残る五人
角狼たちは、こちらが武器を構えたことでそれ以上近づいてこなかった。
三匹は森の縁で低く唸りながらこちらを窺い、最後に現れた一匹だけが地面へ落とした細長い筒の周囲を何度か嗅いでいる。腹を空かせて人間を襲いに来たというより、何かを拾ったまま群れで移動している途中に野営地の匂いへ引かれたように見えた。
セドリックは剣を抜いたものの、すぐに斬りかかろうとはしなかった。
「フィーナ、火を少し強くできるか」
「追い払うだけ?」
「ああ。こいつらが人を襲ったって決まったわけじゃない」
「分かった」
フィーナが焚き火の前へ手を向けると、魔力を受けた炎が一瞬だけ高く伸びた。突然強くなった光と熱に三匹が身を引き、その動きを見たバルガスが盾を前へ出してゆっくり距離を詰める。
シリルも反対側へ回り込み、逃げ道を残しながら圧力をかけた。
エリオは戦う四人を見るのではなく、角狼の足音と呼吸を聞いていた。
威嚇の唸りは続いているが、飛びかかる直前の踏み込みには変わっていない。後方にいる一匹も、地面の信号筒へ戻ろうとはせず、仲間が下がるのに合わせて少しずつ森へ退いている。
「逃げそうです」
エリオが伝えると、セドリックは剣先を下げた。
「追うな」
数秒後、最初の一匹が背を向けた。
残りも続く。
枝を踏む音が木々の奥へ移り、やがて四匹すべてが十分な距離まで離れていった。
「もう戻ってきてない」
「ならいい」
セドリックはようやく剣を鞘へ戻した。
リーナが小さく息を吐く。
「推薦任務って、もっと試験らしい感じなのかと思ってました」
「俺も」
シリルが答える。
「初日は一般人助けて、二日目は夜中に狼が試験用装備持ってくる。採点する方も大変そうだな」
「まだ試験と関係あるか分からないでしょう」
フィーナが言いながら、地面に落ちた筒へ近づいた。
エリオも横へ行く。
やはり見覚えがある。
参加者全員へ一つずつ配られた緊急信号筒と同じ形だった。赤い紐を強く引けば魔力光が上空へ打ち上がり、管理局側へ緊急介入を求める仕組みになっている。
ただし、地面に落ちたものはかなり汚れていた。
筒の表面には泥が付き、革紐の一部が切れている。
「使われた形跡ある?」
セドリックが尋ねる。
フィーナは筒の端を確認した。
「ない。封印もそのまま」
「誰のか分かる?」
今度はシリルが拾い上げ、側面を見た。
小さく番号が刻まれている。
「参加番号だな」
「控えある?」
「名簿は管理局しか持ってないだろ」
エリオは自分の腰にある信号筒を見た。
同じ位置に番号が刻まれている。
自分たちは三つのパーティとしか聞かされていないが、昨日出発前に見た限り、参加者は全員で十数人いた。その中の誰のものなのか、今ここでは判別できない。
「狼がどこから持ってきたか分かれば早いんだけどな」
シリルが森を見る。
「追う?」
「今からか?」
「まだ痕跡残ってる」
セドリックはすぐには答えなかった。
空はまだ完全な夜だ。
夜明けまでは少し時間があり、森の中を歩くには視界が悪い。信号筒を拾った角狼を追えば元の場所へ戻る保証もなく、逆に巣へ近づく可能性もある。
エリオは先ほどの足音を思い返した。
角狼たちは東から来た。
四匹目が信号筒を咥えていたとしても、そこから真っすぐ移動してきたとは限らない。しかし、少なくとも信号筒がこの野営地より東側にあった可能性は高い。
「朝まで待った方がいいと思います」
エリオが言う。
全員がこちらを見る。
「理由は?」
「角狼が持ってきた場所が分からないから。今追っても、狼の巣に行くだけかもしれないです。それに、人が本当に危ないなら……」
そこまで言って、エリオは少し考えた。
信号筒は未使用だった。
もし装備の持ち主が自分で危険を感じたなら、普通なら筒を使うはずだ。
使う暇もなく失った。
必要ないと思っていたところで落とした。
あるいは、本人が筒を持っていないことにまだ気づいていない。
可能性はいくつもある。
「まだ何も分からない」
