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⑮私ってそういう風に見られてたってことよね


 ビーニィが去ってから一刻ほど。

 私はアルフレッドの傍で静かに椅子に腰を下ろしていた。

 寝息が落ち着いているのを確かめ、ようやく胸の奥の緊張が緩んだところで、彼のまぶたがぴくりと動く。


「……ん」


 かすかな唸り声とともに、アルフレッドが目を開けた。

 顔色はまだ冴えないが、意識ははっきりとしているようだった。


「……いつの間にか眠っていたのか……なんだかまだ夢を見ているような気がする」


 そう言って起き上がろうとする。

 彼は立ちくらみでも起こしたのか、バランスを崩す。

 私は彼の肩に手を置いて押しとどめる。


「だめよ。まだ安静にしておかないと」


「俺の剣は?」


「すぐそこ。壁に立てかけてあるわ」


 私の言葉を聞いて、彼は安堵したように息を吐いた。


「……できれば見える位置に置いてくれ。あれが無いと落ち着かない」


「病人らしからぬセリフね」


「病人らしいって、どうすればいいんだ?」


「とりあえず寝てなさい」


 彼は渋々枕に頭を戻したが、その顔には『納得してない』と書いてあった。

 私は苦笑しつつ、昨夜の出来事と、ビーニィから頼まれた調査のことを説明する。


 ひと通りの話を聞いた後、彼は呟くように言った。


「暗殺者の侵入経路の調査、ね。それはお前がやらなければならないことなのか?」


 私は黙っていた。

 言い訳はしない。

 私は、私が守られたように、シスリィを守るために、この謎を解きたい。

 アルフレッドの顔をじっと見つめる。

 彼は私を見つめ返した。そして、やれやれという顔をして、小さくため息をついた。


「多分、お前にしかできない事なんだろうな」


 無言で深く頷いてみせる。

 アルフレッドは天井を仰ぎ、まっすぐに私を見つめた。


「……なら、俺がお前を守り切ってやる。誰が来たって指一本触れさせやしない。だから、思う存分に真実を暴け」


 思わず胸の奥が熱くなった。これほど心強い言葉があるだろうか。


「だが、約束しろ。必ず俺と行動を共にすること。それに、危険だと思ったらすぐ引くこと」


「わかったわ。約束する」


 彼は、ようやく穏やかに笑った。


 そのとき、控えめに扉がノックされた。

 返事をすると、ビーニィが入ってきた。


「アルフレッド殿、目が覚めたようですね、お体の具合は?」


「多少動ける程度には」


 アルフレッドが言うと、彼女は頷いた。


「では、これから調査の打ち合わせをします。五階の応接室です。すぐに集まっていただきたい」


 彼は小声で「俺は目覚めたばかりだぞ? この女、鬼か?」と呟くのを、私は聞かなかったことにした。






 応接室の扉を押して中へ入ると、ディフォーが難しい顔をして待っていた。机の上には神殿の見取り図が広げられている。


 シスリィは長椅子にもたれるようにして座っていた。凛とした佇まいはいつも通り。だが、昨夜の消耗が残っているようで、彼女の顔色は少し青ざめて見えた。


「ミュゼッタ様、この度はお願いを聞き入れていただき、感謝いたします」


 私はゆっくりと頷く。


「こちらこそ、アルフレッドを助けていただき、本当に感謝しきれません。この御恩は必ず返します。そのためにも、誠心誠意、この件を調査させて頂こうと思います」


 私がゆっくりと頭を下げる。

 シスリィの様子を心配したビーニィが声をかける。


「シスリィ様、ご無理をなさらずにお休みください」


 ビーニィの言葉にシスリィは首を横に振った。


「大丈夫です。……渦中にいる私が参加しないわけにはいきません。それに、寝ているより、考えている方が気が落ち着きます」


 ビーニィは頷くとそれ以上は何も言わなかった。

 一瞬の間が空いたので、私は問いかける。


