終 旅は、まだ終わらない
館を出ると、空はすでに橙色に染まり始めていた。見張りに別れの礼を告げ、錆びた門を後にする。来た時よりも、足の運びがいくらか重く感じられた。
街道へと続く緩やかな坂を下る。アルフレッドは何も言わず、ただ私の半歩後ろを歩いていた。彼は黙りこくっている。きっと、ビーニィのあの変わりように、まだ戸惑っているのだろう。
「……ねえ、アル」
しばらく歩いたところで、私は口を開いた。
「もし、あなたが守るべき人を守り切れずに失ったとしたら、どうする? ビーニィさんみたいな生き方になると思う?」
問いかけながら、自分でも妙な質問だと思った。でも、アルフレッドに聞いておきたかった。
あの東屋で見たビーニィの横顔が、まだ胸の奥に残っていたから。
アルフレッドは少し考え込むように歩を緩め、やがて、こちらを見ずにぽつりと答えた。
「ビーニィみたいに、か……」
アルフレッドは真顔で言った。
「俺は同じ立場になっても、多分ドレスは着ないだろうな……」
あまりにも真面目な顔で、あまりにも的外れな答えを言うものだから、私は思わず吹き出してしまった。
「ふふ……っ、あはは!」
堪えきれず、声を上げて笑う。腹を抱えて、目には涙さえ浮かんできた。
「なんで笑うんだ!」
アルフレッドが顔を赤くして、心外そうに声を荒げる。眉間に深い皺を寄せ、本気で不服そうな顔をしていた。
「俺は真剣に答えたんだぞ!」
「あはは、ご、ごめんなさい……でも、いかにも『あなたらしい答え』だわ」
笑いの合間に、私はそう切り返した。
ビーニィは髪を伸ばし、ドレスを纏うことで、彼女なりの想いを形にしていた。アルフレッドの場合も、ドレスは着ない、なんて答えてはいたが、きっとそれとは全く違う形で、誰かを想い続けるのだろう。
それでいい、と思う。
誰かを失った悲しみへの向き合い方に、正解なんてないのだから。
夕陽に照らされ、私たちの影が街道に伸びていく。
「さて、行きましょう! 早く次の街に着かないと日が暮れてしまうわよ」
私が前を向いて歩き出すと、アルフレッドは未だ少し不満げな顔のまま、それでも黙って隣に並んだ。
旅は、まだ終わらない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
一旦これにて完結とさせていただきます。
物語としては一区切りついた形ですが、続編を書いた時は、ぜひまたお読みくださいませ。
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それでは、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!