エリオは言い直した。
「だから暗い中で適当に探すより、朝になってから足跡を見た方がいいと思います」
「俺もその方がいい」
シリルが頷いた。
「狼の足跡なら今からでも追えるけど、人間の痕跡も探すなら明るい方がいい」
セドリックは少し考えたあと、決めた。
「そうしよう。夜明けまでここを守る。明るくなったら東を確認する」
「第二地点は?」
フィーナが尋ねる。
「後回しだ」
まただった。
昨日も、予定していた経路より負傷者を優先した。
今日も、まだ正体すら分からない信号筒一つのために、予定を変更しようとしている。
けれど今回は、エリオも何も言わなかった。
その判断が、この六人にとって特別なものではなくなりつつあることに気づいたからだった。
◇
夜明けまで、角狼が戻ってくることはなかった。
東の空が少しずつ明るくなると、六人は最低限の朝食だけを済ませて野営地を片づけた。本来なら第二地点へ向かうため北へ進むはずだったが、今日は最初から東へ向かう準備をする。
リーナも特に異論を言わなかった。
「私、まだ推薦任務の正しい進み方を一度も見てない気がします」
荷物を背負いながら彼女が言う。
「僕たちもです」
エリオが答える。
「昨日からずっと予定外だから」
「普通はもっと目的地を順番に回るもの?」
「たぶん」
「じゃあ比較できないですね」
「何を?」
「このパーティが普通かどうか」
シリルが横から口を挟んだ。
「普通だぞ」
「昨日、フィーナさんに余計なこと言うなって言われてましたよね」
「それとこれとは別だ」
もう完全に馴染んでいる。
その会話を聞きながら、エリオは少しだけ笑った。
◇
森へ入ると、シリルが主導する形になった。
昨夜、角狼が現れた場所にはまだ足跡が残っている。四匹分の痕跡を追うだけなら難しくないらしく、シリルは地面の泥や草の倒れ方を確認しながら東へ進んだ。
エリオはその後ろで周囲の音を聞く。
自分ができるのは、今そこにいるものを探すことだ。
一方、シリルが見ているのは、すでに通り過ぎたものの痕跡だった。
同じ索敵でも、まったく違う。
「昨日話してたこと、こういうことか」
エリオが何気なく言うと、シリルが振り返った。
「何が?」
「役割」
「急に何だ」
「僕、今ここにいるものは聞けるけど、昨日の足音は聞こえないから」
「当たり前だろ」
「でもシリルは昨日のこと見てる」
「足跡な」
「だから、同じ索敵でも違うなって」
シリルは少し考えたあと、しゃがんだまま片手を上げた。
「じゃあついでに教えてやる」
「何?」
「この四匹、途中から五匹になってる」
「え?」
エリオも足元を見る。
自分には、どれが角狼の足跡なのかまでは分かっても、重なった跡をすぐに数えるのは難しい。
「ここ」
シリルが指す。
「小さいのが一つ増えてる。子どもか、別の群れが合流したか」
「昨日は四匹だった」
「なら途中で増えたんだろ」
「それ、信号筒と関係ある?」
「まだ分からない」
シリルは立ち上がる。
「だから確認する」
エリオは素直に頷いた。
分からないものを、分かったように扱わない。
結局、それは誰の役割でも同じらしい。
◇
一時間ほど進んだところで、地形が変わった。
森が途切れ、小さな岩場が広がっている。
中央には浅い裂け目のような窪地があり、その向こう側に折れた木が何本も倒れていた。
シリルがそこで足を止めた。
「狼は右へ行ってる」
「じゃあ信号筒もそっちから?」
「いや」
シリルは左側を指した。
「人間の足跡がある」
セドリックがすぐに近づく。
「何人?」
「少なくとも三人」
「新しい?」
「昨日だと思う。たぶん午後以降」
エリオも周囲へ耳を向けた。
人の声はない。
足音も聞こえない。
ただ、岩場の奥から水音が聞こえる。
「今は誰もいないです」
「先へ行ったか?」
「たぶん」
シリルは人間の足跡を追った。
それは裂け目の近くまで続き、そこで急に乱れている。
草が踏み荒らされ、土が大きく削れていた。
