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Trans Trip! +  作者: 小紋
15/15

14.可愛いガールズトークは稀少(6章後)

「……あ」


 おやつ時に腹減りを抑えられず食堂へ出向いたら、新聞を読みながらティータイム中のエデルさんがいた。

 声を掛ける前、思わず目を奪われる。朝会った時は普通に下ろされていた金色の巻き毛が、綺麗に編み込まれているのだ。……可愛い。

 見惚れていたら、視線に気づいたらしいエデルさんがこちらを見た。ヘーゼルブラウンの瞳が優しくしなる。


「あら、ヤマト」


 エデルさんは、小さくおいでおいでをして私を呼ぶ。断るべくもない私はすぐさま駆け寄った。

 テーブルの上にはティーセットの他に白い箱が置かれていた。何だろう。


「食べる? バーニェフィッツェ。有名なお店のだから、おいしいのよ~」


 誰かが来たら一緒に食べてもらおうと思ってたの、と。少女のような若干うきうきした口調でそう言いながら、美しい指先が白い箱を開いた。

 出てきたのは、言われた通りのバーニェフィッツェ。魚の形をした、マドレーヌのような焼き菓子だ。意匠を凝らした形状のそれは、めっちゃ旨そうな上にめっちゃ可愛い。……語彙力ゼロな表現だが、とにかくなんかこう、外見がレベル高くて味も良さそうなやつ。


「い、いいんですか」

「召し上がれ。お茶はいるかしら?」

「あ、い、いただきます」


 恐縮しつつも、御相伴に預かることにした。

 立場が下の私がお茶を淹れるべきかと思ったが、目の前にあるこのティーセットはエデルさんの私物だし、触ったら壊しそうで怖いから止めておく。

 そしてこの判断は正解だった。お茶を淹れ始めたエデルさんの手つきは、素人目に見てもクオリティ高い。

 振る舞い、外見、そして作法まで完璧とか。この人の女子力はどこまで高いのだろう。私から見たら、聳え立つ絶壁を見上げているような気分だ。

 呆然としてる間にお茶がはいり、綺麗なティーカップが差し出される。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 受け取って、一口。

 ……どういうことだ、お茶でわかるのは種類と濃さのみの私でも、相当においしいと感じるぞ。

 感動しつつバーニェフィッツェをパクつけばこれもまたおいしい。

 向かい側には高女子力のスーパー美人。

 な、なんだこれ……なんだこの空間。私ここにいてもいいの?