「まず確認しますが、この件はどこまで共有されているのですか?」


 私がシスリィの方を見ながら尋ねると、ディフォーがさらりと説明する。


「シスリィ様はもちろんご存じです。ただ、他の上級神官達には伏せています。もちろん、神殿長にも伝えていません」


「あの、それは、大丈夫なんでしょうか」


「バレれば問題があるでしょうね。神殿内に暗殺者を雇ってシスリィ様を狙わせた者がいると疑っていることになるわけですから」


 ビーニィの言葉にディフォーが頷いて続けた。


「したがって、この調査は、表向きには『ミュゼッタ殿による英雄譚の題材探し』という体裁を取ります」


 ビーニィがまっすぐの私を見つめて言う。


「……つまり『興味本位で神殿内をうろつきまわる迷惑な詩人』を演じていただければ良いのです」


「……えっと、それって、ビーニィさんから見たら、私ってそういう風に見られてたってことよね……それはそれでなんだか悲しいものがあるわ」


 その小さなやり取りに、シスリィがくすっと笑った。

 笑うだけで場の緊張がゆるむのだから、この人は不思議だ。




 ディフォーが神殿の見取り図を指でなぞりながら話し始める。


「一番の疑問点は暗殺者の侵入経路ですね。この部屋がある上級神官の居住区には、必ず中央大聖堂を通る必要がある」


「そこは常に四名以上の神殿騎士が警備しており、夜間は特に厳重です」とビーニィ。


「では、外から外壁を登って侵入したのでは?」


 私が言うと、ディフォーが首を横に振る。


「神殿の外壁はどこも完全に垂直です。装飾も足をかけるような場所もない。登るのは不可能でしょう」


「侵入者はライカンスロープでしたよね? その人間離れした膂力なら駆け上がる事ができるということは……」


「無理ですね。壁面は大理石です。そのように滑りやすい素材の垂直の壁では、いかな人狼のような者といえど侵入は不可能です」


 なるほど、話を聞く限りでは、内からも外からも侵入者が入り込むのは不可能だろう。


 そこへ、廊下の向こうからどたどたと足音が近づいてくるのが聞こえた。

 扉が乱暴に開く。


「ようやく……たどり着いた」


 アルフレッドだった。


「アルフレッド殿、本当に来るとは思いませんでした」


 ビーニィの驚いた顔にアルフレッドは鼻白む。


「……軋む身体に鞭打って、根性でここまで上がってきたのに……酷くないか?」


 アルフレッドが冷たい視線を私に向ける。


「ミュゼッタもだ。ついさっき一緒に行動すると約束したばかりなのに、破るのが早すぎやしないか? せめて肩を貸してくれるとかしてほしかったぞ……」


 私たちのやりとりを聞いて、シスリィが驚いたように呟いた。


「アルフレッド様、もう動けるのですか? 明日辺りまでは難しいのでは無いかと思っておりました」


 その言葉にアルフレッドがシスリィの方を向き、恭しく頭を下げる。


「おかげさまで、この通りです。命を救っていただいたこと、感謝します」


 彼のその言葉にシスリィは満足そうに笑った。


「いえ、私はできる事をしただけです。あなたの生きようとする意志の賜物です。それにしても、王宮の騎士様ともなると、体力も人並み外れていらっしゃるのね」


 シスリィの声には心底ホッとしたような響きがあった。それを受け取るアルフレッドが少し照れたように笑う。

 ほんの一瞬、部屋の中の空気が朗らかになった気がした。


「せっかく来たんだから、あなたの意見も聞かせてよ」


 私が言うと、アルフレッドは「やれやれ、ついたばかりで話の内容もわからんのに」と言いながら椅子に腰を下ろした。


「それで、どこまで話が進んでるんだ?」


「シスリィ様のお部屋は侵入できるような場所では無い。言ってしまえば、鉄壁ね。外壁はまず登れない。内部を通れば必ず誰かが気づく……今のところ、どう考えても侵入は不可能なのに、どうやってか、人狼はシスリィ様の部屋にまで来る事ができた」


