表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/62

美緒のあいあい傘か香織の助手席か

平日の夕暮れ前。

さっきまで晴れていた空が急に暗転し、バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨が喫茶『サフラン』の窓を激しく叩きつけ始めた。


カウンター席では、翔がスマホの画面を見ながら頭を抱えて白目を剥いている。

「嘘だろ……。あと30分で『クローバー』のバイトシフトなのに、この豪雨は傘なしじゃ10秒でびしょ濡れになる……」


店の入り口で外を睨みつける翔の背中を見ながら、私は自分のバッグの中にある、お気に入りの可愛い折りたたみ傘をそっと指先でなぞった。


――……勝ったわ。完全勝利よ。


私の脳内に、今度はまばゆい後光とともに『恋愛の神様』が降臨した。

これは天が私に味方したとしか思えない。あいつのボロアパートはここから目と鼻の先。


常連のお客さんに「ちょっとすぐそこまで、店をお願いね!」と留守番を頼んで、私が「仕方ないから、すぐそこのあんたのアパートまで入れてあげるわよ」と、極上の慈悲(相合い傘)を差し伸べるの。


わずか数分間の短い道のり。だけど、狭い傘の下で肩を寄せ合い、雨の音に心臓のバクバクをごまかしながら歩く。アパートに着いたら「これ、クローバーまで使っていいわよ」って傘を貸してあげる。


濡れた髪を気にする私の横顔を見て、あいつは今度こそ理性を消し飛ばして、雨の中で愛を叫ぶに決まってるわ!ウフフフフ


「ちょっと、翔。あんた傘持ってないんでしょ? 仕方ないから、すぐそこの――」

私が声をかけようとした、まさにその瞬間。


カランコロン! と激しく店のドアが鳴った。

「お疲れさまでーす! 翔先輩、やっぱりここにいましたね!」


……は?

入ってきたのは、濡れた大きなゴルフ傘をパタパタと振り払いながら、満面のひまわりみたいな笑顔を浮かべる女の子――香織だった。


「香織!? なんでここに……」


「クローバーの店長から、繁華街の方はもう土砂降りだから、翔先輩が足止め喰らってたら車で拾ってってあげてって言われて。今日、たまたまお父さんの車を借りてきてたんでラッキーでした! お店の前に横付けしてるんで、早く乗りましょ!」


「マジで!? 助かったー! 香織、お前マジで女神!」


翔はこれ以上ないほどの歓喜の表情を浮かべると、身軽に立ち上がった。香織はそんな翔を面白そうに見つめ、それから私の方を向くと、すべてを察したような確信犯の笑みで小さくウインクした。


「じゃあ美緒さん、俺バイト行くんで! ごちそうさまでした!」

ガラガラ、ピシャーン。


ドアが閉まり、香織の運転するセダンが激しい水しぶきを上げて走り去る。


静まり返る視界。


「なによ……なによあれーーーーーー!!」


手の中の、まだ開いてさえいない折りたたみ傘がみしりと軋んだ。


私の脳内には今、目の前の景色以上のゲリラ豪雨と、巨大な落雷が荒れ狂っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