていた。
アルヴィンは王太子としての虚飾を捨て、リゼットの足跡をなぞるように歩く。
マリアは恍惚とした表情で、姉の背中に全神経を集中させている。
レオンハルトは、彼女を守る盾であることを自らの新たな誇りとして、剣の柄に手を置いていた。
かつての敵対も、醜い執着も、すべてはリゼットという絶対的な力の下で平伏し、一つの「秩序」へと統合されている。
視界の端で激しくエラーを吐き出していたシステムウィンドウは、もはや意味をなさず、砂嵐のように霧散していった。
テンプレート化されたハッピーエンド、あるいは予定調和の断罪。
そんなものは、今の四人が築き上げた狂った絆の前では、紙屑ほどの価値もない。
彼らを繋いでいるのは、愛よりも重く、死よりも逃れがたい、支配と服従という名の至高の共存関係だ。
リゼットは王宮の回廊に差し込む陽光を浴び、小さく喉を鳴らして笑った。
「地獄へようこそ、皆様。私たちの物語は、ここからが本当の幕開けですわ」
彼女の宣告は、新しい時代の夜明けを告げる鐘の音のように響いた。
誰よりも誇り高く、誰よりも残酷に。
リゼットは従えた三人の怪物と共に、自らが作り上げた新しい世界の深淵へと、優雅に踏み出していった。
◇ ◇ ◇
数年が過ぎ、王国はかつてないほどの繁栄の極みにあった。
表向きには、リゼットは国を救った賢女として讃えられ、その慈悲深い統治は隣国にまで鳴り響いている。
けれど、王宮の最上階、彼女の私室だけは、外側の平和とは無縁の濃密な悪意と執着が渦巻く深淵だった。
リゼットが朝の光の中で目を開けると、まず耳に届くのは、扉の向こうで交わされる刺々しい密談の気配だ。
「お姉様の目覚めを邪魔しないでくださる? アルヴィン殿下」
「黙れマリア、これはリゼットの健康を考えた特別なスープだ」
扉が開くと、アルヴィンがかつての高慢さを微塵も感じさせない卑屈な微笑みを浮かべて入ってくる。
彼が恭しく捧げ持つスープからは、リゼットの意識を混濁させ、自分なしでは生きていけなくするための怪しげな薬草の香りが漂っていた。
リゼットはそのスープを受け取り、一口も飲まずにテーブルに置く。
部屋の隅、調度品の影からは、マリアが仕掛けた魔石の録画装置が、彼女の吐息ひとつ逃さぬようにレンズを向けている。
そして窓の下には、レオンハルトが配置した私兵たちが、護衛という名目で彼女を外の世界から完全に遮断するために、鉄の檻のように居並んでいた。
三人の怪物たちが、リゼットという一輪の花を自分のものにするために、互いの喉笛を狙いながら彼女の足元に跪いている。
リゼットにとって、この張り詰めた修羅場の空気こそが、最高の目覚まし時計だった。
「おはよう、私の可愛い駒たち。今日も最高の地獄を見せてちょうだい」
彼女は満足げに喉を鳴らし、世界で最も危険な朝食の時間を始めた。