「ふむ」とアルフレッドは腕組みをして考える素振りをした。


「……魔法だな。空を飛ぶ魔法だ」


 いきなり言い放つ彼にディフォーが答える。


「いえ、浮遊魔法の可能性はありません。神殿内では、限られた魔法以外は使用を阻害されます」


「神殿の周りに描かれた聖句の効果ね」


 これは以前に詩の題材を探している時に神官から聞いた話だ。


「ご存じでしたか」


「ええ」


「さすがは王家付きの詩人の情報収集能力ですね」


 ディフォーの褒め言葉に私は得意になる。


「どうせ古代の詩が書かれているとか思ってその辺の神官に内容を尋ねただけだろう?」


 アルフレッドの言葉に私はむくれる。

 正解しているだけに腹が立つ。確かに詩だと思って内容を聞いたけれども。


「そうなると、やはり単体での侵入は不可能ですね……」


 私の言葉にシスリィは首を振った。


「しかし現実に暗殺者はその扉を開けて入ってきました。ちょうど私が眼帯も外して寝巻きに着替えて、眠ろうとしていた時です。ビーニィがいてくれた事が幸いしました」


 シスリィがそう言って部屋の扉を指差す。


「侵入者にとっては、私の存在は想定外だったのでしょう」


 続けたのはビーニィだ。


「奴は即座に私に斬りかかってきました」


「ほう、それでよく撃退できたな」


 アルフレッドの言葉にビーニィは頷く。


「シスリィ様が、とっさに手近にあった杖を侵入者に対して投げてくださいました。その一瞬の隙がなければ、私は今頃は命がなかった」


 そこで彼女は言葉を切り、深く頭を垂れた。


「私は自分が不甲斐ない……」


 だが、シスリィは穏やかに首を振る。


「違います。あの時、あなたがいて、侵入者を撃退してくれたからこそ、私は今こうして生きのびることができているのです」


 その表情に怯えは欠片もなかった。凛とした声色。暗殺の標的になったものとは思えない気丈さだった。

 ビーニィは片膝をつき、忠誠を示す姿勢を取る。


「いえ。私は、シスリィ様の剣であり盾です。シスリィ様を守るためなら、この命を捧げてでも、お守りしなければなりません」


「そんな事をいうのはやめて、ビーニィ」


 シスリィは即座に遮った。


「あなたは十分すぎるほど役目を果たしています。だからこそ、自分の命も大切にして」


 それ以上、二人とも言葉は続かなかった。

 誰もが、しばらくは言葉を口にできずに黙っていた。


「……侵入経路については、一旦保留にしましょう」


 空気を変えようとでも言うようにディフォーが口を開いた。


「問題は侵入だけではありません。逃げる時に、侵入者がどうやって急に中庭に現れたのか。それも謎です」


 アルフレッドが腕を組み、うなった。


「確かに、あの時、俺たちが侵入者に出くわしたのは中庭だった。巫女姫の部屋は四階。そこから廊下を通って降りてきたにしてはやけに早い。俺たちが中庭に行った時にはすでにアイツは若い神官を殺した後だったからな」


 ディフォーが切り出す。


「それだけではありません。シスリィ様の部屋に侵入者有りとの報で、我々は階下から上階に向けて駆けつけたのです。幾人もの騎士達が階段を登った。下層階を守る騎士達も上階へ、上層階に元々いた騎士達も逃げた侵入者を探していた。しかし、侵入者は忽然と姿を消し、いつの間にか中庭に現れた。どのようにして侵入者は中庭に『突然』現れたのでしょうか」


「四階の窓から中庭に飛び降りたのなら説明はつくが……」アルフレッドが呟く。


「そのような事をすれば、いかに回復力と膂力に秀でた人狼といえど、骨折は免れないでしょう。平屋の屋根の上から飛び降りるのとはわけが違いますからね。あの者が無傷で中庭に出現したことはアルフレッド殿が一番よくわかっているでしょう」


