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朱雀宮の主人  作者: 祥雨
3/4

3 真実と覚悟

麒麟会、当日。


春蕾とお揃いで、赤を基調とし金色の刺繍が施されている服を用意してもらった。頭からかぶるベールのようなものも見たいと杏に春蕾が交渉したようで今回は私だけそれがある。春蕾はないのかと聞いたら「遙様のが見たいんです!」と息を荒くして言われたためここまでの情熱は私にはないと諦めた。


「緊張してる?」

「はい、かなり」

「大丈夫だよ、基本的にお喋りしてるだけだから」


麒麟宮に向かう乗り物の中で、カチコチに固まった春蕾に声をかければ上擦った声で返ってくる。初めて行く場所だから緊張するのも分かる。私もこっちにくる時はどんな感じなんだろうってワクワクもあったけど行きたくない気持ちもあって、それが波のように交互に来るから苦しかった時期もあった。でも来てみたら特に問題なく過ごせているから行く時の不安だけ乗り越えれば大丈夫。


「皆、誰連れてくるんだろうなぁ」

「……っ」

「大丈夫? 吐きそう?」

「い、いえ、大丈夫です」


ぼやいているのと春蕾が緊張している間に麒麟宮に着いた。黄金を基調とした建物で、麒麟会がない時以外はこの門は開かれない。それが開かれるから一目見ようと民衆が群がっている。他の四神宮とほぼ同じ構造だから見たって面白みあんまりないと思うけど。


乗り物からおり、中へと案内される。その間も春蕾は緊張で足と手が同じタイミングで出るからちょっとおかしかった。人って緊張していたらこんなことに本当になるんだって。


「風玉、久しぶり」

「遙、貴方本当に連れてきたのね……」


どういう意味?


「いつも麒麟会で何か持ってきてっていう時、大体直前まで忘れてるから急拵えみたいな物しか持って来なかったのに。今回はちゃんと服まで用意して」


もしかして私の成長に感動してる? そんな母親みたいな感情を私に向けていたの? ま、いっか。いつも直前まで忘れてたのは事実だし。


「紹介するね、私のパートナーの春蕾だよ」

「お初にお目にかかります。遙様のパートナーの春蕾と申します」

「楽にしてちょうだい。……ん? 貴方、どこかで見た顔ね」

「どこにでもいる顔かと」

「それもそうね」

「玉風のパートナーは?」

「私のパートナーはそのうち来るわよ」

「もしかして泰然(タイラン)?」

「……驚いた。貴女本当に遙?」


目を丸くしながら顔をまじまじと見られる。失礼だな、私だって成長するんだからそのぐらい分かるよ。


「琳娜はもう来てるよね? どこにいるの?」

「中庭歩きに行ったわ、そのうち帰ってくるでしょ」

「ふぅん? 珍しいね、歩きに行くなんて」

「何か探し物してくる言い方してたわ」

「四年前に落としたのかな?」

「落としてたら届けられてるわよ」


確かに。ま、そのうち帰ってくるて玉風も言うし、ここで待ってればいいか。中庭歩きたい気分でもないし。


「遙様、建物の中身を見学したいのですが……」

「いいよ、案内する。じゃあ玉風またあとでね」

「ええ。春蕾と言ったわね、貴方――」


私に聞こえないぐらいの声量で、玉風が春蕾に何か耳打ちする。それを聞いて春蕾は顔色を変えずに「承知しております」と。用は済んだようだようだから、建物の中を案内開始した。


「ここが応接間で、ここが客室で、って聞いてる?」

「はい、もちろん」


冷や汗かいてるけど、本当に聞いてる? 返事も上の空だし。全く、ここは年長者たる私が寛大な心を見せてあげるか。


「何かあった?」

「え?」

「ここくる前からそわそわしてるし、玉風から何か言われ更に酷くなってるよ」

「あ……」


思い当たる節があるようで顔を俯かせる。


「言う言わないは自由だけど、幸薄そうな顔するのやめてって言ったでしょ? 言わないことが原因なら言ってよ」

「……」

「言ったことで私が春蕾のこと嫌いになっちゃうとか、それ以外の何か懸念があるとか、色々あると思うけど言わないまま何事もなく過ごすは多分無理だよ?」


ここに何かあるってことは春蕾の様子を見れば明らかだし、この日を乗り越えたところで多分だけど春蕾が抱えている何かは消えたりはしないんじゃないかと思う。ずっと幸薄そうな顔で過ごすんじゃないかって。これは私の勘だけど。私は春蕾には幸薄そうな顔より、景初と同じように笑って過ごしていてほしいと思う。それがどうしてかは分からないけれど。


