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第21話「勇者パーティを追放されたデバフ専の吟遊詩人ですが、冷遇ジョブの余り物たちを集めたら両手に花どころか全員美少女の超絶最強軍団になりました」

 古代大橋の上に、もはや軍隊と呼べるものは残っていなかった。


 ある者は橋から転げ落ち。

 ある者は武器を放り出し、力なく倒れ伏していた。

 残った者たちも、怯えたように逃げ去るか、呆然と立ち尽くしている。


 その軍勢は、戦うことすらできないまま壊滅していた。


 そして。


 四天王が、全員死んだ。


「みっつめ」


 橋の中央。

 青白いバリアに覆われた処刑台で、レベル5デス呪術師のミサキが、真っ黒な目を魔王へ向ける。


 その手には、最後の一体となった呪術人形が残っていた。


「よっつめは……あなたです。魔王」


 魔王バアルの顔に、初めて感情が浮かんだ。


 ――それは、『恐怖』だった。


     ◇


 ――四分前。


 魔王軍が、旧西方街道に姿を現した。


 黒い鎧を着た兵士。オーガ。獣の頭を持つ騎兵。地面を這う魔物。

 数えるのが馬鹿らしくなるほどの軍勢が、谷の向こうを埋め尽くしている。


 その先頭に、四つの影があった。

 残る四天王三人と、魔王バアル。


 俺は、巨大な黄金龍ティアマットの頭上でリュートを構えた。


「来たよ、ティア」

「見ればわかる。落ちるでないぞ、セロ」


 ティアは建物ほどもあるメガホンを両前脚で抱え、翼を広げた。


「妾は、この姿を後世の壁画に残すことを禁ずる」

「もう王都の絵師が三人くらい描いてる」

「焼くぞ」


 低空へ舞い上がる。

 風に煽られないよう、角の根元へ身体を固定する。


眼下では、参謀役のメアが赤い旗を上げた。

その隣で、商人のメローが王都兵と商会の人員を動かしている。旗を運ぶ者、眠った敵を拘束する者、薬と担架を運ぶ者。誰がどこで何をするかまで、一週間分の物資と一緒に配置済みだった。