 アルフレッドが目を瞑った。あの時の死闘を思い出しているのだろうか。

 代わりに私が答える。


「あの時、侵入者は五体満足の状態でした。それに、私たちが遭遇した時にはまだ人狼の姿ではありませんでした。その状態で高所から飛び降りるのは……」


「身投げするようなものだ」


 アルフレッドが頷きながら続けた。

 ディフォーは地図に指先を滑らせ、神殿上層区域から中庭へ続く通路をなぞる。


「となると、他に考えられるのは、何らかの隠し通路や隠し階段ですが……そんなものがあるなどという話は聞いたことがない」


「なら、透明になる魔法だ。透明になって警備を掻い潜ったんだ」


 アルフレッドが言う。


「さっき特定の魔法以外は妨害されるって言われたばかりでしょう」


「じゃあどんな魔法だったら使えるんだ?」


「……神殿内で使える魔法は神聖魔法に分類されるものだけです。具体的には光の魔法や治癒魔法、浄化や解毒、守護、それに防御警戒に関する魔法です。逆に攻撃魔法や精神干渉、呪いといった他者を害するような魔法、そして浮遊や転移と言った移動に関する魔法は発動を阻害されます」


「その神殿で使える魔法の中でなんとかできないのか?」


「魔法から少し離れなさいよ。そもそもあの人狼が魔法を使えるとも思えないし」


 侵入者は鉄壁の警備体制の神殿内部を通ってシスリィの部屋にやってきた上、誰にも確認されずに中庭に抜け出たという事になる。


 どうやったのかはわからない。だが、それを単独で可能かと問われれば、ほぼ不可能だと言わざるをえない。

 するとどうしても避け難い一つの考えに辿りついてしまう。


「……では、やはり内部の何者かが暗殺者を手引きをしたのでしょう。そう考えるのが自然です。方法は分かりませんが、神殿内の警備を誤魔化し、シスリィ様の命を狙った。そして、暗殺者を中庭に逃した」


 ビーニィの声音には怒りがあった。主を守りたいという切実な怒り。

 私の頭をよぎったのは、絵画を盗んだ神殿長だ。だが、いくら派閥があるとはいえ、そんな事だけで競合相手を暗殺しようとするだろうか。

 シスリィの表情がわずかに曇る。


「推測だけで決めつけてはなりません」


 ビーニィが怒りに燃えた目で言う。


「ですが、実際にシスリィ様は狙われました。早急に暗殺者を雇った者の正体を暴かなければ、いつまたシスリィ様の命がおびやかされるかわからない。ましてや内通者の可能性があるなど、この神殿の誰も信用できません」


 ディフォーが険しい顔で頷く。


「確かに神殿長派閥の腰巾着どもの中には、シスリィ様を排除したいと考えている輩がいるのも確かです。しかし、暗殺まで企てるとは……それに、あの老人たちに暗殺の手引きまでするような大胆な事ができるとは思えません」


「派閥の誰かではなく、神殿長本人が、という事は無いのか?」


 アルフレッドが、切り込むように問いかけた。彼は、私が絵画の件で神殿長を疑っていたことを知っている。


「神殿長が? そんなことは……いやそれも無いわけではないか……」


 ディフォーが顎を撫でながら思案するような素振りを見せる。

 私は覚悟を決めた。ここで情報を伏せるのは得策とは思えない。


「実は……」声を潜める。


 私は絵画の盗難と神殿長の関与を簡潔に説明した。


「……というわけで、エイワン神殿長が絵画を盗み出したのは間違いないと思います。あの方が何かを隠しているのは確かです。暗殺者を雇うという一線を超える行為に及んだのかどうかは不明ですが……」