「……」


頭の中がぐるぐ回っている顔をしている。


何かを決意して、顔をあげて、何か言おうとして、また顔を下げる。それを何度か繰り返す。早く言ってよと言うヤキモキした気持ちもあるが、ま、仕方ない。背中を押したら何か話してくれると思ったけど、私と会ってから今、数ヶ月あったのに言えなかったことをここですぐに言えるわけもないか。


「言えるようになったら言ってね」

「遙様、僕――」

「――遙? 何してるのこんな所で?」


くるりと踵を返した所で後ろから春蕾が掠れた声で私の名前を呼んだかと思ったら、前から人が現れて私の名前を呼んだ。こんなにタイミングいいことあるんだと、まずは前の人から見たら


「琳娜、久しぶり」


翠の服を纏った琳娜が立っていた。後ろに数人の使用人を控えさせて。玉風の話だと中庭で何か探していたようだったけれど、ここにいるってことは見つけたんだろうか。


後ろで息を呑む音がする。そして、琳娜が目を見開くのも。


「……遙、泰然が着いたから始まるって」

「そっか。じゃあ行こうか」


いつも通り人受けのいい柔らかい笑顔に戻って琳娜は、歩き始めた。私も春蕾に声をかけようとしたら顔を俯かせている。さっき何か言おうとしていたけれど、これじゃ話にならないかと行こうと促して琳娜の後ろをつく。


今日の麒麟会は波乱かもな、主にここ二人で。と内心こめかみをかきながら、玉風と泰然がいる麒麟の間へと戻った。四角の机をひし形の配置にし、それぞれ対角線上になるよう席が四つ用意されている。


「あれ? パートナー連れてきたの私だけ? みんな、これじゃ私のこと言えないんじゃない?」

「……貴女、さすがね。こんな空気で言えるの」

「場を和ませるために言ったんだよ?」

「遙の良いところは、空気を読まないところ。だからね」


呆れる玉風に、フォローのような顔をして貶す泰然。場を和ませようと口を開いてみたけど、やっぱりそう言うのは琳娜か玉風しか言えないんだなと反省した。


「パートナー紹介からしましょう、その方が話が早いわ。まずは私から。私はパートナーとして泰然を連れてきたわ」

「どうこパートナーです。遙、俺たちがパートナーだって気付いたんだって?」

「そう! 私がパートナーとして連れてきた春蕾がヒントをくれたんだよ」

「……初めまして、遙様のパートナーの春蕾です」


私の真後ろに立っていた春蕾が挨拶する。パートナー紹介の冒頭はいい空気だったのに、途端に鎮まりかえった。


「それで? 琳娜、貴女パートナーは?」

「私はパートナーが来るのを中庭で待ってたの。でも来なかったと落胆して、泰然も来たのが見えたし始まるんだと思い、外廊下を歩いていたのが見えた遙を迎えに行ったら、私のパートナーがいたの」


……うーん。


あの時の二人に反応からして何かあるとは思ったが、まさかそうなるとは。玉風は冷ややかな目をしているし、泰然は面白そうだと傍観者の顔をしている。当事者はここ三人ってわけね。一人は事情を知らないほぼ無関係な人間とも言えるんだけど。


「琳娜のパートナーて言うのは、遙のパートナーの春蕾?」

「そうなの。まさか遙が泥棒するだなんて」

「え!? 私が?」

「だって、そうじゃない。私のパートナーを自分のパートナーとして連れて来たんでしょ?」

「琳娜のパートナーだって知らなかったよ? 春蕾からも聞いてなかったし」

「言えなかっただけでしょ? ねえ?」


琳娜が春蕾に目線を向ける。春蕾は何も言わない。


「遙は事情を知らないなら琳娜、貴女が事情を教えてあげなさいよ。そうしたら返してくれるかもしれないわよ」

「そうね! あのね、春蕾は十年前に私のところへ弟を助けたいって来たの。そして、それから紆余曲折あって恋人になったの」


あらま


「なのに、数ヶ月前に突然いなくなっちゃったの。麒麟会にも一緒に行きましょうって言ってたから、この日に戻って来てくれるんじゃないかって待ってたの。そしたら、遙がパートナーとして連れて来たの!」

