第18話「これで全員美少女軍団が揃ったね! え、まだいるの?!」
「――最後に、一つだけ確認します」
メローが、橋と、巫女のフレデリカを交互に見た。
「この補修で、満載の荷馬車が安全に渡れますか?」
フレデリカは日当たりのいい石の上に座っていた。
帰りたそうな顔のまま立ち上がり、メローを見る。
サファイアブルーの瞳が、真紅に染まった。彼女がこの目になったとき、その回答は、絶対に当たる。
「YES」
「ありがとうございます」
「別に」
それでも、フレデリカは質問される前から、ちゃんとこちらを見ていた。
商会の荷馬車が、橋の前へ進む。
荷台には、木箱と麻袋が隙間なく積まれていた。空荷ではない。実際の商売で使う重さだ。
御者が手綱を握る。
車輪が、古い石の上を進み始めた。
橋へ乗る。
最初の継ぎ目を越える。
ぎしり。
新しい中央区間が鳴った。
誰も喋らない。
メーガンは職人の目で、橋桁を見ている。
メアは計画書を握っている。
メローは懐中時計から目を離さない。
荷馬車が、谷の真上へ出た。
もう一度、橋が軋む。
進む。
中央を越える。
対岸の古い石へ、前輪が乗った。
後輪も続く。
満載の荷馬車が、橋を渡り切った。
峡谷の向こうから、御者が大きく手を振る。
「……採算が、合います」
メローが懐中時計を閉じた。
「このルートなら、港での積み替えも、船待ちも必要ありません。王都までの輸送は、今より一週間早くなります」
一瞬遅れて、歓声が上がった。
パルがメーガンを抱き上げ、博士が勝手に工事の成功責任者を名乗り、ミナに頭を叩かれている。
T-ONEは拍手をし、ミサキは何も殺していないのに少しだけ満足そうだった。
メローは、橋を渡っていく二台目の荷馬車を見つめていた。
その横顔には、営業用ではない笑みが浮かんでいた。
◇
メローの父は、橋のたもとに設けたテントの中で、報告書を読んでいた。
橋の復旧を聞き、商会の責任者たちを連れて確認に来たのだ。
数字を見る目は、メローとよく似ている。
「補修費は、海路にかかる追加費用の二年分以内で回収できます」
メローは父親の前に立ち、正確な声で説明した。
「輸送日数は一週間短縮。港湾利用料と二度の積み替え費用も不要です。季節ごとの補修費を含めても、現行ルートより利益が出ます」
「継続運用は」
「橋と街道に常設の保守班を置きます。費用はこちらです」
「西国側の荷受けは」
「すでに三商会から、陸路再開時の契約案が届いています」
父親が、最後の紙を置いた。
「……これなら、海運王との婚姻がなくても、西国交易は維持できる」
メローの肩から、わずかに力が抜けた。
「ただし」
父親の指が、別の帳簿へ移る。
「海運王との縁戚関係そのものにも価値はある。陸路が戻ったからといって、海路の価値が消えるわけではない」
間違ってはいない。
商人として見れば、橋と船の両方を持つ方が強い。
父親の視線は、また帳簿へ落ちた。
しゃらん。
小さく、鈴が鳴った。
「おじさま」
アイが、メローの後ろに立って、くるりと一回転した。
「なんだ」
「ちゃんと、見てあげてください」
父親が顔を上げた。
帳簿でも、契約書でもない。
大商人の跡取りでもない。
娘本人へ、その目が向いた。
メローは営業スマイルを浮かべなかった。
背筋を伸ばし、父親の目をまっすぐ見返す。
「お父様」
少しだけ息を吸う。
「わたし、この結婚はしたくありません」
橋の上を、風が通り抜けた。
父親は何も言わない。
メローも目を逸らさなかった。
「……そうか」
やがて、父親は机の上の報告書へ手を置いた。
「お前一人の希望で、商会は動かせない」
「承知しています」
メローは、机の上の数字を指した。
「ですから、希望だけではなく、商会が動ける条件を持ってきました」
父親は娘を見たまま、もう一度だけ問う。
「街道は維持できるのか」
「できます」
「利益は」
「出します」
「失敗したら」
「わたしの責任です」
父親は、復活した橋を見た。
その向こうでは、三台目の荷馬車が谷を越えている。
「なら――好きにしろ」
メローの目が、わずかに見開かれた。
「海運王への断りは、私から正式に入れる。本人の望まぬ婚姻を、無理に進める方ではない」
「……ありがとうございます」
「それから」
メローは、俺たちを振り返った。
「わたしは、この人たちと行きます」
「商会を捨てるのか」
「いいえ。旅先で新しい商路と取引先を見つけます。王都の仕事は引き継ぎ、利益は商会へ返します」
「そのような跡取りは、前例がない」
メローが、初めて笑った。
完璧な営業スマイルではない。
自分の条件を、自分で提示する商人の顔だった。
「前例は作るものです」
父親はしばらく娘を見つめ、深く息を吐いた。
「勝手にしろ」
「はい。勝手にします」
◇
王都へ戻ると、メローは家から旅用の鞄を一つ持ってきた。
「荷物、それだけ?」
「残りは商会便で送らせます」
「家を飛び出した人の台詞じゃないなあ」
「飛び出したのではありません。新規事業のための長期出張です」
「言い換えれば何でも経費にできると思ってない?」
「できますよ」
「できるんだ……」
メローは鞄を馬車へ載せると、俺の隣へ来た。
「セロ」
「ん?」
「……ありがと」
「俺、今回ほとんど何もしてないけど」
「うん」
「そこ肯定する?」
「でも、いてくれたでしょ」
俺は、みんなを見た。
橋の直し方を決めたメーガン。
それを実行できる計画へ変えたメア。
地面を動かしたパル。岩を砕いた博士。橋を支えたT-ONE。
現場を守ったミナ。答えをくれたフレデリカ。
そして、最後に父親の目をメローへ向けたアイ。
ミサキは――何も殺していなかった。
「なんで私だけ、少し残念そうな顔で見るんですか」
「気のせいだよ」
俺は今回、歌っていない。
敵を強くしてもいない。
レベルを一つも動かしていない。
ほとんど何もしていない。
……まあ、いいか。
「では、海運王は殺さなくてよくなりましたね」
「最初から殺さなくてよかったんだよ」
いつもの調子へ戻った声に、メローが笑った。
「――ほう。ずいぶん妙な連中を集めたものじゃな、小僧」
聞き覚えのある声がした。
振り返る。
商会の門の上に、小さな人影が座っていた。
少女にしか見えない姿。その横には、本人よりずっと大きなハンマーが立てかけられている。
人影が、にやりと笑った。
「…………師匠?」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
本日最初のお話はここまでです。はい出ました、のじゃロリ師匠!
私はですね、好きなんですよ。この「のじゃロリ」という属性が……!
セロと勇者の共通の師匠である彼女がどんな無理難題を持ってくるのか。答えは数時間後にわかります。
引き続き、この後の更新もお楽しみに!
☆や♡、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。
コメントも大歓迎です!
FSE