鍛冶師のメーガンは伝声管へ耳を当て、処刑台との接続を確かめてから、大きく丸を作った。


 ――作戦開始。


 リュートを鳴らす。

 最初に歌ったのは、速度を上げる歌だった。


 クソでかいメガホンを通った歌声が、谷全体を震わせる。


 先頭を歩いていた魔物たちが、突然加速した。

 後ろから押されたのではない。本人たちが、今までと同じ一歩のつもりで、倍近い距離を進んだのだ。


 前列が、パルの作った盛り土へ突っ込む。

 止まろうとした後列へ、その後ろが突っ込む。

 騎兵の馬だけが先へ飛び出し、手綱を引いた騎手が後ろへ落ちた。


「あーっ! 隊列を維持しろ!」


 敵の指揮官が怒鳴る。

 さすがに、すぐ立て直そうとした。


 だから、歌を変えた。


 今度は、筋力を上げる。


 兵士が身体を支えようと地面へ突いた槍が、折れた。

 盾を構え直したオーガが、勢い余って隣の兵士を殴り飛ばす。

 弓兵が弦を引きちぎり、騎兵は手綱ごと馬の口具を引き抜いた。


強くなった。


誰一人、弱くなっていない。


ただし、軍隊は壊れた。


三つ目は、知力を上げる歌。


命令されたとおり前へ進んでいたゴブリンが、急に立ち止まった。


「待て。なぜ我々は、勇者不在の王都を攻めている?」

「魔王様の命令だからだ!」

「命令であれば、あらゆる行為は正当化されるのか?」

「お前、昨日まで三までしか数えられなかっただろ!」


考える必要のなかった兵士が、命令の意味を考え始める。

伝令へ質問が集まり、返事を待つ者が足を止めた。その後ろへ、まだ速度の感覚が戻らない兵士たちが突っ込んでいく。


「次、いけるよー! 急急如律令!」


 ギャル風水師のパルが、羅盤を回した。

 斜面へ貼られた護符が一斉に震え、谷を抜ける風の向きが変わる。


「ミナ、放出!」

「言われんでも、もうやっとる!」


 薬師のミナが金属容器の栓を開く。

 アニマ博士の作った謎の装置が、それを白い霧へ変えた。


「見たまえ! 対集団完全無力化型エアロゾル散布システム、正常稼働だ!」

「毒ガ――」

「睡眠霧や!」


 言い直す担当まで決まっていた。


白い霧が、パルの風に乗って敵陣へ流れる。

逃げ道に見えた場所は石壁で塞がれ、石壁を避けた者は落とし穴へ落ちる。そこから這い上がった先に、風で押し戻された霧が待っていた。


「みなさーん! こっちを見てくださーい!」


 橋の上で、踊り子のアイが両手を振った。

 星を浮かべた瞳が輝き、混乱していた魔物たちの顔が、一斉にアイへ向く。


「はい! 大きく息を吸ってー!」


 俺は、敵の肺活量を上げる歌へ切り替えた。


 胸が大きく膨らむ。

 白い霧が、大量に肺へ吸い込まれていく。


「そもそも肺活量を上げる歌ってなんなんだよ!」

「あるんですから仕方ないですねぇ~!」


 アイが踊りながら叫んだ。


 魔物たちが、一体、また一体と倒れていく。

 死んだわけではない。大いびきをかき始めただけだ。


武器を捨てて霧から逃げ出す者。

知力が上がっていた間に戦争の意味を疑い、そのまま帰ろうとする者。

橋の途中で座り込み、待遇改善を要求し始めるゴブリンまでいた。


「前へ進め! 命令だぞ!」

「その命令に正当性はあるのか!」

「急に賢くなるな!」


 魔王軍は、王都へ着く前に労働争議を始めた。


その混乱の中を、四つの影だけが進んでくる。

バアルと、三人の四天王。


眠りの霧を魔力で弾き、壊れた隊列を置き去りにして、古代大橋へ足を踏み入れた。

バアルは無理に全軍を進ませなかった。生き残った部隊へ撤退と負傷者の回収を命じ、自分たち四人だけでこちらの心臓部を潰すと即座に決めた。


軍隊としては、もう負けている。

それでも、魔王本人が負けたわけではない。


 ただし、彼らはまだ知らない。


 橋の中央には――処刑台が待っていることを。


     ◇


 呪殺の順番が確定したのは、作戦前日のことだった。


 机の上には、四枚の似顔絵が並んでいた。

 残る四天王を①、②、③。最後の④を、バアルとする。


「必要なのは敵のレベルじゃないわ。何回目のレベル上昇で《五刻殺》が成立するか。それだけ」


 メアが、質問書を指で叩いた。


「質問中の『対象』は、現在この場で指定した敵個体を指す」

「『レベル上昇一回』はセロの歌一回分」

「『五刻殺が成立する』は、その時点で対象のレベルが5の倍数になること」

「未来のレベル変動は、セロの歌以外ないものとして答えて」


 YES/NO神託の巫女フレデリカが、長椅子の上で尻尾を揺らした。


「……仕様を先に固めるのはいいね」


 作戦に協力すると決めてから、フレデリカは一度も質問を拒まなかった。

 メアが四枚の似顔絵をまとめて指す。


「指定した四人の対象の中に、現時点でレベルが5の倍数であるものが、一人でもいる?」


 サファイアブルーの瞳が、真紅に染まる。


「NO」


 これで、必要なレベル上昇は一回から四回までの四択になった。


 メアは①の似顔絵を指定する。


「対象に《五刻殺》が成立するのは、レベル上昇三回目または四回目?」

「NO」

「二回目または四回目?」

「YES」


 ①は、二回目。


 ②は、NO、NO。一回目。

 ③は、NO、YES。二回目。

 ④――バアルは、YES、YES。四回目。


「美しい! 四状態を二回答で符号化している!」


 博士が、質問書を掲げた。


「これ以上減らせる?」

「無理だ! 四択を一回のYES/NOで識別できるわけがない! 二回が理論上の最低値だ!」

「なら採用」


 メアが完成した表を、壁へ貼った。


 第一処刑:②。


 第二処刑:①・③。


 第三処刑:なし。


 第四処刑:④――バアル。


「この顔ですね」


 見上げたミサキの目が、一瞬だけ黒く染まった気がした。


「覚えましたよ」


     ◇


 最後の作戦が、はじまった。


 橋の上空。黄金龍の額の上で、俺は歌いはじめた。


 敵にだけ効く、敵のレベルだけを上げる歌を。


 この歌に抗えるものは、いない。たとえそれが、魔王であったとしても。


 一回につき、三十秒。


 敵が処刑台へ近づく。

 その前へ、バリアを張るゴーレムのT-ONEが立った。


[特殊形状バリア。ロード完了]