「何かあったな」
バルガスが低く言う。
「滑った?」
リーナが覗き込む。
裂け目は上から見るより深い。
底まで五、六メートルほどはあり、岩が複雑に重なっている。
エリオはその下へ意識を向けた。
水。
小石。
それから。
息。
「います」
エリオが言う。
全員が動きを止めた。
「下?」
セドリックが聞く。
「一人」
「生きてる?」
「呼吸してます」
リーナがすぐに裂け目へ近づいた。
「声かけて」
「聞こえますか!」
セドリックが下へ向かって叫ぶ。
少し間があった。
「……聞こえる」
弱い声が返ってきた。
エリオにもはっきり聞こえた。
若い男。
意識はある。
「動けるか!」
「右脚が……たぶん折れてる」
リーナがすぐに尋ねる。
「胸や頭は? 息苦しくないですか!」
「頭は大丈夫。胸も……たぶん」
「たぶんじゃなくて、深く息できます?」
言われた男が息を吸う。
途中で痛がる声はない。
「できる」
「分かりました。動かないでください!」
リーナはそこで初めて少し息を吐いた。
「すぐ落ちたわけじゃなさそうですね。意識もはっきりしてる」
「信号筒の持ち主か確認できる?」
シリルが尋ねた。
セドリックが筒の番号を読み上げる。
「お前の番号か?」
裂け目の下から、今度は少し大きな声が返った。
「そうだ!」
やはりそうだった。
「どこでなくした?」
「分からない。昨日の夕方には……なかった」
「ほかの仲間は?」
その質問に、返事が少し遅れた。
「二人いた」
「今どこにいる」
「助けを呼びに行った」
「いつ?」
「昨日の夜になる前」
六人の間に、短い沈黙が落ちた。
昨日の夜になる前。
それなら仲間二人は、すでに半日近く戻ってきていない。
「管理局の人間には会ってないのか?」
「会ってない」
「信号筒は?」
「落ちたときにないって気づいた」
「仲間のは?」
男は少し言いにくそうに答えた。
「一人は……昨日の課題で使った」
「もう一人のは?」
「壊れた」
シリルが小さく息を吐いた。
「そういうこともあるのかよ」
推薦任務の緊急装備が、必要なときに三人とも使えなかった。
偶然が重なっただけかもしれない。
だが結果として、男は夜を一人で裂け目の底で過ごしたことになる。
「まず上げる」
セドリックが言った。
「バルガス、ロープ。リーナは上がってきたら診てくれ」
「はい」
「シリル、残り二人の足跡を確認」
「分かった」
「フィーナ、周囲」
「任せて」
「エリオ」
「聞きます」
指示される前に答えると、セドリックが一瞬だけ笑った。
「頼む」
◇
救助そのものは、それほど時間がかからなかった。
バルガスが固定したロープを使い、セドリックが裂け目へ降りる。下にいた男の右脚を簡単に固定したうえで身体を支え、上からバルガスとフィーナが引き上げた。
地上へ戻ると、リーナがすぐに状態を確認する。
「完全に折れてますね」
「治せる?」
男が不安そうに尋ねる。
「今ここで完全には無理です。でも、痛みを抑えて固定を強くすることはできます。歩かないでください」
「でも仲間が」
「あなたが歩いたら、救助する人が一人増えます」
リーナがきっぱり言うと、男は黙った。
エリオは少し離れたところで周囲を聞いていた。
今のところ魔物は近くにいない。
しかし、気になることがあった。
「シリル」
「何だ?」
「二人の足跡、どっち向いてる?」
「西」
「王都側?」
「いや。たぶん第二地点の方だ」
エリオは少し考えた。
助けを求めるなら、管理局の監督官がいる可能性の高い確認地点へ向かったのだろう。
合理的な判断ではある。
だが、まだ戻ってきていない。
「聞こえない?」
セドリックが尋ねる。
「今は」
「距離の問題?」
「分からない。かなり離れてたら聞こえないです」
「昨日の夜から歩いてるなら、もう第二地点に着いてる可能性もあるな」
フィーナが地図を開いた。
「ここからなら、第二地点までそれほど遠くない」
セドリックも地図を見る。
