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第28話 元勇者パーティーの魔法使いは、数字を動かす

「三日間、俺たちの配信を手伝ってほしい」


イザベラが、片眉を上げた。


「魔法使いとして、ではなく?」


「ああ。昨日、白猫ちゃんねるを見て『もったいない』って言っただろ。お前に見えてるものを借りたい」


丸一日黒層へ潜っても、最高同接は二十人前後。

取り立てまで、あと三日。足りないのは銀貨百八十枚近く。


今までと同じやり方では、間に合わない。


「透矢さん、あちらの掲示板にも特には……あら?」


戻ってきたリリアナが、イザベラを見て足を止めた。


「配信の話だ。リリアナにも聞いてほしい」


「白猫ちゃんねるの話ですか?」


魔導端末を抱えたまま、すぐ隣へ来る。


イザベラは少しも迷わなかった。


「条件は二つ。三日間の配信収益の三割を、成果報酬として最終日にまとめていただきます」


もう一本、指を立てる。


「それと、三日間の配信に関する判断は、すべて私に任せること」


懐から折り畳んだ紙と細い筆を取り出し、さらさらと条件を書いてこちらへ向けた。


「署名は、ここと、ここ」


「……準備がいいな」


「仕事を探している人間は、契約書くらい持ち歩きますわ」


三十秒で契約書ができていた。


問題は、アリアだった。

この二人は、どう見ても相性がいいとは言えない。


「私は別に構わないわ」


「……いいのか?」


「この人を信用したわけじゃないわよ」


アリアは俺を見る。


「あなたが、一番可能性があると見たんでしょう。なら、その目を信じるだけよ」


……俺の目は、信じてくれるのか。

それが少しだけ、意外だった。


「私も賛成です。ガイを守るためなら、今できることは全部やりたいです」


リリアナも頷く。


二人の返事を聞いて、イザベラへ向き直った。


「じゃあ、よろしく頼む」


「ええ。三日だけ、ですけれど」


こうしてイザベラを、三日間だけ配信担当として雇うことになった。


***


白鐘へ戻る道すがら、リリアナがおずおずと尋ねた。


「あの……昨日の『もったいない』って、何だったんですか?」


「見れば分かりますわ。昨日までの配信を見せてくださる?」


端末を受け取る。


倍速。

さらに倍速。


イザベラの指が、迷いなく再生位置を飛ばしていく。


数分後、目つきが変わった。


「……なるほど。ひどいわね」


「そんなにか?」


「ええ」


白鐘へ着くと、そのまま全員が長椅子へ座らされた。


「指摘は三つですわ」


イザベラが指を立てる。


「一つ。最初の数分を見ても、今日何を達成する配信なのか分からない」


一本増える。


「二つ。剣聖、鑑定士、聖女、犬。全部を一度に映して、誰を見せたいのか分からない」


さらに一本。


「三つ。途中から来た人に、今何をしていて、あと何が必要なのかが伝わらない」


リリアナが猛烈な勢いでメモを取っている。


「あなたたちの配信は、宝石箱を床へぶちまけて『どれでもどうぞ』と言っているようなものですわ」


さらさら。


「……今のも書きましたの?」


「はい」


「そこまで書かなくていいですわ」


「はい」


それも書いた。


足元では、くーちゃんが端末を覗き込んでいる。


「きゅ?」


イザベラが画面とくーちゃんを見比べた。


「あなたは、そのままでいいわ」


「きゅ!」


一番評価が高かった。


「あの、では『ですにゃん』を増やす案は――」


「却下ね」


「それは同意するわ」


アリアが、初めてイザベラに頷いた。


診断を終えると、イザベラは紙の一番上へ数字を書いた。


【本日の目標:銀貨三十枚】


「三十? 昨日は二十一枚だったぞ」


「ええ、知っておりますわ」


もう昼だ。昨日は朝から夕方まで潜って二十一枚。

今日は、その半分ほどしか時間がない。


「どこへ行くんだ。もっと深く潜るのか?」