「ふぅん? 春蕾、そうなの?」

「……はい、仰っていることに間違いはありません」

「ね! だから遙、返して? 今なら許してあげる」


その許してあげるは誰に言ってるの? 私の顔を見て言っているけれど、私に向けて言っていないように感じる。本当に二人が恋人同士で愛し合っているなら、私が悪者だから元あるべき場所に返してあげるべきだと思ったけど、なんかちょっと違和感がある。


「私が奪ったって言いたいの?」

「ううん、そう聞こえたならごめんなさい。ただ、人間の遥が四神の遙には逆らえないと思って」

「それは自分のことを言ってるの?」

「私が? まさか。私は相手を尊重してるよ?」

「尊重されていると感じているなら、私に何か言われたとて琳娜に言うんじゃない? 相談はあった?」

「うん。もちろん相談には乗ったよ。でも、春蕾はいなくなった。それは遙が何かしたからじゃないかって」


うーん、当たり障りのない返事しかしてこないから分かんないな。仕方ない、ここは私の力削られちゃうかもしれないけど、くどい言い回しが続くよりましだし!


「埒開かないし、権能削弱しよう!」

「え? は、遙、まっ――」

「琳娜、春蕾、四神長として命ずる。二人はこれから真実のみを述べなさい。一つ嘘をついたら琳娜は力を、遙は私が代理として力をひと削りされていく。執行人は、玉風、泰然に命じる。時間は百十二分、それまでに私が納得出来る説明をしなければ力は半分にされる。これは決定である」


四神の中にもリーダーがいる。こっちに来る時に、お前がリーダーだから皆に助けてもらいなさいと両親に言われ、リーダーって言ってもすることないでしょと思ってたし、リーダーだけが使える遊戯も教えてもらってたけどまあ使う時ないでしょと思っていたが、まさかこんなところで来るとは。


「遙、貴女正気!? 人間の代理として自分の力を削るなんて!」

「嘘言わなきゃ削られないよ? 人間に対価払わせると寿命になっちゃうじゃん。それは可哀想でしょ? それに今は私のパートナーだし」

「いいじゃないか。まさか遙が遊戯をするとは思わなかったし、俺たちは執行人で削るだけなんだから面白いだけだろ?」

「貴方ねぇ……!!」


遊戯を始めるために、麒麟宮の使用人たちが場を用意する。その時に玉風から詰め寄られたが、泰然が今度は詰められている。少し離れた所で琳娜はブツブツと何かを言っている。二人同様に私が遊戯を発動させるとは思わんかったんだろう。


「遙様」

「うん? どうしたの?」

「その、権能削弱と言うのは……?」

「ああ。権能削弱はね、決められた時間の間に二人には同じ質問をされる。それぞれ抽象的な返事はせず、いつどんな時に何があったかを詳しく話すの。そこで少しでも嘘をついたら、あそこに用意されている天秤が見えるでしょ? あれがを平衡を保たず、嘘をついた人の方へ傾くの。そしたら、執行人――今回は玉風と泰然が力を削るの。削り方はまあ見ればわかるよ」

「それって痛くないんですか?」

「まあやったことないから分かんないけど、多分痛いね。力ってつまり……うーん、人間で言う魂みたいなものだから」

「それなのに僕の代わりを……?」

「そうだよ。だって力は削られても時間かければ回復して元に戻るけど、寿命は削ったら元に戻らないじゃない? だったらそっちの方がいいじゃない!」

「……でも、僕は遙様に言わなければいけないことを言ってないんですよ」

「だからこれをやるんだよ。ここでなら言えるね?」

「……はい、包み隠さずお話しします」


幸薄そうな顔から決意をした顔へ。うん、そっちの方がいいね。それに、二人の間に何があったのか私も知りたいし。


「よし、じゃあ始まるから用意された椅子に座って! 私はあっちに座って話を聞くから」

「はい。すべてお話ししたら、その時はまた二人でお話ししましょう」

「うん!」


横に並べられた椅子へ琳娜と春蕾は座る。その真正面には私が座る。琳娜の後ろには玉風、春蕾の後ろには泰然が立っている。私と二人の間には、一つの小さなテーブルが置かれており、そこに天秤が置かれている。天秤の土台は砂時計で出来ているため、百十二分と天秤に告げれば勝手にセットされる。


