2 デートと会話
「えー何々? 恋人とはお互いに恋愛感情を抱き、恋しく思い合う相手のこと? ふむ、恋愛感情っていうのは一般的にどう言うものを指すのか……、ふむ、胸がドキドキしたり相手がいない時に相手のことを考えてしまうこと……なるほど?」
部屋で本を片手にまずは恋人とは何かを知る。言葉や恋人同士を見たことはあるが実際自分がなると話は変わってくる。まず調べた感じ私は人を恋愛的な意味で好きになったことはない。言葉の定義などは調べたらわかるが、どうやって人を好きになるかは書かれていない。
「休憩しませんか?」
机にカップが置かれ、中にはお茶。顔を上げれば春蕾がお菓子を手に持っている。
「そうだね、そうする。春蕾も座って」
頭がパンク寸前だったからちょうどいい息抜きになる。
パートナーとは同行者ではなく、恋人と言ったと区別な存在を指している。と気付かされた日以降、春蕾たち兄弟は朱雀宮に住んでいる。部屋は余っているから掃除だけすればすぐにでも住める状態だったため、そのまま住んでもらっている。一回荷物を取りに朱雀宮から出ていたが、それ以外は用事のない限りここにいる。中庭を兄弟で探索して楽しんだり、朱雀宮探索をして楽しんだりしているらしい。私も仲間に加わりたかったが、仕事があるため中々一緒に行動することができない。
その代わりに春蕾が、私のおやつの時間にお茶とお菓子を持ってやってくる。たまに景初も来るけど、大体この時間はお昼寝しているそうだ。
「恋愛について何かわかりました?」
「いや全然。難しいね」
「本で読むのが難しいなら、行動に移してみませんか?」
「デートってやつ?」
「はい」
それも本に書いてあったし、している人たちを見たことがある。まさか自分もすることになるとは。
「いいね、しよう! 行くところ、中庭か他の四神宮ぐらいしかないけど」
街に気軽に行くことは出来ない。人間の形はしてるけど、人間じゃないことはやっぱり分かるらしく変装していても人に避けられる。と、他の四神が言っていた。正直私は街にそこまで興味がないから行ったことがなく、そう言う経験をしたことがない。
「中庭に行きませんか? 一緒に歩くだけでも違うと思うんです」
「うん。じゃあ行こうか」
「あ、十分後に待ち合わせしませんか? 恋人は待ち合わせしてそこからデートすることが多いので」
「そうなんだ、分かった」
「じゃあ十分後に中庭入り口で」
お茶だけ飲んで春蕾は部屋から出て行った。お菓子あんまり好きじゃないのかな、いつもほぼ手をつけない。景初はよく食べてくれると聞いているし、食べっぷりがいいから使用人たちもどのお菓子仕入れるなど考えるのが楽しそう。甘いもの得意じゃないとか? 食事は残さず食べているようだし。私が甘いもの好きだから、甘いお菓子を持ってくることなってるけど、たまには塩気の効いたお菓子でもリクエストしてみようかな。そしたら春蕾も食べるかも? そうだ、そういう事をデートの時に聞いてみればいいんだ。
中庭の入り口に行くと春蕾が立っていた。
「服、着替えてくれたんですね。先ほどの服も似合ってましたが、今のも似合ってます。あと僕のために着替えてくれたのかなって思ったら、嬉しいです」
頬を染めながらはにかむす姿に後ろにいた使用人たちが息を呑んでいる。使用人から良い噂しか聞かないと思ってたけど、もしかしてこの兄弟とんでもない人たらしなのでは? 兄は女性・男性の心をくすぐる言動をするし、弟は素直で愛嬌があるから母性・父性をくすぐっているのを使用人たちの話を聞いていて思う。
「気付いてくれてありがとう、春蕾もそれ付けてきたんだね」
先ほどまでは付けていなかった腰飾りを付けている。歩きながら話そうと促され、中庭を散歩し始める。
「はい、両親がくれたんです。大事な時につけて行きなさいって」
「そう。ここにご両親は来なくて良かったの?」
「僕が十四の時に母は死にました。父は母を追うように体を壊して、僕が十五の時に」
そうなのかなとは思ってたけど、やっぱりそうだったんだ。
「景初は、春蕾が育てたの?」
「周りの手も借りながら、ですが。僕の唯一の家族で、弟なんですけど親代わりで育てたので子供のようにも思ってます」
「そっか。なら治って嬉しかった?」
「はい! もう治らないのかもしれない、そう思っていたところもあったのですごく嬉しかったです。遙様には本当に感謝しています」
……言葉に嘘はないか。でも、何かそれ以上もありそうなんだよな……。来た時に感じた違和感と必要以上に言わないこと、それらが合わさってモヤモヤした気持ちもあるにはあるけど、無理やり言わせたってつまらないし。もうちょっと仲が深まれば言ってくれそうな気もしなくもないし。だからいっか、今じゃないだけだねきっと。
「腰飾りは家に置いてたの? 初めてここに来たとこは付けて来なかったけど」
「はい。大切な物なので、普段は箪笥にしまっていました」
「ならこれからは家から出る時は付けておいた方がいいよ。……うん、これで変なのは付いて来ないから」
腰飾りに手を当てて幸運を授ける。今回のは小。景初に授けたのは中。大は、人に授けると子々孫々受け継がれるものになるから今まで一回も授けたことはない。子々孫々受け継がれても、誰かが破って天罰下っても可哀想だし。当の本人が生きている間しか機能しない幸運ぐらいがちょうどいいと思う。
「え、あ、幸運の力を……?」