「いいえ。昨日と同じ黒層第一層です」


イザベラが魔導カメラを手に取る。


「変えるのは、探索ではありません。配信です」


***


昼前。


黒層第一層で配信を始めると、画面の隅に数字が出た。


【本日の目標:銀貨三十枚】

【現在換算:銀貨〇枚】


最初に映ったのは、くーちゃんだった。


「きゅ!」


《犬いたw》

《今日は目標ある》

《昨日21枚だったけどいける?》


すぐにカメラが俺へ向く。


「あと三日で白鐘を残す金が必要だ。今日は銀貨三十枚を目指す」


《ちょっと見届けたい》

《あと30枚ね》


【同時視聴者:十九人】


「最低限ですわね」


いきなり厳しい。


黒層ハウンドが飛び出すと、今度はアリアへカメラが向いた。


「アリア、半歩右ですわ」


「今、戦ってるのだけど」


「それでは映りませんわ」


「……魔物に言ってよ」


文句を言いながら、本当に半歩ずれた。

いや、できるのかよ。


トン。タン。


白銀の線が走り、黒層ハウンドが崩れる。


《紅の死線きた》

《見えた時には終わってるやつ》

《今日は見えたw》


「……その名前、配信にまで広がってるの?」


アリアが露骨に嫌そうな顔をした。


黒鉄晶を見つけると、今度は俺の袖を引かれる。


「鑑定の時だけ、あなたは画面の真ん中」


カメラが、鑑定表示へ寄った。


【黒鉄晶】

【買取目安:銀貨一枚】


一週間前、俺を画面の端へ追いやった女が。

今は、鑑定の時だけ俺を真ん中に置いている。


【現在換算:銀貨四枚】


《進んでる》

《途中から来たけど分かりやすい》


投げ銭も、ぽつぽつ入り始めた。


くーちゃんが迷宮芋を掘り当てる。


「きゃん!」


【投げ銭:銀貨一枚】

《くーちゃんの芋代》


「きゅ!」


「お前の金じゃないぞ」


完全に自分のものだと思っている。


その少し後、別の通知が混じった。


《前の配信、見てました。盾の人の分》


リリアナが、端末を握る手に少しだけ力を込めた。


***


夕方。


素材をギルドで売り、配信収益も銀貨へ換えた。


【素材売却:銀貨十八枚】

【配信収益:銀貨十二枚】

【本日売上:銀貨三十枚】


「……本当に三十枚いった」


昨日は丸一日で二十一枚。

今日は昼前からで、素材売却だけなら十八枚。


それでも三十枚。


違ったのは、配信だった。


「まだ、この程度ですわ」


イザベラは喜びもせず、配信記録を開いている。


「最高同時視聴、六十七人。少なすぎます」


「昨日の三倍以上だぞ」


「だから?」


もう次の記録を見ていた。


昨日と同じ黒層を歩いて、同じように魔物を倒し、素材を拾った。


面白くなかったわけじゃない。

届く形になっていなかっただけだ。


「……カインの配信を、あそこまで押し上げただけはあるな」


「あなた、今まで誰が作っていたと思っていましたの?」


「カインが人気だったからだと」


「半分は正解ね」


そこは否定しないらしい。


「……なかなかやるじゃない」


アリアが、ぽつりと言った。


イザベラがにっこり笑う。


「普通の魔法使いにしては?」


「あなた、根に持ってるの?」


「ええ。かなり」


残り、二日。

現在資金は銀貨五十一枚。あと百四十九枚必要だ。


今日と同じ三十枚を二回稼いでも、届かない。


「イザベラ。このペースで、本当に間に合うのか?」


「ええ、もちろん」


即答だった。


「だから明日は、配信しませんわ」


「……は?」


イザベラが、わずかに笑った。


「次の手がありますから」


【白鐘もふもふボード】


支払期限:あと二日

必要額:銀貨二百枚

現在資金:銀貨五十一枚+銅貨五枚

本日収入:銀貨三十枚

イザベラ成果報酬:配信収益の三割(契約終了時に精算)


くーちゃん「芋代をもらったわん! 明日は配信しないらしいわん……?」


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