第二章 3部【シアのお願い、セレネの要望】
今回もほのぼの回です(^o^ゞ
「さて、シアちゃんとのプライベートな楽しいおしゃべりは、また後でするとして――」
一通り騒ぎが収まったのを見て、セレネが話し始めた。
「ケルくん、話していた例の裏切り者の件ね。残念ながら逃げられたかもしれない」
セレネは悔しそうに顔を歪める。
「姉さん、その話しはシアがいない時に……」
「ううん、確認したい事があるの。シアちゃん、少し協力してくれる?」
真剣な顔をしてセレネが言うので、「私に出来ることなら」とシアは小さく頷いた。
ケルヴィスは何も言わず、壁に寄りかかった。
「シアちゃん、実はね……砦内部の人が、子供達を連れ去った罪人に"境界の森"を通らせていたみたいなの」
「……そうだったんですね」
ケルヴィスに教えてもらったことを思い出した。
(そういえば、森は迷いやすいから、ケルヴィスさんのような案内がいるって聞いた)
「それで、シアちゃんが"境界の森"を通る時。その罪人以外の誰かがいなかったか覚えてないかしら」
「あの時、いた人……」
そう言われて、その時の事を思い出そうとした。
「……あ、森の入り口で待ってる人がいました」
特徴があったから覚えていた。
「子供を連れた人と話をした後、森の中を先導するように歩いていました。隣国との境界でその人はいなくなりましたけど。ええと……こげ茶色の、狼みたいな獣の耳を生やした人です」
シアがそう言うと、二人が同時に顔を上げた。
「やっぱりね、兵舎に1人だけ居なかったのよ」
「……あいつ、捕まえたらただじゃおかない」
ケルヴィスが拳を握りしめ机を叩いたので、シアは一瞬ビクリとする。
「ケルくん気持ちは分かるけど、シアちゃんが怖がるわ」
セレネが、そっと拳を下げてあげた。
「シアちゃん、覚えていてくれてありがとう。さて、手配しなくちゃね」
「ああ、シアよくやった」
ケルヴィスがシアの頭を撫でてきた。
(また、頭撫でてもらえた。髪の毛ごわごわしてるのに……って)
「ああ!」
ここで、シアは自分の格好がとても酷い事を思い出し、思わず声をあげた。
「あの、セレネさんにお願いが……」
そう言うと、セレネは綺麗な青い瞳でシアをじーっと見て、なぜか首を横に振った。
(え、まだなにも話してないのに?)
と心の中で首を傾げる。
「私は、シアちゃんの“お姉さま”になる予定なの。ふふ、だからね?」
セレネは、わくわくしたような目を向けてきた。
シアは言いたいことが理解出来ず、ケルヴィスの顔を見る。
「……姉さんは、姉と呼んでほしいんだよ」
「その通りよ!シアちゃんは何て呼んでくれるかしら?ケルくんと違う呼び方がいいわね」
「えっ!」
突然言われて軽くパニックになる。
家族なんて知らないし、孤児院で姉や兄と呼べるほど親しい人もいなかった。
皆、その前にいなくなってしまうし、シアはのけ者にされていたから。
(どうしよう、何て呼べば?お姉ちゃんは馴れ馴れしいかな、お姉さんは他人行儀?)