「あなた達二人が出会った時のことを詳しく教えて」

「私から。私と春蕾は青龍宮に春蕾の弟を治してほしいと春蕾がやってきて、門下生では治せなかったから私の所にやって来てそこで出会ったの」


天秤は傾かない。


「その通りです。そして、そこで契約を持ちかけられました」

「その契約内容は?」

「治療の対価に入院をすることです。時間をかければ治せる希望があるからその間は青龍宮に入院することを告げられました」


天秤は傾かないし、対価内容もおかしな点はない。


「入院は景初だけ?」

「はい。ただ僕も連れ添いで滞在して良いと言われました」

「へぇ?」

「何? その何か言いたそうな顔は。小さい子だったから身内がいた方が安心するかと思ったの!」

「それ以外に理由は? あるかないかだけ言って」

「……ある。春蕾が格好いいと思ったの! だからいてくれたら嬉しいと思って」


一目惚れしたなら、そう言う提案もするか。提案だったなら、だけど。


「琳娜、春蕾との契約内容を全て教えて」


顔色が変わる。提案じゃないんだね。


「……景初が治るまで青龍宮に春蕾が滞在すること」

「治るの定義は?」

「……景初が完治すること」


春蕾の認識と違う契約内容。口頭だけど、紙で示すとしたら琳娜が契約内容を書いているとしたら、春蕾はそれにサインをした形になる。だから琳娜に春蕾は驚きと憤りと納得の混じり顔を向けている。


「契約内容を初めて知ったようだけど、心当たりは?」

「……以前、一度家に帰ろうと思い青龍宮から出ようとしたことがありました。けれど、門の外から透明な壁のようなものに阻まれ出られませんでした。その時は青龍宮の使用人に琳娜様が呼んでいると言われたため深くは考えず思い違いかと思っていました。が、何度かその事があり青龍宮から出られないことを知りました」

「出会った経緯と契約内容は分かった。次は恋人になった経緯を教えて。春蕾から」

「恋人という認識は僕にはありませんでした。ただ、良くしてくれることと二人で話す機会を他の方よりかは設けてもらっているとは感じていました」


天秤は傾かない。


真っ直ぐの姿勢で真っ直ぐな目線を向けて話している。今までは目が合えば困ったように笑ったり、視線が途中で逸らされるが常だったけど今はない。春蕾の中で吹っ切れて、真摯に話している事が見て取れるし、天秤もそれを証明している。


「恋人じゃないんだって。天秤もそう言ってる。琳娜は恋人だと思ってたんだよね? 恋人になったと思った経緯を教えて」

「契約を飲み込んだし、私が会いに行くたびに嬉しそうに笑うし、二人っきりで話そうって言うと応じるし、贈り物を贈ったら受け取ったの。だから、言葉はないけど恋人になったんだって思ったの!」


天秤に傾きはない。


琳娜は嘘を言っていない。つまり、二人の中に認識の齟齬がありそれをお互いに違和感を感じながらも、言葉にしないまま今に至ってわけか。言葉にしない理由も分かる。春蕾は景初の治療を琳娜にしてもらっているわけだから、琳娜の機嫌を損ねると治療をしてもらえなくなると不安があるから何か変だと思っても景初のためだと思い言葉にしない。琳娜は琳娜で、契約の内容をちゃんとは言わなかったけれどそれでも何も言わずに春蕾がずっといて、琳娜が行った通りの反応をしていた。私と同じで琳娜も恋人いたことなかっただろうから、本とか周りの人の言葉で好意があると勘違いしたって仕方ない。


まあ、春蕾と琳娜が言葉にして話し合ったところで琳娜はのらりくらりと交わしてそのままだった可能性が高いけど。琳娜は自分の元だと一回でも認めたものに関して、手放したくないタイプだし。


時間は半分を過ぎたところか。大体聞きたい事は聞けたし、あとは。


「恋人じゃないってのは分かった。どちらかが恋人だと認識してなかったらそれは恋人じゃないもんね? 琳娜は、恋人である春蕾を私が奪ったと思ったから返してほしいと言った。それがこの遊戯の始まりで、そこについて聞きたいな。私が春蕾を奪ったと言う勘違いのきっかけになった、春蕾はどうやって青龍宮から出たのか、について」