昨日、六人が到達できなかった場所。
今日、本来向かう予定だった場所。
そこへ、負傷者の仲間二人が向かった可能性がある。
「結局、第二へ行くことになるな」
シリルが言った。
「ただし、今度は負傷者連れだけど」
「置いていけない」
リーナが即座に答えた。
「もちろん」
セドリックは頷いた。
「担架を作る。第二地点へ向かう。そこで管理局に引き渡す」
「また遅れるな」
「そうだな」
シリルは言ったものの、昨日のように評価の話をすることはなかった。
エリオも同じだった。
第二地点へ行く。
本来の推薦任務へ戻るためではない。
助けを求めに行った二人を探し、この男を安全な場所まで運ぶためだ。
目的は違う。
けれど向かう場所は同じになった。
◇
移動を始めてからしばらくして、担架に乗った男がぽつりと口を開いた。
「あなたたちも参加者ですよね」
「そうです」
エリオが答える。
「どこのパーティ?」
「セドリックのところ」
「ああ」
男は少し驚いた顔をした。
「昨日、第二に来なかったところか」
エリオは目を瞬いた。
「知ってるんですか?」
「監督官が話してた。一般人を助けて、南へ進路変えたって」
「それ、ほかの参加者にも伝わってるの?」
「詳しくは知らない。でも第二地点で待ってたから、来ないパーティがあるとは聞いた」
シリルが担架の前から振り返る。
「で、俺たちは遅刻扱い?」
「知らないよ。俺たちもそのあと出たし」
「評価どうなってるか知ってる?」
「だから知らないって」
リーナが少し笑った。
「シリルさん、結局気にしてるんですね」
「気になるだろ」
「昨日は評価嫌いって言ってたのに」
「低い評価が嫌いなだけだ」
負傷者の男まで笑った。
その笑い声を聞きながら、エリオは少しだけ不思議な気分になった。
推薦任務を始めてから、予定どおりに進んだ時間の方が短い。
昨日は一般人。
今日は別の参加者。
目的地を回るために歩いているはずなのに、実際には途中で見つけたものに何度も進路を変えられている。
それでも、任務から外れているという感覚はあまりなかった。
冒険者として歩くなら、地図の上だけを見て進めることの方が少ないのかもしれない。
◇
第二地点が近づいた頃、最初に異変へ気づいたのはシリルだった。
「人がいる」
少し先の地面へ目を向けている。
「足跡?」
「新しい。かなり多い」
エリオも耳を澄ませた。
今度はすぐに分かった。
「います。前に何人か」
「戦ってる?」
セドリックが尋ねる。
「いや……話してる」
「何人?」
「七か八。もっといるかも」
さらに近づく。
やがて木々の向こうに、管理局の旗が見えた。
その周囲に人が集まっている。
監督官。
参加者。
その中から二人の男がこちらを見つけ、突然走り出した。
「レオン!」
担架の男が身体を起こそうとする。
「動かない!」
リーナがすぐに押さえた。
二人は息を切らしながら近づいてきた。
「生きてた!」
「大丈夫か!」
「脚は折れてる。でも大丈夫だ」
男たちは明らかに安堵していた。
昨夜、第二地点へたどり着いたものの、すでに日没後だったため監督官が捜索を止め、夜明けを待って別の救助隊を出す予定だったらしい。
「それで、あなたたちが先に見つけた?」
監督官がセドリックへ尋ねた。
「夜中に角狼が信号筒を持って野営地へ来ました」
「角狼が?」
「それを確認するため、朝から東を調べました。そこで負傷者を発見しています」
セドリックが信号筒を渡す。
監督官は番号を確認し、少しだけ眉を上げた。
「なるほど」
「これも評価対象ですか?」
シリルがすぐに聞いた。
「任務中に起きたことはすべて記録対象です」
「またそれか」
「ただし」
監督官は一度言葉を切った。
「今回の負傷者は、演習として用意したものではありません」
全員が少し静かになった。
「本当に事故?」
フィーナが尋ねる。
「はい」
「昨日の一般人も?」
「当然です」
監督官は答えた。
