表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/62

3日間こない

平日の昼下がり。

喫茶『サフラン』の店内は、いつも通り落ち着いた空気に包まれていた。

ジャズが心地よく流れ、窓際の常連客が新聞をめくる音だけが響いている。――なのに、私の心の中だけは大型台風が直撃していた。翔が、丸3日も姿を見せない。(……は? 何それ? 死んだ? 行き倒れ?

 それとも、ついに私の美しさに耐えかねて他店に浮気した!?)普段なら「うざい」の一言で片付けるのに、

来ないとなると仕事が1ミリも手につかない。大学のマドンナであるこの私が、

あいつ一人に振り回されるなんてプライドが許さない。……でも、気になるものは気になるのよ!私はカウンターの中でコーヒー豆を計りながら、

何度目か分からないため息をついた。(……いや、落ち着け美緒。

 翔なんて、ただのサフランの常連で、

 別に特別な存在じゃ……ない……はず……)自分で言っていて苦しくなる。そんな時だった。カランコロン、とドアが鳴った。入ってきたのは、夜の居酒屋『クローバー』で翔の後輩をしている香織ちゃん。(……来たわね、救世主!)私は努めて平然を装い、お水を持って彼女の席へ向かった。「いらっしゃい、香織ちゃん。今日は授業終わった?」「あ、美緒先輩。そうです、お腹空いちゃって。

 ここのパスタ、本当に美味しいですよね〜」香織ちゃんは無邪気に笑いながらメニューを開く。よし、ここから自然に翔の話題へ誘導するのよ、美緒。「そういえば最近、大学の近くに新しいパンケーキ屋ができたらしいわよ。

 若い子が好きそうなやつ」「へえ、そうなんですね! あ、あとこの前のサークルの合宿なんですけど――」……おかしい。

話題が右へ左へスルスルと逃げていく。

一向に翔の名前が出てこない。むしろ香織ちゃんは、

時折私を観察するように三日月型の目でニヤリと笑っている。(……待って。この子、私が翔の情報を欲しがってるのを完全に分かって焦らしてるわね……!)背筋が凍るほどの小悪魔ぶり。私は必死に平静を装いながら、別の角度から攻める。「そういえば、クローバーって最近忙しいの?」「え〜、どうでしょうね〜。

 あ、でもこの前、店長が新しいメニュー考えてて――」(違う! そこじゃない! 私が聞きたいのは翔のことよ!!)香織ちゃんは楽しそうに話し続ける。

その笑顔の裏に、確信犯的な悪意……いや、遊び心が見え隠れしている。(この子……完全に私で遊んでる……!)でも、もう限界!「――で、あいつはどうしてるのよ!?」私が食い気味に叫ぶと、

香織ちゃんは「やっと釣れた」と満面の笑みを浮かべた。「翔先輩ですか?

 クローバー、今改装で1週間丸々お休みなんですよ。

 だから私もここ数日、全然会ってないんですよね〜」「……え? 居酒屋、休みなの?」「はい。じゃあ私、ミートソースで!」注文を終えた香織ちゃんは満足そうにスマホを開く。私はその横で、

胸の奥がさらにざわついていくのを感じていた。(居酒屋が休みなら、なおさら時間あるはずじゃない……

 なのにサフランに来ないって……どういうこと!?)私はカウンターに戻りながら、心の中で叫び続けた。(あいつ……本当にどこで何してるのよ……!)――翔が来ない3日目が、こうして終わった。(第12話・終わり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