 青白い光が、処刑台を完全に覆う。


 四天王の一人が巨大な斧を振り下ろした。

 光の壁が受け止める。

 揺れない。傷一つつかない。


 三十秒。


 歌が、一回分に到達した。


 第一処刑:②。


 ミサキが、二番の人形を片手で持ち上げる。


「――《五刻殺》」


 両目が、真っ黒に染まった。


「がふっ」


 斧を振り上げていた四天王が、糸を切られたように崩れ落ちる。


 処刑台の下から伸びた金属管が、その声を運んだ。


『……ひとりめ』


 メアが白い旗を上げる。


 俺は、歌い続けた。


 さらに三十秒。


 第二処刑:①・③。


 ミサキは二体の人形を、左右の手へ一体ずつ持った。


「――《五刻殺》」


「ごふぁっ」


 一人が倒れる。


『……ふたりめ』


「――《五刻殺》」


「バカな――」


 もう一人が倒れる。


『……みっつめ』


 これで、残っていた四天王は全滅。


 以前倒した一人を含めれば、四天王全員を殺したのはミサキだ。


 古代大橋の上に、もはや軍隊と呼べるものは残っていなかった。


     ◇


「よっつめは……あなたです。魔王」


 最後の人形を向けられたバアルは、逃げなかった。


 その目に恐怖の色を浮かべながら、それでもなお、周囲を見渡した。

 眠る兵士。折れた武器。霧。風。処刑台。空を飛ぶ黄金龍。


 その視線が、ひとつずつ糸をたどるように動く。


だから俺は、誰も死なない三十秒も歌い続けた。

三回目のレベル上昇が成立する。

ミサキは、最後の人形を持ったまま動かない。


第三処刑:なし。


 バアルが、空を見上げた。


 正確に、俺を見た。


「……あれが〝心臓〟か」


 恐怖が、消えた。


 魔王の周囲で、空気が歪む。

 橋の上に散っていた黒い魔力が、一点へ集まり始めた。


「……いかん!」


 予備戦力として地上にいた師匠が、誰より早く叫んだ。


「カラクリに気付かれた! セロ! ティアマット!」


 師匠が巨大なハンマーを持ち上げる。

 柄の根元で、ひび割れたダイヤモンドが白く光った。


「ヒュパティア。下がれ」


 ティアの声が、低く響く。


「じゃが――」

「二人とも賭ける必要はない。妾の一撃で足りる。お前のハンマー。その魔力の源が、いつ砕け散るのか、もはや自分でもわからんのだろう?」


 師匠の腕が、止まった。


 眼下で、夜そのものを固めたような光が膨れ上がる。

 狙いは王都でも、処刑台でもない。


 俺だ。


「ふ。やはり一筋縄ではいかんな」

「何? 何が?」

「今から、デカいのが来る」


 ティアが、大きく息を吸った。


「案ずるな。妾に任せよ」


「でも! そうしたらティアが――」


 歌を止めそうになった。

 ティアを助けなければと、リュートから手を離しかけた。


「甘えるな!」


 黄金龍の一喝が、俺の迷いを叩き落とす。


「歌え、セロ!」


「勇者ではなく、そなたが世界を救うのであろう!」


「ならば――歌えい!」


 死にたくはない。

 だが、守りたい。


 それが、ティア自身の答えだった。


 俺が勝手に歌を止めれば、ティアの意思を、役目と同じように奪うことになる。


 だから、信じる。


 俺は、歌い続けた。


 バアルが、両手を振り下ろす。


 黒い光が、空を埋めた。


 ティアの口から、黄金の炎が放たれる。


 五百年、王都を守り続けた黄金龍。


 その、最後の全力ブレス。


 黒と金が、正面から衝突した。


 空が割れた。

 谷が揺れた。

 音が消え、次の瞬間、遅れてきた爆音が全身を殴った。


 リュートを持つ指が痺れる。

 喉が焼ける。

 それでも、俺の歌だけは止まらない。


 第四処刑まで、あと三十秒。


 二十五秒。


 二十秒。


 黄金の炎が、黒い光を押し返していく。


 十五秒。


 バアルが、俺を睨んだ。

 その向こうで、眠らなかった魔物たちが、もう西へ逃げ始めている。


 十秒。


 魔王は最後の人形を見た。

 次に、倒れた三人の四天王を見た。


 そして、背を向けた。


 黒い魔力がバアルの身体を覆う。

 次の瞬間、その姿は橋から消え、遠い西の空へ一筋の影だけが走った。


 俺の歌が届く範囲から、魔王が逃げ出した。


 第四処刑は、成立しなかった。


 けれど。


 魔王軍は壊滅した。


 バアルは撤退した。


 王都は、守られた。


     ◇


 ティアは、橋の脇へゆっくり降りた。


「ティア!」


 地面へ飛び降りる。

 黄金龍の巨体が光に包まれ、輪郭が急速に縮んでいく。


 光が消えた場所には、白金色の長い髪と黄金の角を持つ、小さな女の子が倒れていた。

