第13話
祭典まであと二日。王宮の回廊には、アルヴィンが配置した近衛兵と、それを監視するように立つレオンハルトの私兵がひしめき合い、一触即発の火花が散っていた。
そんな一触即発の空気の中を、リゼットは頼りなげな足取りで歩く。
彼女はまず、執務室で焦燥に駆られるアルヴィンの元を訪れた。
「殿下、祭典の警備がこれほど厳しいのは、やはり私を……何か恐ろしいことから守るためなのですか」
不安げに上目遣いで尋ねる彼女に、アルヴィンは狂喜に近い使命感を燃やした。
「そうだ、リゼット。君を狙う不届き者が多すぎる。だが安心しろ、当日の演説で私がすべてを終わらせ、君を私の腕の中に戻してみせる」
リゼットは満足げに微笑み、次にマリアの待つ離宮へと向かった。
「マリア、殿下の様子がどこかおかしいの。私、祭典の夜が怖くてたまらないわ。信じられるのはあなただけよ」
「お姉様、大丈夫ですわ。私がすべてを排除して、誰にも邪魔されない安全な場所へ連れて行って差し上げます」
マリアの瞳に宿る監禁への執着を認め、最後に彼女はレオンハルトと密会した。
「レオンハルト、王家も義妹も、私を私物化しようと躍起になっているわ。この国はどうなってしまうのかしら」
「フン、案ずるな。無能な連中が騒いでいる間に、私が真の秩序を叩き込んでやる。君はその隣で笑っていればいい」
三人の男と女に、それぞれが望む「救済者」としての幻想を見せ、リゼットは陰で冷徹に情報の糸を引く。
彼女は間者から届く報告書を読み解き、彼らの計画が衝突する瞬間を分単位で計算していた。
三人は自分こそがリゼットの唯一の理解者であり、この混沌の勝者になると信じて疑わない。
リゼットはその滑稽な自信を栄養にして、さらに深く、暗い策略の根を王宮全体に張り巡らせていった。
◇ ◇ ◇
祭典前夜、王宮の影で最初の火花が散った。
リゼットは各陣営に対し、相手の致命的な計画をあえて不完全な形でリークしていた。
アルヴィンには、マリアが彼を失脚させるための毒薬と「檻」を用意していることを。
マリアには、アルヴィンが祭典の夜にリゼットを強制的に連れ去り、二度と会えなくする計画を。
そしてレオンハルトには、二人が共謀して彼のクーデターを事前に告発しようとしているという偽情報を。
自分こそがリゼットを救う唯一の騎士であると信じ込む三人は、互いを「リゼットを汚す害虫」と見なし、祭典の開始を待たずに牙を剥き合った。
近衛兵と私兵、そしてマリアの放った工作員たちが、暗い回廊や庭園の隅で音もなく衝突を繰り返す。
そのすべてはリゼットの筋書き通りだった。
彼女は自身の側近に命じ、三者の越権行為、私兵の不当な動員、そして暗殺未遂の証拠を逐一記録させていく。
彼らが必死に相手を排除しようとすればするほど、リゼットの手元には彼らを社会的に、あるいは法的に抹殺するための極上の「収穫」が積み上がっていった。
三人の欲望が複雑に絡み合い、もつれ、解けなくなった中心で、リゼットは静かに冷たい指先で指揮棒を振る。
「さあ、舞台は整いましたわ。あとは最高の崩壊を見せてちょうだい」
彼女の言葉と共に、建国記念祭の幕開けを告げる鐘が、夜の王都に重々しく響き渡った。










