第15話
ダンスの旋律が終わりに近づいた瞬間、アルヴィンが強引にリゼットの腕を引き寄せた。
「リゼット、今だ! 皆、聞け! この私が愛するのは──」
彼が壇上で演説を始めようとしたその時、会場のあちこちから悲鳴とどよめきが上がった。
広間に投げ込まれたのは、マリアが秘密裏に複製させていた、王室予備費の不当流用を示す膨大な証拠書類の束だった。
アルヴィンがリゼットに贈った宝石も、今宵の豪華な演出も、すべてが国民の血税を盗んだ金によるものだと記された紙片が、舞踏会の床を白く埋め尽くしていく。
「貴様、マリア! 何をした!」
アルヴィンが血走った瞳でマリアを指差すが、マリアは冷笑を浮かべ、懐から毒のついた扇を広げた。
「泥棒猫はお姉様ではなく、殿下、あなたの方でしたのね」
マリアがアルヴィンを糾弾しようとした瞬間、今度は広間の扉が乱暴に跳ね飛ばされた。
治安維持の名目で武装したレオンハルトの私兵たちが、抜剣した状態で雪崩れ込んでくる。
「王太子は横領の現行犯、ヴァレリア家令嬢は暗殺未遂の疑いがある。これよりこの場は私が統治する!」
レオンハルトの宣言は、事実上の国家転覆の布告だった。
アルヴィンの横領、マリアの暗殺未遂、レオンハルトの叛逆。
華やかな舞踏会は一瞬にして、互いの急所を食い破り合う獣たちの檻へと変貌した。
リゼットは混乱の渦中にありながら、誰の腕にも抱かれることなく、ただ静かに一歩下がった。
彼らが互いを罵り、破滅へと突き進むその様は、どんな高価な舞台装置よりも滑稽で、そして完璧な喜劇だった。
◇ ◇ ◇
阿鼻叫喚の広間。
怒号と悲鳴、そして抜剣した鉄の音が混じり合い、かつての社交界の華やかさは見る影もない。
ここでリゼットの視界が歪み、世界の色がわずかに色褪せた。
いつものシステムウィンドウが、不気味なほどの静寂を伴って現れる。
『イベント:真の悪役は誰か』
『選択肢A:愛する男にすべてを委ね、罪をなすりつけて共に逃走する。』
『選択肢B:全員の罪を冷酷に告発し、唯一の潔白な聖女として生き残る。』
リゼットは沸き上がる嘲笑を抑えることができなかった。
十一回の人生で飽きるほど見てきた、安っぽい救済のテンプレート。
誰かに助けられて終わるハッピーエンドも、独り勝ちして終わる物語も、今の彼女には砂を噛むような退屈でしかない。
アルヴィンが、マリアが、レオンハルトが。
絶望と怒りに染まった顔でリゼットを見つめ、救いを、あるいは破滅の共有を求めて手を伸ばしている。
システムは執拗に、彼女にヒロインとしての決断を迫っていた。
けれど、リゼットの指先はAにもBにも触れようとはしない。
彼女が見つめているのは、この閉じた回路の外側にある、誰も見たことのない泥沼の深淵だった。










