ドッキリ?
数日後の夜。拓海は自宅のベッドで仰向けになり、天井をぼんやり眺めながらスマホをいじっていた。
合コンから数日。仕事は相変わらずだが、心のどこかでひまりのことを考えてしまう。
そんな時――ピコーン、とLINEの通知が鳴った。画面を見ると、送り主は「佐伯あみ」。
「え、あみちゃん!? 個別で!?」胸がドクンと跳ねる。
まさか、あみが自分に気がある……?
いや、でも合コンではひまり一択だと宣言したし……でも、あみはノリが良いし、ワンチャン……?
期待を込めてメッセージを開いた瞬間、拓海の思考は一気に裏返った。
あみ:『拓海さん、お疲れ様です! 実は、今 類君の部屋にいるのだけど!
類君今シャワー浴びている!
私 まだ決心がついてないけど、拒否したら嫌われるかな? それもいや』
……展開早っ じゃ無く
すぐバレる嘘じゃん……これ。どういうことだ?
意味がわからない。
類も自分も、同じ会社の独身寮暮らし。
しかも部屋は隣同士。
――いや、そもそも寮の部屋にシャワーなんてない。
風呂は大浴場だけだ。
ドッキリにしては雑すぎるし、あみの性格からしてこんな嘘をつく理由が見えない。
とりあえず確認だ。
拓海はスウェットのまま部屋を飛び出し、隣の類の部屋のインターホンを押した。
ピンぽーん。
「はーい」ドアが開くと、そこには普段着の類が普通に立っていた。
髪も乾いているし、シャワーを浴びた形跡ゼロ。
「あ、拓海。どうした?」
「あ、いや……合コンの反省会でもしようかと思ってさ」
あみのLINEのことは伏せたまま、当たり障りのない世間話を数分だけして、拓海は自室に戻った。
類は完全に一人だった。
あみの影すらない。
「……ますます意味がわからん」ベッドに座り直し、スマホを握りしめる。
あみの目的が読めない。
このまま一人で考えても堂々巡りだ。
拓海は、合コンの時からずっと本命だったひまりに相談することにした。
ひまりにラインする口実ができた。
拓海:『ひまりちゃん、夜遅くに急にごめん。ちょっと意味不明なことがあって、相談に乗ってほしいんだけど……』
ひまり:『どうしたの? 急に改まって』
拓海:『さっき、あみちゃんから「今、類の部屋にいる。類がシャワー浴びてて困ってる」ってラインが来たんだ。
でも、俺と類は同じ寮の隣同士で、部屋にはシャワーなんて無いんだよ。
気になって類の部屋に行ってみたら、あいつ普通に一人で部屋にいた。
これってどういうことだと思う?』
すぐに既読がつき、少しの沈黙。
画面の向こうでひまりが考えているのがわかる。
返信が届いた。
ひまり:『それって……あみが、拓海さんに焼きもち焼いてもらいたくて嘘ついたんじゃない?
「他の男の部屋にいるよ」って言って、拓海さんに焦ってほしかったんだよ、きっと』
「いやいやいやいや!」拓海は思わず声を上げてツッコんだ。
拓海:『何でそんな、すぐバレる嘘を?
そもそも、合コンの時から、俺はひまりちゃんのこと好きだって言ってるじゃない』
あみどころか、俺の視線は最初から君にしか向いていない。
そんなストレートな告白を投げ込んだつもりだった。
しかし――数秒後に返ってきたひまりのLINEは、拓海の肩の力を一瞬で抜き去った。
ひまり:『えー、聞いてないわよ(笑)
もう、拓海さんは冗談が上手いんだから!』
「……冗談じゃないんだけどな」
スマホを見つめたまま、拓海は深くため息をついた。
あみの不可解な大嘘。
そして、肝心なところで致命的に鈍感な本命・ひまり。
かつてサフランの店内で、自分が三木俊から喰らったあの「全反射」の絶望。
皮肉にも今のひまりは、あの時の俊とまったく同じ残酷さで、拓海の本力を「冗談」として爽やかに撥ね退けてしまっているのだった。
独身寮の静かな夜の中で、拓海の頭はさっきよりもさらに混乱していくのだった。
(おわり)