「そ。なんか幸薄そうな顔してるし、そんな顔してたら幸せも来ないよ? 幸運の四神のパートナーなんだから、多幸感ある顔してほしいからそのお手伝い」
「ありがとうございます、それでこれの対価は何をすれば」
「いいよー。これはおまけ。契約者は春蕾なのに、授けた相手は景初だから勿体無いでしょ? 本当は契約なんてなくてもあげちゃうんだけどねー、この力で人が狂ったらいけないでしょ? だから重めの契約をしてるの」
「それでも、何かは返したいです」
そんな必死そうな顔されると、何か対価渡してあげないといけないような気持ちになってくる。無条件の好意なんてないって思ってるタイプなのかな。だったら私が側仕えや使用人たちから「明日はデートなのでお休みいただきます!」と報告もらった時に「楽しんできてねー」と言いながら、幸運(小)を授けてたこと知ったら卒倒しちゃうんじゃないかな。あ、でもこれ側仕えや使用人にも幸運授けてること言ってないから、みんなそうなっちゃうのかも? じゃあ、はぐらかせばよかったな。
「じゃあ、その幸薄そうな顔するのやめて。楽しそうに笑って」
「え?」
「なんかずっとちょっと困った顔してると言うか、悩んでると言うか、そう言う顔してるんだよ。それをなくして」
「あ……」
何か思い当たることがあるのか、両頬に手を当てている。
「ま、期限は設けないから気楽に直して行って。それよりこの花知ってる? 可愛い色じゃない?」
「それは――」
花と言うか植物に博識だったらしく、説明を色々してくれた。最近までなかったはずで、この間庭をいじっているのを見かけたから多分その時に植えた花が咲いたのかも。
「この花の色、四神様が降臨した時に遙様が着ていた服の色に似てますね」
「んー? 赤だったらなんもそうじゃない?」
この世界に来たのは十二年前。天から降りてきたら、たくさんの民衆がいてその数に圧倒されたのを覚えている。あの時着てた服は、次は帰る時に着るだろうな。
「頭から足先まで全て赤で、赤がこんなに似合う人いるんだって感動したのを覚えています」
「その時まだ赤ちゃんだったんじゃない?」
「五歳でしたよ、母に連れられて見に行きました。弟はまだ母のお腹の中にいました」
五歳は赤ちゃんかと思ってたけど、違うのか。そう言えば景初も今五歳だったか。だったらあのぐらいの大きさの時に見てたってことか。
「あの頃からずっとお姿が変わらないのも、初めてここにきた時に驚きました」
「あんまり外でないからね。不老には憧れる?」
「……どうでしょう。僕は十二年経って、見上げていた頃から、遙様を見下ろせるぐらいには大きくなりましたから成長するのも悪くないと思います。でも、あの時見た姿のままと言うのは不思議ではありますが、……僕も貴女の隣にずっといられるのであれば不老でいたいと思います」
「どうして?」
「貴女はずっと変わらないから。僕も、貴女が隣に置きたいと思った時の僕のままでいたいな、って」
「私は寿命が長いだけで不死じゃないよ? 春蕾の方が先に死んじゃうから不老でも変わらないんじゃない?」
「永遠だって思えるんじゃないかって、不老だと」
うーん、なるほどね。何か言いたいことはわかる気がする。
「麒麟会に着て行く服は、赤にしようか。ドレスコードとかないけど、杏からお揃いの服で仕立てるって言われてるから赤が思い出なら赤にしよう!」
「いいんですか?」
「こっち来た時に着てきた服じゃないけどね、それでも雰囲気は味わえるでしょ?」
「はいっ、楽しみにしてます」
そんなに嬉しいものか、お揃いのコーデは流行っているって書かれていたしこれも恋人っぽくていいのかも?
「麒麟会には玉風も泰然も琳娜がいるけど、琳娜以外の二人には会ったことある?」
「玉風様は青龍宮でお見かけしたことが。琳娜様にお会いに来たようで。お二人が並んでいるのを見て、正反対のように感じました」
「性格が?」
「お話ししたことがないのでなんとも言えないのですが、琳娜様は愛らしい印象を持ちますが、玉風様は気高いような印象を持ちました」
「ああ、琳娜は可愛くて玉風は美人だって言うよね。新聞で読んだことある」
ちなみに私に対しての記事はなかった。泰然は精悍な顔立ちとか書かれていたのに。玉風に愚痴ったら全然朱雀宮から出ないからと言われて何も言えなかった。
「春蕾はさ、友達とかいるの?」
「はい、昔はよく遊んでました。追いかけっこしたり、自分たち独自の言語を作ったり」
「へぇ? すごいね」
「言語を作ったはいいものの発音は今自分たちが話している言語のにしたので、例えば周りには「りんご」と僕たちが言ったように聞こえるものの僕たちは「メモ帳」って言ってるように聞こえる言語でしたね。最終的に、自分たちで作った言語は書かなくなり、「りんご」と書いて「メモ帳」と伝えるみたいなのにおさまりました」
「それってどうやったら分かるの? 読んでて普通に読んじゃう時もない?」
「自分たちの言語のことを言ってるのだと、最初に特定の単語を出すことでそのことについて言ってるんだなと認識できるようになるんです」
「複雑だねー、でも楽しそう」
「はい、頭は混乱しますけど面白いので続いてます」
楽しい思い出なんだなと見て取れる。
「遥様のその指輪は、こっちで買ったんですか?」
「ううん。持ってきたの。きれいでしょ?」
右の人差し指につけている指輪。紫色の石が埋め込まれている。これはいつでもずっとつけている。そのあとも、話をしながら中庭を散歩した。