「推薦任務だからといって、区域内で起きるすべてを管理局が用意しているわけではありません」
エリオは少し考えた。
昨日の救助も。
今日の事故も。
試験用の仕掛けではなかった。
「じゃあ、昨日僕たちが遅れたのも」
「実際の状況に対応した結果です」
「それをどう評価するんですか?」
エリオが尋ねると、監督官は少しだけこちらを見た。
「それを見るのが、この推薦任務です」
「目的地へ着く速さじゃなく?」
「それも一つです」
監督官は淡々と答えた。
「ただ、上位区分の任務では、事前に与えられた計画どおりに進めるとは限りません。護衛対象が増えることも、予想外の負傷者が出ることも、予定していた経路が使えなくなることもある。そのとき何を優先し、どう編成を変え、どこまで任務を継続できるかも評価します」
セドリックは黙って聞いていた。
シリルも今度は茶化さない。
「つまり」
フィーナが言う。
「予定を守ることだけが正解じゃない?」
「そうです。ただし、人を助ければ必ず高評価になるという意味でもありません。救助の必要性、危険度、他の選択肢、残りの任務への影響。それらを含めて判断されます」
エリオは、ようやくこの推薦任務の意味が少し分かった気がした。
正解を当てる試験ではない。
予定どおりに歩く試験でもない。
予想外のことが起きたとき、どう考えるかを見られている。
「じゃあ昨日の第二未達は?」
シリルが尋ねる。
「まだ知りたいんですか」
リーナが横で言う。
「知りたい」
監督官は少しだけ笑ったように見えた。
「結果が出るまでお答えできません」
「やっぱりか」
◇
負傷者は管理局側の治癒術師へ引き渡された。
リーナが応急処置の内容を説明し、脚の状態を確認してもらう。大きな問題はなく、ここからは管理局側の馬車で治療施設へ運ばれることになった。
その一連の手続きが終わったあと、監督官がセドリックへ地図を渡した。
「第二地点到達と認定します」
「これで?」
「地点へ来ていますから」
「課題は?」
「本来の課題は昨日で終了しています」
シリルが頭を抱えた。
「じゃあ俺たち、課題一個飛ばしたのか」
「そうなります」
「減点?」
「結果まで答えません」
「分かったよ」
今度こそ諦めたらしい。
「第三地点は予定どおり有効です。今日の日没までではなく、明日の正午までに到達してください」
「延びた?」
エリオが尋ねる。
「全パーティ共通で調整されています。昨夜、別の区域でも事故がありました」
「ほかも?」
「推薦任務中ですから、詳細は話せません」
それ以上は聞けなかった。
ただ、自分たちだけが予定外のことに巻き込まれているわけではないらしい。
セドリックは新しい時間を確認し、地図を畳んだ。
「なら今日はここから第三へ近づく。日没前に安全な野営場所を探す」
全員が頷く。
ようやく推薦任務らしい進路へ戻る。
そう思ったところで、監督官がもう一つ付け加えた。
「それから、第三地点までの途中で一つ追加条件があります」
シリルが嫌そうな顔をした。
「まだあるのか」
「今度は正式な課題です」
「先にそう言ってくれ」
監督官は一枚の紙を差し出した。
セドリックが受け取り、内容を読む。
その表情が少しだけ変わった。
「何?」
フィーナが覗き込む。
紙に書かれていた条件は短かった。
第三地点までの区間。
六名のうち一名を「行動不能者」と仮定する。
その一名は、自力での戦闘、索敵、魔術使用を禁止。
残る五名で、第三地点まで任務を継続すること。
「誰を止めるかは?」
セドリックが尋ねる。
監督官は答えた。
「管理局が指定します」
エリオは何となく、紙を見た。
六人のうち一人が使えない。
残る五人で動く。
それだけなら、負傷者を想定した普通の訓練にも思える。
けれど、ここ数日ずっと頭の片隅にあった数字を、エリオは思い出していた。
六人。
五人。
そして、誰か一人。
監督官が別の用紙を確認した。
「行動不能者は――」
そこで一度、視線が上がった。