 存在することが不安になりつつもしっかり食べる。あまりにもおいしくて、一分も経たないうち、あっという間になくなった。


「ご、ごちそうさまでした」


 エデルさんが嬉しそうに微笑む。


「美味しかったでしょう?」

「はい! なんかもう、とろけるのにしっかりしてるっていうか……。美味しかったです」


 表現力が来い。

 だが、エデルさん的にはこの表現力でも問題ないようだった。


「ヤマトが一生懸命食べてるのを見ると、すごく癒されるわあ。食べるの好き?」

「は、はい」

「じゃあ、今度おいしいお店に連れて行ってあげるわね?」

「あ、ありがとうございます!」


 あ、これ、愛玩動物系の扱いだ。……まあいいやエデルさん美人だし。美人に愛玩されるとか考える限り最高だろ。


「うふふ、楽しみにしていて。……あら」


 何かに気付いたようなエデルさんが、突然手を伸ばす。その手は私の頭に向かっていた。細い指が私の前髪あたりを摘まみ、離れて行く。


「ホコリ、ついてたわよ~。女の子なんだから身だしなみはしっかりしないと」

「あ、す、すみません。……でも、女の子、ですか」


 ホコリをつけてたのは反省するべきだが、私みたいなお下品腐女子が女の子扱いは違和感がある。せいぜい動物扱いが関の山だ。


「そうよ。いくら複雑な事情があるとはいえ、中身は女の子なんですもの」


 あ、そっちか。


「き、気を付けます」

「よろしい」


 ぺこりと頭を下げて宣言したら、エデルさんはにこりと笑った。

 女の子は身だしなみに気をつけなきゃ、か。……その点、エデルさんは完璧だよね。


「……エデルさんは、いつもオシャレですよね。今日も編み込み可愛い」

「ありがとう。今日はうまく編めてるから褒めてもらえると嬉しいわ~」


 素直にお礼を言えるところがまた女子力高いなあ。

 それにしても、編み込み。解れもないし、巻き髪とマッチしててすごい可愛い。

 またも、じーっと見つめる。


「……やってあげましょうか?」


 え。


「あっ、す、すみませんそんなつもりじゃ」


 あ、まずい。なんか催促してるみたいになっちゃったかな。

 慌てて遠慮したら、エデルさんは優しく微笑んだ。


「ヤマトの髪は綺麗だし、少し触ってみたかったの。編ませて?」


 自分が頼むという形で年下に益をもたらす大人力まで、だと……? もうこの人には絶対勝てんわ。降参です。






 少し待っていてね、と言って食堂を後にしたエデルさんが戻ってきた時、両手にスタイリングの道具を抱えてきた。結構、本格的にやっていただけるらしい。


「ヤマトの髪、絹みたいね。羨ましいわ」

「いや、そんな」


 しなやかな指が髪を梳いて形を整えていく。

 他人に髪触られるのって、気持ち良くて好きだ。しかもエデルさんはすごい優しく触るからそれが倍増で。……なんか。


「エデルさん、お母さんみた」

「ヤマト、お姉さんまだ二十代よ~」

「ごっ、ごめんなさい!」

「うふふ」


 なんだ今の殺気!?

 ふ、普段は優しいお姉さんだから忘れてたけど、この人も歴戦の覇者なんだった……気をつけよう。不用意な発言をしたらどうなることか。今みたいになる。

 その一瞬で噴き出した冷や汗が収まる頃には、編み込みが完成した。


「できた! う~ん、我ながらかわいくできたわあ」


 満足げな声。いつも無造作ヘアなので多少頭が引っ張られてる感があるが、顔周りはすっきりしていい感じだ。はやく見たい。


「み、見たいです」

「はい、鏡」


 大輪の花々の装飾がされた鏡を差し出された。こんなところまで女子力、と感心しながらも見てみる。


「わっ、かわいい……!」

「でしょう?」


 冠のように円を描いて頭を一周する編み込み。ボリュームが出すべきところは盛られ、地味ではなくしかし派手過ぎず清潔感がありしかもまとまりまで。

 すげえ、美青年がオシャレ美青年になった! わー、可愛い! すごい可愛い!

 これ、どうやったらできるんだろう。なんかすごい手さばきでぱぱっとやっていただいたけど、相当大変なんじゃ。


「あーっ!」


 感動していたら突然叫び声が耳に届く。

 なんだ!? と思ったら食堂の入口にエナとソルが。叫んだのはエナか。


「何それっ! かわいい!! エデルさんエナにもやって!!!」


 エナは叫びながら走ってきた。大興奮だ。

 それを、あらあらうふふみたいな感じでエデルさんが迎える。

 私はエナに席を譲った。ありがとっ! とお礼を言ったエナが勢いよく椅子に座る。


「ヤマトくらいかわいくして!!」

「はいはい」


 エナはこういう可愛く甘えられるとことか、女子力高いよなあ。思い返せばニーファもファッションにはうるさいし、ジェーニアさんも結構身だしなみだのなんだのは整っていて……あれ、コロナエ・ヴィテで女子力低いの私だけ?

 絶望感が浮かんだが、死にたくなっても困るので頭を振って霧消させた。あ、頭を振ったら盛ったところだけ髪が揺れた。なんか違和感あるけど面白い。

 と、この女子力空間で言葉を発していない人物がいることに気づく。ソルだ。お喋りなのに珍しいな、と思いつつソルの方を見たら。

 ……真顔で凝視されてた。


「あ、変、かな」

「……いや、好き」


 まさか好かれるとは。

 その後、ソルはずっと凝視してきた。目を合わせられない私はずっとあらぬ方向を向いていた。

 なんなんだろう、何かがソルの琴線に触れたんだと思うけど、それがつかめる私ではなかったのだった。


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