↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/33

第29話 今日クランを作った。明日、解散するかもしれない

支払期限まで、あと二日。


【現在資金:銀貨五十一枚/銅貨五枚】


昨日はイザベラのおかげで三十枚まで伸びた。それでも、あと二回繰り返したところで届かない。


朝食の席で、イザベラが言った。


「今日は探索しません。明日の客を作る日ですわ」


……客?


「明日の告知と準備に、手持ちの銀貨を使います」


「どれくらい?」


「全部ですわ」


「全部?」


匙が止まった。

止まったのは、俺の匙だけだった。


「背水の陣ね。嫌いじゃないわ」


アリアは、パンをちぎりながら言った。


「お前まで?」


「ここまで来て、半端に残す意味がある?」


ない。

ないけど、もう少しくらい迷ってくれてもいいと思う。


「私も賛成です。ガイを守れるなら、賭けます」


リリアナまで頷いた。


「明日の配信で届かせるんですよね?」


「そのつもりですわ」


……女性陣、思ったより攻めるな。


「きゅ!」


くーちゃんは、たぶん何も分かっていない。でも、元気のいい賛成票だった。


四対一になった。


「……分かった。ただし、明日の客を呼ぶ使い方だけだぞ」


イザベラが笑った。


「もちろんですわ」


「で、何をするんだ?」


「では、まず明日の告知映像を撮ります」


***


最初に向かったのは、聖都の仕立て屋だった。


「……告知映像を撮るのに、まず服なのか?」


「見に来てもらえなければ、何も始まりませんもの」


アリアには、赤と黒の剣姫風の装束。リリアナには、白と淡い金の聖女礼装。俺には、濃紺のコート。


胸元のFランク鑑定士章を外そうとしたら、イザベラに手を止められた。


「『秘密を暴くFランク鑑定士』として売ります。その方が、何者なのか気になるでしょう?」


……俺の一番の弱点が、一番の売り文句になるらしい。


試着室のカーテンが開く。

赤と黒をまとったアリアが、アステリアを腰に下げて立っていた。


普段より、ずっと華やかだ。


「……趣味じゃないわ」


袖を見ながら、露骨に嫌そうな顔をしている。


「似合ってるぞ。こういう格好も、普通に可愛いな」


思ったまま言うと、アリアの手が止まった。


「……可愛い?」


「え? ああ、そうだな」


鏡へ向き直り、襟元を直す。

それから裾を整えて、もう一度こちらを見た。


「そう……」


それ以上、脱ごうとは言わなくなった。


隣からは、白い礼装のリリアナが出てくる。

目だけが、少し笑っていた。


「……久しぶりに、こういう格好をしました」


「本当に聖女みたいだな」


「透矢さん。私、本当に聖女です」


「……そうだったな」


少し悲しそうな顔をされた。


最後は、くーちゃんだった。


首に銀色の小さなリボンをつける。それだけ。


「終わりか?」


「完成しているものに、余計なものを足す必要がありますの?」


「きゅ!」


また犬だけ評価が高かった。


***


撮影は、白鐘の礼拝堂の前で行った。


「アリア、殺気を三割ほど下げてくださいな」


「下げてるわ」


「それで下げているなら、元が高すぎますわ」


次はリリアナ。


「笑顔でお願いしますわ」


「はいっ」


「にゃん、はいりませんから」


「まだ何も言ってませんが……」


「言いそうな顔をしていましたわ」


俺の番では、さらにひどかった。


「透矢。右手と右足が、一緒に出ています」


十回を超えても、人間三人の撮り直しは終わらなかった。


最後にくーちゃんが座る。


「きゅ?」


銀のリボンを揺らし、首を傾げた。


「完璧。一発ですわ」


三人で顔を見合わせた。


この中で一番の役者は、犬だった。


***


撮影を終えると、その足で探索者ギルドへ向かった。


イザベラが申請書を受付へ出す。


【クラン名:白鐘もふもふ団】


「……『もふもふ』、いるか?」


「一番数字を持っているメンバーを、名前から外せるわけがないでしょう」


「きゅ!」


くーちゃんが、褒められたと思って胸を張った。たぶん、合っている。


【クラン登録:完了】


登録証を受け取ったイザベラが、ようやく朝からの仕込みの答えを口にした。


「明日は、《白鐘もふもふ団》の結成初配信です」


仕立て屋も、撮影も、このクラン名も、全部そのためだったのか。


