⑳あんなの会議じゃないわ!
円卓のある会議室は、冷ややかな沈黙で満たされていた。
神殿長を筆頭とする上級神官達が揃い踏みである。
「懲罰房に捕えられていた侵入者がいつの間にか死んでいた、そういうことですか」
呼び出された私とアルフレッド、そしてディフォーの三人は、円卓に座ることすら許されず、立ったまま報告を強いられていた。
「我々が懲罰房を覗いた時にはすでに侵入者は事切れておりました。遺体で扉が塞がれていたため、中に入ることもできなかったため、私とこちらのアルフレッド殿の二人で扉を開け、内部を調査しました」
ディフォーが事務的な、しかしどこか苦々しげな声を響かせる。
円卓を囲む上級神官たちは、一様に彫像のような無表情を決め込んでいた。中央に座る神殿長にいたっては、目を閉じ、まるで深い瞑想に入っているかのようだった。
「ディフォー殿。確認します。懲罰房の中には侵入者の死体だけで、他には誰もいなかったと、そういうことですな?」
一番端に座っていた痩身の神官が口を開いた。以前、エイワン神殿長の取り巻きをしているのを見かけた事がある。
「はい。何者も中にはおりませんでした」
神官は顎を撫でた。
「ふむ……。鍵はかかっていた。扉は内側からも塞がれていた。誰も入ることはできなかった……。では、結論は一つですな」
彼は隣の神官と顔を見合わせ、満足げに頷いた。
「侵入者は、どうにかして持ち込んだ凶器で自害した。そういうことでしょう」
……は?
私は耳を疑った。
以前にも似たような事があった。神殿長が絵画を元から無かった事にすると言った時だ。
だが、流石に今回はおかしい。
死んだのが投獄中の犯罪者であったとしても「自死」で片付けて良いはずがない。
「失礼ながら、異議を唱えてもよろしいでしょうか!」
ディフォーがギョッとした目で私を見てくる。
「ちょ……ミュゼッタ殿」
しかし私は止まらない。
「自死、とおっしゃいましたか? 彼は手枷と重りのついた足枷をされ、さらには胸をひと突きにされていました。自分自身でそんな芸当が果たして可能でしょうか!」
神官たちは、まるで羽虫が耳元で鳴いたかのように、不快そうに眉を寄せた。
「そういえば、あなたは詩人でしたか。詩人というのは常に物事を劇的に捉えたがる悪癖があるようですな」
その神官は、私を見つめながら、嫌な薄ら笑いを浮かべていた。
「誰も入れないところで侵入者が死んでいた。つまり、自分で命を絶った。その結論のどこに問題が? これ以上いたずらに神殿を掻き回すようなことをおっしゃるのは感心しませんな」
私は思わず声を荒げそうになるのを必死に抑えて、冷静に反論する。
「ですが、あの密室もなんらかの方法を使えば、通り抜ける事ができるのではないかと……」
「ほう、では、その方法とやらをお教え願えますかな?」
煽るように神官が尋ねる。
「それは……まだわかりません」
私が目を伏せて言うと、それまで沈黙を守っていた神殿長が、ゆっくりと目を開いた。
「ミュゼッタ殿。あなた方をお呼びだてしたのは、事件について報告をしてもらうためです。議論をするためではない。そして、この会議において判断を下すのは我々だ」
私が何も言えないでいると、神殿長は薄く笑った。
「報告いただきありがとう。では、速やかに退出を願います」
それはもはやこれ以上の発言は許さないという警告であった。
私がさらに食い下がろうと息を吸い込んだ瞬間、隣にいたディフォーが私の前に腕を伸ばした。彼を睨む。しかしその目が「もうやめてください」と無言で訴えているので、私は思いとどまる。私は軽く首を振ってから、会議室の出口に歩いた。
アルフレッドはといえば、腕を組み、今にも神殿長を物理的に『尋問』しそうなほど険しい顔をしていたが、何も言わずに私の後に続いた。
会議室の扉が、私たちの背後で重い音をたてながら閉まる。
廊下に出た瞬間、私は肺に残っていた怒りの感情と共に空気をすべて吐き出した。
「何よあれ! あんなの会議じゃないわ! 都合のいい結論の押し付けじゃないの! 真実を探ろうとすらしないんだから!」
廊下を歩きながら、私は憤慨して声を上げた。ディフォーは困ったように苦笑し、首を振る。
「……仕方がないですよ、ミュゼッタ殿。あの方々にとって、重要なのは、神殿に混乱がもたらされないこと。そして、自分たちの経歴が汚れないことですから」
「とことん隠蔽体質、ってわけね」
私の言葉に、ディフォーの顔が少しだけ曇った。
「神殿の悪いところが出始めました。このままだと、昨夜の暗殺未遂事件でさえも『狂人の暴走』として片付けられ、何もかもが無かったことにされるかもしれません。シスリィ様が命まで狙われたというのに」
そうなっては最悪のシナリオだ。
真実は闇の中にもかかわらず、勝手に事件は解決したことにされ、なんの対策もされないまま、今度こそ新しい刺客によってシスリィの命が奪われる可能性だってある。
「勝手に終わらせてたまるか」
それまで黙っていたアルフレッドが、まるで獲物を狙う猟犬のような目をしながら言った。
彼は廊下の角で立ち止まり、私たちを振り返る。
「奴らが自分勝手に幕を引こうとするなら、その幕に火をつけてやるまでだ。……こちらも作戦会議だ。巫女姫の部屋に行くぞ」
その言葉には、不条理に対する彼なりの「反抗」が宿っていた。
彼のまっすぐさの前に、先ほどの会議はとことん不快なものに映ったようである。
私は少しだけ気分が晴れるのを感じた。
私たちは足早にシスリィの私室へと向かった。




