幼稚園科VS社会人
『洋風居酒屋クローバー』のテーブル席。
今夜、そこは男女6名による情報戦とエントロピーが渦巻く、合コンという名の戦場と化していた。
注文されたドリンクをトレイに乗せて運んできた香織は、ほわんとした笑顔を浮かべながら、その鋭い『園児の行動観察眼』でテーブルの空気を入念にスキャンしていた。
カウンターの奥では、翔先輩が、相変わらずマイペースにシェイカーを振りながら、時折楽しそうにこちらの様子を盗み見ている。
今回の合コンのメンバー構成は以下の通りだ。
【男性陣(会社員チーム)】
宮本 拓海(25):この合コンの主催者。有休を無駄遣いして散ったピエロ。
大迫 力(25):拓海の同僚。名前からしてパワーの塊。
一条 類(25):拓海の同僚。シュッとした鼻筋を持つ、ルックスだけはスマート男子。
【女性陣(幼稚園科1年トリオ)】
日向ひまり:拓海が狙う本命。
佐伯 あみ:ノリが良くツッコミの鋭いギャル。
小野寺 ゆい:おっとり見えて、意外と毒舌
ドリンクが全員に行き渡ったところで、男側の幹事である拓海が、ちょっと緊張した面持ちでグラスを掲げた。
「えー、それじゃあみんな! 今日は集まってくれてありがとう! 素敵な出会いに……かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
グラスが重なり、カチンと心地よい音が響く。
女子たちの視線は、乾杯の瞬間から自然と一人の男に注がれていた。
一条類。サラサラの髪に涼しげな目元、静かにグラスを傾けるその姿は絵になっている。
あみが「(え、ちょっと、本物のイケメン連れてきてるじゃん……!)」とゆいの脇腹を小突く。ゆいも「(やるじゃん、有休先輩……)」と小さく頷いた。
拓海が「よーし、掴みはバッチリだぞ」と心の中でガッツポーズをした、その瞬間だった。
隣に座る大男――大迫力が、ぬっとその巨大な顔面を女子一同の前に突き出した!
「みなさん初めましてッ!! 大顔面大迫力、大迫 力ですッ!!!」
「ぶふっ!」とあみが吹き出す。
「自分、大迫力な顔面を活かした特技がありましてッ! **『隣の女の子を劇的に小顔に見せること』**ができますッ! よろしければ、今すぐ実証させてくださいッ!」
あまりのインパクトと、潔すぎる「大顔面宣言」に、女子トリオは大爆笑。
「何それ、超気になるんだけど!」「ちょっと、私の隣に来て!」と、あみ、ゆい、ひまりが順番に力先輩の隣に並び、スマホを構えてツーショット写真を撮り始めた。
カシャ! カシャ!
あみ:「待って、マジで私、普段の3割増しで小顔に見えるんだけど! 奇跡のフィルターかかった!」
ゆい:「やばい、これ遠近法バグってる(笑)。力さん、この写真送ってほしいから連絡先教えて!」
力:「押忍ッ! 喜んでッ!!」
力先輩は、自慢の大顔面を武器に、合コン開始わずか5分で女子3人全員のLINEを秒速でゲットしてみせたのだった。
スタートダッシュを決めた力先輩に対し、女子から最も熱い視線を浴びていた一条類は、静かにビールを口に運んでいた。
あみが、少し頬を赤らめながら類に話しかける。
「あの、類さん? 類さんはお休みの日は何してるんですか?」
女子なら誰もがドキドキする質問。類はふっと伏し目がちにグラスを傾け、どこか切なげな、ミステリアスな声で囁いた。
「……バイクをいじったり」
あみ:「えっ、バイク!? ……かっこいいけど、何それ、終わり!?」
類:「うん。終わり」
あみが必死に「あ、アウトドア派なんですか?」と話を繋ごうとするが、類は「うん」と一言残して再び沈黙。会話のラリーが完全に途切れてしまった。
実は彼、顔がいいだけで、中身はただ会話の引き出しが極端に狭い男だったのである。
テーブルの空気が凍りかけ、類から女子たちの心が急速に離れそうになったその時。
拓海が、すかさず身を乗り出した。
「あはは! ごめんねみんな! 類はこれでも社内じゃ凄く優秀なんだけど、プライベートの会話は基本『了解』の二文字しか喋らないのだよ!でも、もう少し待って。酔っ払うと冗舌になるから。 ほら類、あみちゃんにウーロン茶のおかわり聞いて!」
拓海は類を弄りつつ、巧みに話を回し始めた。
さらに、自虐を交えて場を盛り上げる。
「いや〜、類や力に比べたら、僕なんて本当にヘタレだからね! こないだなんて、香織ちゃんのピンチと聞いて張り切って有休まで取ったのにさ……」
あみ:「そう、あの時……。おもちゃの指輪をどうして持っていたの?それもカプセルのままで 」
ゆい:「彼氏用の小道具としてわざわざ仕込んできたんだ……。準備が涙ぐましすぎて(笑)」
カウンターの奥で様子を見ていた香織が「あはは、拓海さん相変わらずですね」とクスクス笑い、カウンターに立つ翔も「拓海さんのいつものやつだな」と面白そうに見ている。
拓海の盛大な自爆を力先輩が斜め上に大絶賛したことで、テーブルは再び大爆笑の渦に包まれた。
そうこうしているうちに類も酔が周ってきて冗舌になり、合コンの場は盛り上がった。
ひまりやあみ、ゆいたちは、最初は拓海を「間抜けなヘタレ」だと思っていた。しかし、自分が笑われ役になってでも友人をフォローし、常に周りを楽しませようとする拓海の「友達思いな優しさ」に触れ、3人の見る目は確実に変わっていった。
「拓海さんって、いじられキャラだけど、本当はすごく良い人だよね」
あみがそう言って優しく微笑む。
「連絡先を交換しましょ」
チャンス到来、とばかりに拓海はここぞとばかりに胸を張った。今こそ、男を見せる時だ!
「いや、僕、本当はひまりちゃんの連絡先以外、いらないんだけどな!」
バチッとひまりを見つめてウィンクする拓海。
静まり返る店内。ひまりが少し頬を染めた――かに見えたが、現実は非情だった。
あみ:「はいはい、拓海さんそれセクハラ〜! はい、全員でグループLINE作るから、今すぐ全員ID登録して!」
ゆい:「拓海さん、ひまりだけ狙い撃ちは許しません(笑)。ほら、全員登録!」
「ええっ!? 個別はダメなの!?」
結局、全員が強制的に入ったグループLINEに登録させられた、でも目的は達成。ひまりに気持ちを伝えて連絡先もゲットした。




