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第20話「ハズレスキル? 冷遇ジョブ? 掛け合わせれば、バグになる。」

 あれから一週間。俺たちはほとんど一睡もせず働き続けていた。


 一部を除いて。


「フレデリカ。起きて」

「やだ」


 YES/NOの神託を使う巫女は、古代大橋の脇に置かれた長椅子で毛布に包まっている。

 日当たりはいい。寝る場所としては百点らしい。


「もう敵、来るんだけど」

「来たら起こして」

「来る前に起きてほしいんだよ」


 諦めて、橋を見る。


一週間前まで、ただ直しただけだった古代大橋は、まったく別の場所になっていた。

橋へ続く街道には、落とし穴、盛り土、石壁。両側の斜面には無数の護符。橋のど真ん中には、四角い処刑台まで建っている。

色分けされた旗と杭がなければ、どこが安全な道で、どこからが罠なのか、作った俺たちにもわからない。昨日まで平らだった地面に、一晩で壁が増えている場所すらあった。


さらに少し離れた場所には、大きな布を被せられた、建物ほどの何かがあった。

俺も中身は聞いていない。博士が、見てから驚けとうるさかったからだ。


「本当に、これで大丈夫なの?」


「最終レビューを始めるわ」


 参謀役のメアリーが計画書を開いた。


「敵は街を襲っていない。略奪も戦闘もせず、旧西方街道を王都へ直進中。到着予定は今日の夕刻よ」

「目的は王都だけってことか」

「ええ。そして敵には、三つの選択肢がある」


 メアが指を三本立てる。


「橋を渡る。橋を使わず迂回する。撤退する」

「橋を渡ったら?」

「ウィーが殺す」

「迂回したら?」

「一週間遅れる。その間に勇者が帰ってくる」

「撤退したら?」

「王都は守られる」


 メアは指を閉じた。


「つまり、もう勝ってるのよ」


「まだ誰も戦ってないけど!?」


     ◇


「最初に、敵軍の隊列を崩すわ」


 計画書の上には、魔王軍に見立てた小さな駒が並んでいた。


「デバフなんて無意味なことをしないで。セの字がかけるのは、バフよ」

「強くしたら余計に危なくない?」

「一人ずつならね。でも、軍隊は全員が同じ速さ、同じ命令、想定された力で動くから軍隊なの」


 メアが前列の駒だけを、大きく進めた。


「速度を上げれば、前と後ろがぶつかる。筋力を上げれば、武器や手綱が出力についてこない。知力を上げれば、命令を聞くだけだった魔物が余計なことを考え始める」

「余計なこと?」

「そもそも、なぜ自分は戦争へ参加しているのか、とか」

「そこまで考える!?」


「セの字。あなたの歌は、敵を強くするんじゃない」


 メアリーが、俺をまっすぐ見た。


「敵のバランスを壊すのよ」


 敵が強くなることと、敵軍が強くなることは違う。


初めて聞いたときは、屁理屈だと思った。

でも、盤上の駒がばらばらになるのを見ると、いけるような気がしてくる。

前列が飛び出せば、後列が詰まる。足が止まれば、そこへ次の手が刺さる。ひとつの問題を、次の誰かが待ち構えている。


「崩れた雑兵は、ここでまとめて眠らせるで」


 薬師のミナが、大きな金属容器を叩いた。


「ウチの睡眠薬をアニが霧にする。パルが風で敵陣へ流す」

「アイが踊って、みんなにこっちを向いてもらいます!」

「最後にセロっちが、敵の肺活量を上げる感じ!」


「せっかくだから、いっぱい吸ってもらいましょう☆」


「毒ガ――」

「強制睡眠霧だ!」


 錬金術師のアニマが、ものすごい速さで訂正した。


「言い直しても怖さ変わってへんで」


 次は、残る四天王三人とバアル。

 敵は戦闘を避けて直進している。進軍中にレベルが変わる心配はない。


「必要なレベル上昇回数は、ゼロから四までの五通り」


 メアが五枚の札を並べた。


「最初の質問で三通りと二通りに分ける。次の質問で、さらに分ける。対象一人につき最大三問で確定できるわ」


「めんどくさい」


 毛布の中から声がした。


「西国の海鮮サラダを、一年間無料で手配いたします」


 商人のメローが告げる。

 毛布が動いた。フレデリカが起き上がる。


「質問形式に不備がある可能性がある。対象の同一性、基準時刻、レベル上昇回数の定義を事前にすり合わせるべき」

「急に喋るな!!」


「答えるかどうかは、ボクが決めるから」