 私の告白に、騎士二人は驚愕し、シスリィは静かに俯いた。

 ディフォーは息を呑み、重い声で言った。


「神殿長が……絵画を盗んだ?」


 彼の顔には驚きの表情が浮かんでいる。


「にわかには信じられません。あの方は長年この神殿の神殿長を勤めてきた人物です。それが、まさか……」


 一方、ビーニィは剣の柄を握りしめ、憎悪にも似た怒りを露わにした。

 彼女の声は冷たかった。


「つまり神殿長は罪を犯すことに躊躇がないということだ。であれば、暗殺者を招き入れた内通者の最有力候補と考えるべきだ。奴が暗殺者を雇ったのだ!」


「ビーニィ、早まるな」


 ディフォーが制するように言った。


「まだ確証はない。疑惑の段階だ」


「しかし!」


「疑わしいのは確かだ。だが、断定するには証拠が足りない」


 シスリィが苦しそうな口調で言った。


「神殿長様が私の命を狙うなど……そのような事……」


 誰もその言葉に反応できなかった。

 彼女は俯いたまま、白い指を膝の上で握りしめていた。その肩が小さく震えている。眼帯の下から、一筋の涙が頬を伝った。

 この神殿を統べている人物が、自分の命を狙っているかもしれない——その事実は、あまりにも辛い。

 私は息を整え、詩人として、いや、一人の人間として言葉を探した。


「……シスリィ様」


 彼女がわずかに顔を上げる。


「不安になるお気持ちはわかります。同じ神殿の同胞に命を狙われているかもしれないという事実は、きっとあなたには耐えがたいものでしょう」


 私は一歩近づいた。


「ですが、あなたは人々にとって『希望』なのです。その光は、消えてはならない導きの光」


 シスリィがゆっくりと顔を上げる。不思議そうに顔を向ける。


「希望……? 私が、ですか」


「ええ。あなたを慕う者が大勢いる。ビーニィさんも、ディフォーさんも、そして神殿の多くの人々にとって、あなたは『希望』なのです」


 その言葉に、場にいた騎士たちが静かに頷いた。


「だから、その光が消えてしまわないよう、きっと多くの人々があなたを守り、助けるでしょう。私も、微力ながらお力になります」


 シスリィは涙を拭い、小さく微笑んだ。


「ありがとうございます、ミュゼッタ様。少し心が軽くなりました」


 ディフォーがほっと息を吐き、視線を真っ直ぐに私に向けた。


「……誰が内通者であれ、侵入経路の特定は急務です」


 彼の声には、冷静さが戻っていた。


「ミュゼッタ殿には、引き続きそちらを調査していただいてもよろしいでしょうか」


「……わかりました」


 短く答えたものの、胸の奥には小さな痛みが残った。

「誰が内通者であれ」——その言葉の中に、すでにこの神殿の中の誰かが暗殺者を手引きした人物である、という確信が滲んでいた。

 立ち上がると、ビーニィが私を見た。

 怒りの熱を宿した瞳。その奥に、一瞬だけ迷いのような影がよぎった。


「……ミュゼッタ殿。あなた方に調査を任せると言っていましたが──やはり、私も同行いたします」


 その言葉に、ディフォーが眉をひそめる。


「ビーニィ、それは……。君が離れれば、シスリィ様の護衛が手薄になる」


「承知しています」


 短く言い切った声には、いつもの冷静さとは違う、芯の通った熱があった。

 ビーニィはまっすぐにディフォーを見つめる。


「神殿長が関わっている可能性がある以上、早急に調べを進める必要があります。またいつ暗殺者を差し向けられるかわかったものではない。侵入経路の特定だけでもハッキリとさせなくては」


 その声には、使命と焦燥が入り混じっていた。シスリィを守れない事への不安が、彼女を突き動かしているのだろう。

 ディフォーはしばし考え込んでいたが、やがて深く頷いた。


「……わかった。ならば、調査の間は私がシスリィ様の護衛を引き受けよう。何かあればすぐに戻ってくれ」


 ビーニィは一礼した。


「感謝します」


 私達は部屋を後にした。

 廊下に出ると、重い扉が背後で閉まる音がした。

 ——神殿長が内通者。

 その可能性は、まだ確証には至っていない。しかし、状況証拠は次第に積み重なっている。

 真実は、必ず明らかにする。

 それが、アルフレッドを危険に晒してしまった私の責任だ。

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