「お、お……」
シアは緊張で、徐々に顔が赤くなっていく。手も汗ばんできた。
「お?」
それに対してセレネはシアが困るのも楽しそうに見てるようだ。
「お、おね……」
言い慣れてない呼び方を期待されてどもってしまう。
「惜しい!シアちゃん、あと一歩よ!」
応援するセレネを見るケルヴィスは呆れた顔だ。
「……お姉、さま……セレネ、お姉さまで、いいですか?」
セレネを見上げて、反応を確認する。
シアは、緊張で手汗が止まらない。
セレネは、ぱあっと喜びの表情になった。
頬に両手を当て、にやけている。
「ふふ、セレネお姉さまだって♪」
「良かったな、姉さん。顔崩れてるぞ……これは当分余韻に浸りそうだな」
喜ぶセレネに対して、ケルヴィスは残念なものを見る目つきだ。
「……誰が顔崩れてるのかしら?」
「姉さ……痛っ!」
セレネから足を踏まれて声が出た。
「スミマセン、オネエサマ」
「言葉に気をつけなさいね」
ケルヴィスはそんなやり取り後、シアに視線を移し話を戻した。
「さて、シア。何をお願いしたかったんだ?」
「あの、着替えをさせてもらえればと」
シアの顔はまだ赤い。
恥ずかしくて、ケルヴィスからも慌てて顔を背ける。
「分かった、じゃあ着替えと湯浴みの準備するから少し待っていてくれ」
ケルヴィスが、ふたつ返事で了承してくれた。そしてバタンと扉を閉め応接室を出ていった。その音で我に帰ったのか、セレネが申し出てくれる。
「シアちゃん、私が湯浴みを手伝うわ。あと髪の毛も整えましょうね」
(良かった、やっと……ちゃんとできる)
シアはようやく整った身なりで人前に出られることに、安堵を感じた。
◇ ◇ ◇
兵舎に移動して、セレネの部屋に入る。ここは客室で簡易なベッドと机、椅子しかなかった。
念のためと、ドアの前に目隠し用の衝立を置いてくれた。
「ごめんねシアちゃん。ここには女性用の施設が少ないの」
砦の風呂は兵士用で、交代制で女性が使えるらしい。でも今は使えない時間帯だった。
「大丈夫です。孤児院では水浴びか、体を拭くだけだったので」
セレネは少しだけ悲しそうな目をするが、すぐに微笑を浮かべた。
「シアちゃん、体を拭いたら髪の毛を洗ってあげるからね」
ケルヴィスから孤児院の事を聞いていたセレネは、シアの体にさっと目を通す。
彼女はシアの体を見て、一瞬だけ手を止めた。
薄く残る痣や小さな傷。怒りがふつふつと湧いてくる。だが、シアに気づかれぬように手をぐっと強く握りしめ、気持ちを抑え込んだ。
シアは自分で手足を拭き、セレネに背中を拭いてもらうと、気持ちよさに思わず目を閉じた。
セレネが孤児院の事を聞いてきた。
「ケルくんから聞いたけど、孤児院では連帯責任と言われたそうね」
(ああ、傷の事かな。ケルヴィスさんも確認したいと話していた)
「……はい。だから、怒られないように必死でした。私より小さい子も多かったので……」
小さい子供達が罰を受けるのは見過ごせなかったので、シアが代わりに受けた事が何度もある。
セレネがふと手を止め、ぽつりと呟いた。
「……頑張ったのね、シアちゃんは偉いわ」
セレネが優しく労ってくれた。シアはそんな言葉に涙腺が緩む。
「……顔も拭いとくわね」
セレネが涙に気づいて顔を拭いてくれた。
(……拭き方がケルヴィスさんに似てる)
シアはちょっと笑ってしまった。
「さあ、次は髪の毛を洗いましょう」
シアの髪はところどころ絡まっていたので、石鹸で洗いお湯で流す。その後、セレネが櫛で丁寧に髪の毛をすいてくれた。
まだ少しごわつくが、ここに来る前よりだいぶましになってシアは嬉しかった。
セレネがシルフを喚び風で髪を乾かす。その後、ハサミで毛先を同じ長さに切り揃えていく。
「シアちゃん、着替えはこれね。少し大きいけど、我慢してね」
簡易なワンピースに袖を通したら、少し大きかったので腰の部分を紐で結んで調整する。
「くるっと回ってみて」
シアは、言われた通りその場でくるっと回った。
「あの、変じゃないですか?」
「よく似合ってるわ、家に帰ったらもっと可愛い服を用意してあげるから」
(可愛い服、気になる……嬉しいかも)
ちょうどそこへ扉を叩く音が聞こえた。
「入っても大丈夫か?」
「はーい、どうぞ」
ケルヴィスさんが部屋に入り衝立の向こうから顔を覗かせる。
「シア、さっぱりしたか……」
清潔なワンピースを身に纏ってシアは真っ直ぐ立ってみた。
ケルヴィスが目を丸くして無言になった。
静止したままのケルヴィスの横腹をセレネが肘でつつく。
「あ、ごめん、ついじろじろ見て」
焦ったような表情で目を逸らされた。
ケルヴィスは視線をうろうろさせている。
「ケルくん、シアちゃんのワンピース姿を見て感想は?」
「……似合ってるよ、シア……」
照れながらそう褒めた。
でもその後に。
「ワンピース着ればちゃんと女の子……うぐっ!」
と言い放ち、途中でセレネに横腹を殴られ呻きながら悶絶していた。
シアはなんと言っていいか恥ずかしくなってしまった。
「……ありがとうございます」
と、一言だけ返した。
そして、失言したケルヴィスは反省文を2枚追加されることとなった。
次回は少し不穏になりますね。