「もちろん」


 フレデリカは尻尾を一度だけ揺らした。


「なら、いいよ」


 割り出した回数に合わせて、レベルを上げる。

 そして、五の倍数になった瞬間に。


「今回は特別な相手ですからね。人形も新しく作ったんです。大サービスですよ。うふふふふ」


 レベル5デス呪術師のミサキが、四体の呪術人形を処刑台へ並べた。

 角があるもの。翼があるもの。王冠を被ったもの。


「楽しそうだね」

「はい」


 否定しなかった。


 処刑が始まる前に、T-ONEが台全体をバリアで覆う。特殊形状の展開には時間がかかるため、敵の到着時刻から逆算してロードを始める予定だ。

 バリアは攻撃だけでなく音も遮断する。そのため鍛冶師のメーガンが、処刑台からこちらまで地中へ物理的な伝声管を通していた。


「これでミサキの声が聞こえるのだ!」

「完全に処刑実況だよね?」

「確殺確認なのだ!」


 合理的な単語へ言い換えても、やっていることは怖かった。


     ◇


「だが、セロ君の歌が届かなければ、すべては始まらない!」


 アニマが、巨大な布の前へ立った。


「見たまえ! これがアタシの錬金術と、メローのロジスティクス、そしてメーガンの技術! 三つを結集させた最終兵器だ!」


「T-ONE!」

[了解しました]


 バリアを張れるゴーレムのT-ONEが布を引く。

 巨大な布が、地面へ落ちた。


 そこに現れたのは、クソでかいメガホンだった。


「頭悪っ!」

「機能美と言いたまえ!」


 俺がティアの頭上で歌い、飛行するティアがメガホンを持つ。歌声は地上の魔王軍全体へ届く。


 巨大な黄金龍が、メガホンを見下ろした。


「……妾は、これを持つのか?」

「はい!」

「妾は黄金龍である。荷役竜ではない」

「世界を救う最重要任務です!」


 ティアは長い沈黙のあと、翼で顔を覆った。


「妾は五百年眠り、目覚めたあげくに何を持たされているのだ」


「……待て」


 ヒュパティアが巨大ハンマーを担いだまま、辺りを見回した。


「わしは、何をすればよい?」

「予備戦力ね。想定外が起きるまで待機」

「わし、世界最強クラスなんじゃが!?」


 ティアの視線が、師匠のハンマーへ向いた。

 ダイヤモンドの細いヒビが、朝日に白く光る。


「妥当な判断だ」

「なぜお主まで納得しておる!?」


 処刑台。

 強制睡眠霧。

 クソでかいメガホン。


見た目は、どれもひどい。

でも、ひとつずつ役割をたどれば、全部がつながっている。

誰かの役に立たなかった力が、別の誰かの力を受け取って、その次へ渡していく。

最初は、本当にこれで大丈夫なのかと思った。

今は違う。

作戦のどこを見ても、仲間の顔が見える。


 一週間前。

 勇者は、間に合わないと聞いた。


 じゃあ、誰が王都を守るのか。


「俺たちだ」


 全員が、こちらを見る。


「俺たちで守ろう。王都を。この世界を」


「俺一人じゃ、絶対に無理だ。ミサキ一人でも、パル一人でも、誰か一人じゃ勇者みたいには戦えない」


「でも、俺たちの力を合わせよう」


「ハズレスキル? 冷遇ジョブ? そんなの関係ない」


「掛け合わせたら、バグになるんだ」


「俺たちなら、できる!」


 ミサキが人形を持つ。

 パルが羅盤を開く。

 博士とメーガンが装置へ走り、ミナは薬剤を確認する。メアとメローが計画書を分け合い、アイが大きく手を振った。

 T-ONEが処刑台の前へ立ち、師匠は不満そうにハンマーを抱える。ティアが翼を広げた。


 最後に、長椅子から立ち上がったフレデリカと目が合った。


「フレデリカ。教えてくれ」


「……なに」


「俺たちは――勝てる?」


 サファイアブルーの瞳が、真紅に染まった。

 彼女は少しだけ微笑んで、そして、言った。


「YES」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


本日の更新はここまでです。

盤面はすべて整いました。明日は、第一部最終話。


超絶最強軍団、最終決戦へ。


☆や♡、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。

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