「僕が青龍宮から出れたのは、琳娜様から遙様が四神長であると暗に仰られていることを聞いたからです。元々四神長は四神よりも権限が強く、四神の契約より四神長の契約の方が強いと言うのは周知の事実です。契約は簡単なことから始まるというのは青龍宮にいて色々な契約を見て気づきましたので、遙様に手紙を出して朱雀宮に招かれればそれは契約となる。と、推測したため手紙を出しました」

「どうやって手紙を出したの? 琳娜が私に手紙を出すなんて知ったら止めてたんじゃない?」


どこか薄暗い気持ちがあるから、そこは見張っていたはず。


「前提として契約は当事者が認めた代行してもらうことは可能だと青龍宮にいた時に見たことがありましたので、それを使用しました。僕はまず知人に青龍宮から手紙を出しました。内容は見られてもいいように、僕と知人しか知らない暗号を使いました。そして、知人は暗号を読み解いて僕の代わりに手紙を出してくれました。遙様から招き入れる手紙がきたと知人から返事があったため、僕は景初を担いで青龍宮を隠れて出ました。」


それによって青龍宮を脱出したってわけか。


「まあ、奪ったっちゃっ奪ったのかな? これは」

「ほら! 私は嘘ついてなかったでしょ?」

「私は嘘は許さないけど、言いがかりについては別の問題だよ? それについては……そうだ! 事実を言わないからこんなことになったんだから、質問されたら事実しか言えないようにしよう! そしたら遊戯だって開催しなくていいもんね?」

「え?」


顔色が変わる。


「琳娜、私が怒ってないとでも思った? どうでもいい事だって流してくれると思ってたね? 誠実な態度で謝罪があれば私も許してたけど、これはよくなかったね。ちょっと甘やかし過ぎたのかな? だから、期限は私たちが天に帰るまでね。これは同意のいらない契約だからもう発動してるよ」


この遊戯が終わっても琳娜は事実しか言えなくなった。事実を言わなかった場合、私との契約だから不幸が襲ってくる。


「遙、ゆ、許して……。もう二度としないから」

「しないなら心配しなくて大丈夫でしょ? じゃあ次。これが山場だ。二人はこれからどうしたい? 本当に恋人になるのか、とかお互いが納得する形で話をして。納得できなくても答えは出して、ただ相手のことは尊重して」


時間はもう二十分を切っている。ここからは二人で話し合ってもらうところで、意見を求められない限り私が何か口を出すつもりはない。春蕾が琳娜の想いを聞いて、恋人になりたいって思うんだったらそれは止めない。春蕾はそうするしかなかったから私のパートナーになったわけだから、これで私も言っちゃったら琳娜と同じことになるし、春蕾は四神にずっと囚われることになる。景初も元気になったんだから、二人で四神宮の外で生きて行く未来だってあるんだから、それを選ぶなら止めない。全ては、琳娜と春蕾がどうしたいか。対等で話し合えるのはこの場しかないから、ここで春蕾も四神だからと気後れせず自分がどうしたいか話をしてもらいたい。


「春蕾、貴方のこと好きになったの。貴方に契約の内容を伝えなかったこと、本当にごめんなさい。ずっと一緒にいたくて、言って嫌だと思われたら耐えられなくて。でも、貴方と過ごした十年は私にとっては宝物で、またその日々を過ごしたいと思ってる」

「……僕は、琳娜様のことは青龍宮の主人で景初を治してくれる人だとしか思っていませんでしたし、今もそうです。僕にとって貴女と過ごした十年は楽しい時も幸せな時もありましたが、それは景初のためでしかなかったです」

「私のこと、一秒でも好きになったことはなかった?」

「……はい」


琳娜が縋るように聞くが、春蕾はそれに堪えるような顔をし腰飾りを握りしめながら答えている。お互いに嘘はない、天秤がそれを証明している。琳娜はぽろぽろ涙を流すが春蕾をそれをただ眺めているだけ。