 白と金の衣装に包まれ、細い尻尾だけが力なく地面へ伸びている。


「ティア!」

「……騒ぐな」


 抱き起こすと、黄金の瞳が薄く開いた。


「妾は、生きておる」


「よかった……」

「当然だ。そなた、妾を誰だと思っておる」


 声はいつもどおり尊大だった。

 でも、俺の腕を押し返す力はほとんど残っていなかった。


「勝手に小さくなっただけだ」

「魔力、使い切ったんじゃないの?」

「……細かいことを言うな」


「それはわしの台詞じゃ!」


 師匠が走ってくる。

 巨大なハンマーは背負ったままだった。


 その後ろから、みんなも集まってきた。


[マスター・セロ。負傷を確認します]

「旦那様! 全部ありますか!?」

「その聞き方やめろ!」

「セロ、喉見せ。歌いすぎや」


 ミナに顎を掴まれ、口を開けさせられる。

 鍛冶師のメーガンは、ひしゃげたメガホンを見て泣いていた。


「一週間かけたのに、一回で壊れたのだ……」

「一回、世界を救っただろ」

「……!」


 メーガンが、ぱっと顔を上げる。


「そうなのだ! これはメーガンが作った、世界を救ったメガホンなのだ!」

「立ち直るの早いな」


 橋では、眠った魔物たちを王都の兵士が拘束していた。

 商人のメローが毛布と薬と食料の搬入を指示し、パルが落とし穴から敵味方を問わず怪我人を引き上げている。


 死んだのは、四天王三人。

 それ以外の大半は、眠ったか、逃げたか、武器を捨てて降伏した。


 勇者は、間に合わなかった。


 でも、王都は無事だった。


 勇者パーティにいた頃の俺は、最後まで守ってもらう側にしかなれなかった。

 それが悲しかったし、寂しかった。


 今日は違う。


 俺一人で守ったわけじゃない。


 俺たちで、守ったんだ。


「これは……セロ」


 師匠が、橋の上を見回した。


「お主、自分がどんな連中を集めたのか、本当にわかっておるのか?」

「え?」


「もちろんよ」


 メアが、小さな眼鏡を押し上げる。


「ミーたちは――」


「超絶最強軍団よ」


 処刑台から降りてきたミサキが、最後の人形を鞄へ戻した。


「バアルさんを逃しましたけど」

「今回の勝利条件は王都防衛。スコープ外よ」

「では、よしとしましょう。ヌルゲーでしたね」


 俺は、笑った。


「うん」


「そうみたいだ」


     ◇


 三日後。


 王都の門の前に、十三人分の荷物が並んでいた。


「じゃあ、行こうか」


「どこへですか?」


 メローが、当然の疑問を口にする。


「さあ?」

「決めてないの!?」


 パルが大声を上げ、メアが頭を抱える。

 博士は西に面白い遺跡があると言い、メーガンは北の鉱山へ行きたいと言い、ミナはまず俺の喉が治るまで動くなと言った。


 T-ONEは全案の距離を計算し、フレデリカはサラダのおいしい町を要求する。

 アイはどこでも同衾できますと胸を張り、ミサキは賭場があればどこでもいいと言った。


 師匠は弟子なら師匠についてこいと笑い、その隣には小さくなったティアが腕組みして立っている。


「セロさん」


 メローが、困ったように笑った。


「せめて、行き先くらいは決めてから出発しませんか?」

「だって――」


 俺たちは、勇者じゃない。


 魔王を倒す使命もなければ、世界を救う役目だってない。


 だから。


 どこへ行くのかは、俺たちで決めればいい。


「歩きながら決めよう」

「それ、決めない人の言い方だよね」


 笑い声と一緒に、王都の門を出る。


 俺たちの旅は、続く。



 第一部「誕生! 超絶最強軍団!」編 完

第一部「誕生! 超絶最強軍団!」編、完結です!


七日間の短期集中連載に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

敵にしか効かない歌、五の倍数だけを殺す呪い、やたら長い計画書、強制睡眠霧、そしてクソでかいメガホン。単体では扱いづらかった力が、誰かの力とつながって、ついには王都を守るところまで来ました。彼らは勇者ではないので、次の行き先は歩きながら決めるそうです。


第一部だけでも、物語はいったんここで完結です。


もし第二部も読みたいと思っていただけたら、ブックマーク・評価・フォロー・感想などで応援していただけると、とても嬉しいです!


改めて。ここまで読んでいただいたことについて、お礼させてください。

本当に、ありがとうございました。


これからも、セロとヒロインズの旅は――続く、のか?!

すべてはPV次第です!笑


FSE

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