「配信って、どこでやるんだ?」


「黒層第二層。中ボスを討伐します」


「いきなり二層か。まだ道も分からないぞ」


「昨日の続きを見せるだけでは、わざわざ明日まで見に来ませんわ」


イザベラが登録証を指先で叩く。


「だから明日は、見届ける理由を作ります」


「見届ける理由?」


「銀貨二百枚。届かなければ――」


イザベラは、作ったばかりの登録証を、ひらりと振った。


「《白鐘もふもふ団》は、結成初日で解散ですわ」


「……今日作ったばかりだぞ?」


「白鐘を残すためのクランでしょう。白鐘を失ったのに、名前だけ残してどうしますの」


一日。一回。やり直しなし、か。


その時、隣にいたリリアナが口を開いた。


「届かなかったら、白猫ちゃんねるも終わりにします」


全員が、リリアナを見た。


「そこまでやるのか?」


リリアナは、まっすぐ俺を見る。


「このチャンネルの最初の視聴者は、ガイなんです」


三人だった頃の、一人目。


「だから明日は、たくさんの人に見てもらいます。ガイが起きた時に、自慢できるくらい」


くーちゃんもつられたように吠えた。


「きゃん!」


***


編集と告知のため、イザベラはギルドの作業室に残った。俺たちは、先に白鐘へ戻る。


夕食は、エルマとニナも一緒だった。


「アリアお姉ちゃん、その服すっごくきれい!」


「……そう? ありがと」


ニナが楽しそうに身を乗り出す。


「透矢お兄ちゃんに似合うって言われたら、鏡の前でもう一回くるって回ったんでしょ?」


アリアの匙が、空中で止まった。


「……誰に聞いたのかしら」


ニナが指さした先で、リリアナが頬に手を当てた。


「だって、透矢さんに褒められた時のアリアさん、とても可愛らしくて」


「リリアナ」


「はい。黙ります」


俺は何も聞かなかったことにして、迷宮芋を食べる。


笑い声の向こうで、救命結界の光が揺れている。ガイは今日も、眠ったままだ。


この炉も、この食卓も。

守れるかどうかは、明日で決まる。


その時、扉が開いた。


「お待たせしましたわ」


編集を終えたイザベラだった。


椅子へ座るより先に、魔導端末を卓上へ置く。


「完成しました。公開前に確認してくださいな」


画面に映像が流れる。


【紅の剣姫――アリア】


【奇跡を取り戻した聖女――リリアナ】


【秘密を暴くFランク鑑定士――星見透矢】


そして最後に、銀のリボンをつけたくーちゃんが首を傾げる。


【そして――ポメラニアンくーちゃん】


ニナが一番嬉しそうに笑った。


画面が暗くなる。


【白鐘もふもふ団・結成初配信】

【明日、黒層第二層・中ボス討伐】

【目標:銀貨二百枚】


【届かなければ――初日解散】

【白猫ちゃんねる・配信終了】


誰も、しばらく喋らなかった。


「……明日なんだね」


ニナが、ぽつりと言った。それからエルマの袖を引いて、小さな布袋を持ってくる。


「これ、くーちゃんに! お母さんと作ったの」


中には、手作りのボーロがぎっしり詰まっていた。


くーちゃんが、迷わず袋へ顔を突っ込もうとする。


「明日の分だ」


「きゅう……」


今日いちばん深刻な顔をしていた。


イザベラが、公開の印へ触れる。


ほどなくコメントが流れ始めた。


《白鐘もふもふ団ってなんだよ》

《犬が団長?》


最初は、それだけ。それから、少しずつ増えていく。


《初日に解散?》

《白猫ちゃんねる終わるの?》

《明日見ようかな》

《最後かもしれないなら、見とく》


「明日の朝には、もっと増えていますわ」


結末の分からない一日を、見届けに来る人がいる。


【支払期限:あと一日】

【必要額:銀貨二百枚】

【現在資金:銅貨五枚】


今日は一枚も稼いでいない。

むしろ、昨日までの銀貨は全部使った。


その代わりに、明日を見に来る客を作った。


届かなければ、白鐘も、今日できたクランも、白猫ちゃんねるも終わる。


もう、明日に使える銀貨は一枚もない。


あとは、明日だ。


白鐘もふもふ団、最初の仕事が始まる。


【白鐘もふもふボード】


支払期限:あと一日

必要額:銀貨二百枚

現在資金:銅貨五枚

クラン:白鐘もふもふ団

明日:結成初配信

失敗時:初日解散/白猫ちゃんねる終了


くーちゃん「きょうできたのに、あしたなくなるかもしれないわん!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。