「春蕾のこと今でも大好きで私の物にしたいけど、それじゃ意味ないんだって分かったから諦める。遙! これでいいんだよね?」

「うん。琳娜、よく言えたね」

「ふんっ! 私だって成長出来るんだから」


強がっているけれど涙は流したまま。でも、今までの琳娜なら言えなかったことだから、今日だけで成長できたんだと思うとそれを目の当たりに出来て嬉しい。


「琳娜様、今まで本当にありがとうございました。景初が今日まで生きてこられたのは、琳娜様のおかげです」

「もういいからっ、遙! もう終わりでいいでしょ?」

「うん。ちょうど遊戯終わったよ。琳娜、春蕾お疲れ様。玉風と泰然も」

「俺たちはただ立ってただけ、だけどね」


琳娜は席から立ち上がって広間から出て行った。今回の麒麟会はもうおしまいだから、あとは次集まる時に何するか話すだけだし話終わるぐらいには帰ってくるでしょ。


「遙様、貴重な機会をいただきありがとうございました。今回のことがなければ僕は一生、話す事ができなかったと思います」

「春蕾のためにもなったんならよかったよ。杞憂は晴れたし、春蕾はこれからどうしたい?」

「……僕は……」


固まってしまった春蕾の返事を待っていると、玉風と泰然に呼ばれた。「戻って来たら返事教えて」と伝えてその場を離れる。


「遙が遊戯始めた時はハラハラしたけど、どうになかってよかったわ」

「ね、たまには遊戯もやってみるものだね」

「次は四年後で、ちょうど折り返しだしお祝いでもする?」

「そうだね、そうしよう! 自分以外の三人に贈り物持ってくるようにしよう!」


次の麒麟会では何をするか決まったところで琳娜が帰ってきて、決まったことを伝えて今日はお開きとなった。帰りの乗り物の中で春蕾に聞いた。


「どうするか決めた?」

「……いいえ、まだ考えられていないです。今日、長い夢が終わった気がして」

「そっか。なら、ゆっくり考えてみて。今まで景初のことばかりだったかもしれないけど、これからは自分のことも考えられると思うし」


十年と言うのは私たちにとっては短いけれど、春蕾たち人間にとっては長い時間だろう。十七歳の春蕾の半分以上の時間を奪われたに近い。


「はい、ありがとうございます」


疲れているけれど幸せそうに笑っている。まあ、幸薄そうな顔から脱却できつつあるしいい傾向だね。


その後、朱雀宮に戻って景初がお迎えしてくれた。それから数日経って、執務室で書類に目を通していたらドアがノックされた。中に招き入れると春蕾で、顔を見た時に何をしに来たのか分かったため使用人たちを外に出して二人にしてもらった。


「景初とも話しまして、ここを出て行きたいと思います」

「そう。何かしたい事は決まったの?」

「……僕は、遙様のことが好きです。初めて四神様が降臨し、遙様の姿を見た時に目が合った気がしたんです。それからずっと忘れられなくて。それから少しして青龍宮から出られなくなり、出れる方法が遙様しかいなかったから、朱雀宮で過ごしていても遙様が僕へ無関心さを感じてそれが心地よく好きになったのかと思った時もありました。でも、僕はあの時の鮮烈さと無関心かと思っていたけれど、僕が好きなお菓子を探ろうとしてくれたその気持ちが嬉しかったんです。青龍宮にいた時は、好きなものは何かなんて聞かれなかったから。だから僕は、遙様に相応しい人間になるため修行に出ます。帰って来たら、好きになってもらえるようアピールする機会をいただけないでしょうか」

「うん、いいよ。待ってるね。でも十六年以内に帰ってこないと私は天に戻っちゃうからそれまでには、帰って来てね」

「はい!」


そんなこと言わなくても今返事聞いたらよかったんじゃない? だって私も好きだよ? 明確な理由は春蕾ほどはないけど、一緒にいて話をしたら春蕾のこと好きになってたよ。ドキドキとかワクワクとかそう言うのもあるよ、だって今春蕾が私のどこを好きになったのか教えてくれて、私に相応しい人間になりたいって言ってくれたのをすごく嬉しく思うし、抱きしめたいって、私も好き! って言いたいよ。でも、春蕾は成長したいって思っているから我慢して、春蕾が納得いくまで過ごしてほしいって。ずっとここにいてよって言いたいけど、やりたいこと見つけたんならそれを応援したいよ。苦しいけどね。琳娜のような恋じゃないけど、私もこれを恋だって認めてるよ。


その後、春蕾と景初は「お世話になりました」と言って朱雀宮から出て行った。使用人たちは涙を流していたし、私も泣きたかったけど我慢した。泣いて春蕾が揺らいじゃったら、私が自分を許せなくなるから。


早く帰っておいでね、でもやり切ってきてね。その道中で、私じゃない人と恋に落ちても文句言わないよ。苦しいし泣くかもだけど、春蕾が幸せなら私はそれでいいよって思えるぐらいには私も春蕾と会って成長できたな。

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