合コンに香織の影
「頼む、津島! 三木! 今週の土曜、メンツが足りないんだ! お前らだけが頼みの綱なんだよ!」
俺は理学部物理学科3年、22歳の山内一郎。2浪だが一郎。講義の空きコマのラウンジで、俺は二人に頭を下げていた。
今週末、教育学部との合コンしてもいいと言われた。その合コンの絶対条件は、三木俊と津島翔を連れて行く事だった。イケメンの三木がご指名されるのは分かるが、正直、津島が指名された理由は意味不明だった。
声をかける相手としては、かなりギャンブルだということは分かっている。
ターゲットの一人目、津島翔。
いつもは髪の毛ボサボサで冴えないやつだった。しかも、会話のすべてが物理学の用語に変換される天然記念物。だが、その中身を本人は理解しておらず、全部間違っているのがタチの悪い男だ。
そして二人目、三木俊。
こっちは常識人だ。しかし、彼には水野遥という、成績もビジュアルも理学部一の彼女がいる。
「合コン、ですか」
翔は、いつも通りのヨレよれのグレーのTシャツを着て、ポーカーフェイスのまま首をかしげた。「確率統計的に見て、僕が参加しても全体の熱量を下げるだけの特異点になりそうですが」
「そんなことない! お前はただそこに座って、ニコニコしてろ! 会話は三木がなんとかするから!」
俺はすかさず、隣でスマホをいじっていた三木を巻き込んだ。
「おい、勝手に俺を巻き込むなよ」
三木はめんどくさそうに顔を上げた。「俺はパス。そういうの、今あんまり乗り気じゃないし」
三木が彼女の水野にゾッコンなことは、学科の誰もが知っている。普通ならここで諦めるが、俺も必死だった。何せ向こうのメンバーには、あの教育学部のアイドル、山下香織さんがいるのだ。
「そこをなんとか頼むよ三木! 女の子たちに『イケメンが来る』って大見得切っちゃったんだよ! 津島を連れていく以上、お前っていうブレーキ役がいないと、うちの学科の評価が量子レベルで崩壊する!」
俺の必死の訴えに、三木は「はぁ……」と深くため息をついた。
その時、それまで他人事のように聞いていた翔が、ふと真面目な顔で三木を見た。
「三木。これは参加した方がいいですよ」
「は? なんでだよ、翔」
「もし断れば、こいつは他のメンツを探すためにさらに学科内を彷徨います。その過程で、この話が遥の耳に入る確率は100%に収束する」
「…………」
三木は目を見開いて絶句した。俺も呆気に取られた。
この男、自分のこと(美緒先輩から寄せられている激熱な視線)にはアホほど鈍感なくせに、他人の恋愛における一般的な世間の常識(ここで変に隠し事をして水野遥にバレたら三木が詰む)だけは、妙に正確に理解している。
「つまり、僕たちが最初から『遥に疑われないように隠密行動』としてこの合コンを処理すれば、三木の平穏は保たれます。当日、僕はサフランにマネキンみたいなクリーンな服装で擬態し、カモフラージュを実行します」
「いや、なんでお前がそこまでノリ気なんだよ!?」
三木が激しくツッコむが、翔の目はマジだった。彼は親友である三木の立場を守るため、この合コンを「極秘任務」として完遂する気満々になっていた。
「わかった、わかったよ……! 行けばいいんだろ、行けば!」
ついに三木が頭を抱えて折れた。
「ただし、翔。お前は絶対にボケ担当だからな! 余計な物理トークは禁止。天然ポーカーフェイスのイケメン枠として、置物になってろ!」
「了解しました。当日は非局所的なボケを連発します」
「不穏な予言すんな!!」
こうして、裏での取引は完了した。
当日、津島翔が完璧すぎるイケメン姿でサフランに現れ、彼にゾッコンな美緒先輩の脳内を大爆発させることになるので有った。




