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第12話「アイのアイとアイで俺の乙女がピンチ」

「アイさん」


 温泉宿へ着くなり、ミサキがぬるりとアイの前へ現れた。


「ミサキさん! どうしたんですか?」

「ひとつお伝えしたいことがあります。セロさんは、私の扶養者です」

「え! じゃあミサキさんもセロくんのお嫁さんなんですか! 仲間ですね!」

「いいえ。セロさんと同じ墓に入るのは、一人だけで充分です」

「んー? 意味がわからない☆」

「待ってね。そもそも二人ともお嫁さんじゃないからね」


[アグリー。マスター・セロは自由であるべきです。マスター・セロには、ワタシのもっと深い部分をじっくりと刺激してもらう必要があります]

「待てT-ONE! アタシはそんな子に育てた覚えはないぞ!」


 少し離れた場所を歩くフレデリカの黒い耳が、こちらを向いた。


「……キミ、モテるんだね。ふーん」


「フレデリカまで!」

「フレっちかわいい! 撫でてもいい?」

「ダメ」

「ケチー! じゃあアイっちは? ツノ触ってもいい?」

「いいですよ! でもツノは性感帯なので、やさしくしてくださいね♡」


「お前ら全員、温泉入る前から飛ばしすぎだろ!」


     ◇


 宿の裏には、雪を眺められる露天風呂があった。

 夜空から降る雪。湯気の向こうに白く積もった山々。岩風呂へ湯が流れ込む音だけが、静かに響いている。

 情緒があったのは、入口までだった。


「アイ、どっちへ入るつもり?」


 メアが、男湯と女湯の暖簾を交互に指す。


「アイは男湯に入る権利があります! あと旦那様に入る権利もあります!」

「後半はない!!」

「はいはい! ユーはこっち!」


 メアがアイを女湯へ引っ張っていった。

 ミサキは最初から服を脱ぐ気がなく、フレデリカも「やだ。入らない」と服のまま女湯側へついていく。


 俺は一人、男湯へ入った。


 露天風呂は、背の高い木の塀で二つに分けられている。姿は見えないが、隣の声はよく聞こえた。


「……ねえアイ、一つだけ聞いてもいいかしら」

「メアさん! なんですか? 好きな体位の話ですか!?」

「違うから!! あなたが、その……両方だっていうことは……もしかして魔王も……」


「それは秘密です! 魔人情報保護違反ですよ!」


「そんな法律あるの!?」

「あります!」

「どこの法律よ!」

「魔界です!」

「管轄!!!!」


 雪を見ながら、湯へ深く沈む。

 聞こえない。何も聞こえない。


「そもそも、あーしセロっちの裸見てるし。なかなか立派なモンもってるじゃんね。ねえミサキっち?」


 聞こえる。


「……あんなものではないですよ」

「え?」

「私を求めるセロさんはそれはもう逞しく、私は嵐に翻弄される小舟のように、されるがままでした……」

「えー! もうしてるんですか? いいなー☆」

『してない! ミサキ、君ってなんで捏造するときだけ語彙が豊富になるの!?』


 ツッコミを、必死に我慢した。


「信じるかどうかは、アイさん次第です」

『都市伝説みたいに逃げるな!』


「そっかぁ~。じゃあ、本人に直接聞いちゃお☆」


 俺は何も聞いてない。


 しばらくすると、隣の声が小さくなった。

 ようやく、平和が訪れたらしい。

 湯気。雪。夜空。

 一人きりの露天風呂。


「旦那様♡」


 平和は、塀を乗り越えてきた。

 アイが、何一つ隠さず男湯へ降り立つ。


「なんで来た!?」

「男湯に入る権利を行使しました!」

「戻れ!」

「大丈夫ですよ♡ 優しくしますから♡」


 じりじりと迫ってくる。


「初めてでも、たくさん楽しめますからね♡」

「何をする気だ! 近づくな!」


 アイは、きょとんとして足を止めた。


「え? そんなの決まってるじゃないですか」


 アイのアイが、こちらを向いた。


「同衾ですよ? ど・う・き・ん♡」


 俺はタオルを胸元まで引き上げ、岩壁へ身体を寄せた。


「助けて!」


 岩に映る二つの影が、ひとつになった。


「アッー!」


「やめなさい!!!」


 女湯との境の扉が、勢いよく開いた。


 先頭はメア。身体へバスタオルをがちがちに巻き、片手で胸元を押さえている。

 続くパルは、タオルで必要なところだけを隠していた。


 アニマは普通に歩いてくる。その後ろでは、T-ONEが大きなタオルを広げ、アニマの身体を完全に隠していた。

 そのT-ONE自身は何も巻いていない。だが、前を歩くアニマのツインテールが、胸部装甲の重要な部分だけを奇跡的に隠している。


 最後に、服を着たままのミサキとフレデリカ。

 そして何も隠さないアイと、タオルを胸元へ抱えた俺。


 なんだ、この状況。


「見なさい! セの字が嫌がってるでしょ!」

「え。嫌だった……?」

「いや、その、嫌というかなんというか」

「はっきり言いなさい! ユーは男でしょうが! コンセンサスは重要よ!!」

「あ、はい」


 俺はタオルを握ったまま、アイを見た。


「アイ。君の気持ちは嬉しいけど、こういうのは段階というか……お互いの気持ちが大切だと思うんだ」

「そうですか……」


 星の瞳が、少しだけ伏せられる。


「そうですよね! わかりました! アイ、無理にお嫁さんになろうとしすぎてました!」

「よかった。だったら――」


「なので、次はちゃんと同意を得てから同衾します!」


 アイのアイが、上を向いた。


「なんでそうなるの!」

「やっぱり呪殺しますか?」

[アニマ。Dモード――Destroy Tへの移行許可を申請します]

「どちらも却下だ!」

「てかセロっち、そのポーズめっちゃ乙女じゃん。ウケるんだけど」

「誰のせいだと思ってるの!?」


     ◇


 夜。

 宿の大部屋で、みんなが眠っていた。

 T-ONEの膝を枕に、アニマが静かな寝息を立てている。T-ONEは動かず、眠る彼女の顔を見守っていた。

 隣の布団から、声がする。


「旦那様♡」


「やめなよ、それ」

「? なんでですか? やめませんよ!」

「だって君はまだ、俺のこと何も――」


「知らないからです!」

「え?」


「アイはセロくんのこと、何も知りません! だから好きになったんです! もっと知りたいと思ったんです!」


「それって、いけないことですか?」


「……いけないことじゃあ、ないと思うよ」

「よかった! じゃあ早速、お互いを知るために――」


 一拍置いて、アイが笑った。


「同衾、しましょうね♡」


「助けて!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


本日もはじまりました! 朝からなんてものを読まされているんだと思ったそこのあなた! はい! 正解です!

この作品は一応「性描写あり=R15」のレイティングで作成しています。

今回のエピソードは、作品における、いわゆる「ボーダーライン」にするつもりでも書きました。これ以上、少なくとも直接的な描写で踏み込むことはありません。

このあたりを踏まえて楽しんでいただけたらいいな、と思っています。


それでは引き続き、本日この後の更新もお楽しみに!


☆や♡、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。

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