第6話「世界最高の頭脳と無敵のゴーレム(巨乳)がひとつになれば超絶最強らしい」
「解剖させてくれないか?」
「嫌です」
ミサキは即答した。
「解剖するなら、セロさんをお勧めします。私よりずっとトンチキな能力を持っていますよ」
「人を献体みたいに紹介しないでくれる?!」
「敵だけを強くする歌か。喉を開けば仕組みがわかるかな?」
「わからないし、開かないで」
「そもそも、アニマは何のためにそんな研究をしてるの?」
「よくぞ聞いた!」
錬金術師のアニマは荷車の上へ飛び乗り、一本の指を空へ突き立てた。
「アタシの目的は、賢者の石を精製することだ!」
「賢者の石?」
「究極の錬金素材さ。あれさえあれば、アタシとT-ONEはひとつになれる!」
アニマが美女型ゴーレム・T-ONEの腰へ抱きつく。
「アタシの世界最高の頭脳と! 超絶最強無敵のT-ONEがひとつになれば!」
[この世に恐れるものなどありません。そうですよね、アニマ]
T-ONEが、アニマの頭を撫でながら言った。
「その通りだ! さすがはアタシのT-ONE! AIの成長は順調だな!」
「えーあい?」
「さっき説明したばかりだろう! 聞いていなかったのか?」
「長かったから途中から聞いてなかった」
「アルケミック・インテリジェンス。錬金知性だよ。そしてこの『T-ONE』は真の自我を持つAGI――アルケミック・ゴーレム・インテリジェンスなのだ!」
「どうしよう。まったく意味がわからない」
「声に出てるぞ!」
隣で聞いていたミサキが、T-ONEをじっと見る。
「つまり、そのゴーレムも呪殺可能ということですね」
[残念ですが、ワタシにはレベルの概念がありません]
「チッ」
だから、なんでちょっと残念そうなんだよ。
「でも、すごいじゃん! ティーっち、めっちゃカワイイよ! ちょー白ギャルっぽい!」
ギャル風水師・パルの言うとおり、T-ONEの顔立ちはよく整っている。
長い黒髪に、穏やかな垂れ目と太い眉。白黒の服を押し上げる胸は、ゴーレムとは思えないほど豊かだった。
対して、その腰へ抱きついているアニマは小柄で、白衣の胸元も見事に平らだ。
「ん? アタシに何か用かね?」
分厚い眼鏡がきらりと光った。
「何もないです」
俺はそれ以上考えるのをやめた。
◇
昼の休憩中も、アニマはT-ONEから離れなかった。
「ああもう、かわいいやつめ!」
最後には、正面から勢いよく抱きついた。
[アニマ。どうしましたか]
「どうもしない! 愛情表現だ!」
[愛情表現]
「そうだ! 好きな相手には、こうして抱きつくものなのだよ!」
[学習しました]
「変なこと教えるなよ……」
「何が変なんだ。アタシはT-ONEが好きだぞ!」
[ワタシもアニマが好きです。ワタシの使命は、アニマとずっと一緒にいて、アニマをずっと守ることです]
「うむ!」
アニマは満足そうだ。
けれど、T-ONEの言葉は全部、アニマを中心にしていた。
「Tは、それでいいの?」
[質問の意味を特定できません]
「アニマがどうしたいかじゃなくて、Tはどうしたいのかなって」
T-ONEが黙った。
穏やかな目が、ほんの少しだけ見開かれる。
[回答を保留します]
「そんな難しい質問か?」
[はい。これまで、検討したことがありません]
◇
その晩。
野営地で酒を飲んだあと、ミサキもパルもアニマも早々に寝てしまった。
俺はなかなか寝つけず、一人で焚き火のそばに残っていた。
[こんばんは]
「あれ、T-ONE。どうしたの。寝なくて大丈夫?」
[ワタシは睡眠を必要としません。ひとつ、聞きたいことがあります]
「便利なんだね。聞きたいことって?」
[世界についてです]
T-ONEは俺の隣へ座った。
[ワタシは目覚めてから、ずっとアニマの研究室にいました。旅に出て初めて、知らないものが世界には多く存在すると知りました]
[ワタシは、もっと世界を知りたい。そうすれば、アニマの役に立てると思うのです]
「偉いんだね」
[はい。ですから、ワタシに世界を教えてください。セロ様は勇者様とともに、各地を旅されていたのでしょう]
「うん……まあね」
今はもう、その旅から外れてしまったけれど。
[もうひとつあります。昼間、セロ様はワタシに尋ねました。『Tはどうしたいのか』と]
T-ONEが自分の胸へ手を当てる。
[そのとき、錬金回路に新しい反応が発生しました。ワタシがどうしたいのか。それは、今まで存在しなかった問いです]
[ワタシは、アニマを守り、仕えることがワタシだと考えていました。しかし、別の答えも探せるのでしょうか]
「別に、すぐ決めなくてもいいんじゃない?」
「俺も今、自分がどうしたいのか、よくわかってないし」
[では、探してもよいのでしょうか]
「もちろん」
[ワタシは、もっと世界を知りたいです]
太い眉が、ほんの少しだけ上がった。
[セロ様に、教えてほしいです]
「俺に教えられることなら」
星を見上げていると、背後で雪を踏む音がした。
次の瞬間、背中へ二本の腕が回された。
大きな胸が、背中へ押しつけられる。
……柔らかい。
「ちょ、T-ONE!?」
[はい]
「何してるの!?」
[愛情表現です]
[アニマが教えてくれました。好きな相手には、こうして抱きつくものなのだと]
「いや、確かに言ってたけど!」
「T! 無事だったか!」
夜の野営地から、アニマが駆けてきた。T-ONEが立ち上がって、お辞儀をした。
白衣は乱れ、眼鏡もずれている。
「勝手にいなくなって! アタシは心配したんだぞ! お前がいなくなったら、アタシは……」
声が震えた。
泣きそうに歪んだ顔が、俺を見つける。
「ご、ごほん。なんだセロ、君と一緒だったのか」
アニマは眼鏡をかけ直した。
「……まさか、アタシのT-ONEに何かしたんじゃないだろうな?!」
「何もしてな――」
[はい。セロ様に初めてを教えてもらいました。とても特別な一夜でした]
「……は?」
「待って! 本当に俺からは何もしてない! さっきだって急に後ろから抱きつかれただけで……!」
「……解剖だ」
「だから、される理由がないって!」
「生体解剖を開始する! T-ONE! その泥棒詩人を確保しろ!」
[了解しました、アニマ]
T-ONEがもう一度、俺を抱きしめた。
[マスター・セロ。抵抗しないでください]
「待って待って待って! 今、なんて呼んだ?!」
「マスターだとぉ?!」
[今、ワタシが決めました]
T-ONEは俺を逃がさないまま、静かに続けた。
[ワタシがどうしたいのかは、ワタシが決めてよいと、マスター・セロに教わりました]
「セロォ!!」
「俺のせいなの?!」
T-ONEは相変わらず穏やかな無表情だった。
けれど、なんとなく少しだけ楽しそうに見えた。
夜の闇に、俺たちの声が溶けていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回のお話はここまでです。自我を持ったゴーレム、AGIのT-ONEは、作者大のお気に入りのキャラクターの一人です。無自覚かわいいっていいと思いませんか。はあはあ。
これからはしばらく、朝・昼・夜の三回に分けて更新していきます。
引き続き、この後の更新もお楽しみに!
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