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捨てられた少女は銀の騎士と夜明けをさがす――黄昏の少女と薄明の騎士――  作者: 古東 白


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第二章 4部【牢獄の男】


ーーある男の独白ーー


危ない橋ばかり渡っていた俺は、うまい話がないか探していた。

その日も、いつものように酒場で安酒を口にする。


「ちっ、こんな薄い酒じゃ酔った気にもならねえ」


酒を飲み干し店を後にしようとした。


「そこの人」


黒いローブを被った怪しいやつに声を掛けられた。


「なにか用か」


俺は素っ気なく答えた。


「仕事、しませんかねえ」


……さっき店にいるやつに仕事がないか尋ね回ってたのを見てたのか。


「仕事はしてもいいが、報酬にもよるな。だが捕まるような仕事はしたくねえ」


そう答えると破格の報酬を提示してきた。こいつはしばらく遊んで暮らせる額だ。思わず唾を飲み込んだ。


「なあに、仕事は子供の護衛ですよ」


子供を護衛って金持ちの子供か?

それなら金払いはよさそうだ。


「どこまでの護衛だ?」


俺は少し気になって聞いてみた。


「ハルザム王国までですよ」


隣の国か。

国王に関してあまり良い噂はない。

確か、東の公爵家の後継者だったはずだ。


クーデターを起こして、先代女王の王配となった義兄を殺した。

女王に執着していて、クーデターが成功した後は王宮に幽閉したと聞く。

しかし、間もなく女王は亡くなった。死因は不明。そして国王は、狂っていったようだ。


狂人が国を治めるのは無理だ。国内は今も混乱していると言うが、当然だろう。


「"境界の森"は砦があるから抜けるのに難しいんじゃないか?」


隣国行きなら、警戒した方がいいかもしれない。


「大丈夫です、そこは何とかできますゆえ」


どこにでも腐ってるヤツはいるもんだな。

俺が言うのもあれだが。


「仕事は何人だ」


「数人で、これは秘密裏に。境界の森"を抜けて国境付近で子供を渡していただきたい」


「……わかった、引き受ける」


一緒に仕事する相手は1人だけ、しかも女だった。


「うふふ、よろしくお願いしますね。頼りがいがありそうな方で安心しましたわ」


ずいぶん妖艶な金髪の美女。

仕事が終わっていれば、口説き落としたんだがな。

ただ……顔半分だけ、仮面で隠していた。

片側は笑みを浮かべるが、もう片方は無機質で……そこだけは何故だか不気味に思えた。


子供なんて脅せばすぐ言うこと聞きやがる。

仕事を与えるという口実で隠れ家に子供を集めた。


「私たち、どこに連れていかれるんですか」

「うるせえ!お前らは黙ってついてくればいいんだよ!」


そういってガンっとそこらへんの椅子を蹴飛ばせば子供らは怯えていた。

中には反抗的な目付きをしてたのもいたけどな。


名無しのみすぼらしい子供。

俺は色んな品物を扱ってきた。少しだがエルフの古代文字が読める。

子供が持っていた古くさいネックレスに名前が刻んであった。その名前で呼んでやったら大層喜んでたな。


――あざやかな赤毛。どこぞの誰かを彷彿とさせる色は、内心焦りを滲ませた。俺は、早く仕事を終わらせたかった。


"境界の森"には手引きがあって、すんなり通り抜けた。

想像以上に簡単だった。

予想と違っていたのは、想定より人数が多かったこと。

あと、亜人の子供ばかりだったのは、ちょっと気にはなったが。


まあ、あの子供らがどうなろうと関係なかったし、大金貰って今頃は酒色に溺れ遊んでたはずだ。


そう思っていた――

今、俺は地面に叩きつけられ後ろ手に拘束されて後悔していた。


「フェルノートから子供を拐かした容疑で詳細を聞かせて貰おうか」


俺は町の自警団に囲まれ、引き摺られて無理矢理歩かされる。


「俺は仕事をしただけだ」

「黙っていろ!」


この後は、詰問されて牢獄か強制労働か。

やっぱり"胡散臭いやつ"からの仕事は受けるんじゃないな。

こんな仕事を教えてくれた先人の言葉を噛み締め、俯きながら無言で歩いた。


◇ ◇ ◇


子供達を拐かしたと思われる男が町で見つかったと連絡があったので、ケルヴィスはシアを連れて行くことにした。


「じゃあ、姉さん。町まで行ってる間に何かあったら連絡してくれ」

「分かったわ、気をつけていってらっしゃい」


ケルヴィスはセレネにお願いしたあと、荷馬車の荷台に乗り込んだ。


「すまないが、町までよろしく頼む」

「あいよ。荷台だから、乗り心地悪いのは勘弁してくれよお」


ちょうど砦に生活用品を卸してくれる人が来てたので、町まで帰るついでに乗せてもらうことになった。


――10分後――


「うう、ちょっと気持ち悪いかも」


シアは荷台の上で横になってた。


「シア、乗り物に弱かったんだな。これを枕代わりにしておけ」

「……弱いとか……そういう問題じゃ……うっ」


(絶対少し悪いって乗り心地じゃない)


ケルヴィスの上着を枕代わりに借りているが、酔いが収まるわけではない。


「お嬢ちゃん。慣れない乗り物でごめんなあ」

御者席から人の良さそうな顔の老人が申し訳なさそうに言う。


「いえ……こちらこそ、ご迷惑かけてすみません……」


「ほほ、そこの白い頭のお兄さんな。最初の頃は乗る度に真っ青通り越して白い顔で乗ってたなあ」

「おいゴダ爺さん!俺はそもそも銀髪だし……って、昔の事をシアにばらすなっていう……」


思いがけず自分の事を話されてケルヴィスは耳まで赤くして目を逸らした。


「まったく!……それにしても、シアはちょっときつそうだな。寝かせてやろうか?」


ケルヴィスが魔法で寝かせる事を提案してきた。


「……ケルヴィスさんも、これに慣れたなら、私だって慣れるはず……」


吐き気が襲ってくる。

しかし、シアははっきりと提案を断った。


「……この先も、荷馬車に乗らないわけには……いかないですから、魔法はいりません」

「わはは、兄さん、お嬢ちゃんに1本とられたなあ」


ケルヴィスは唸っている。


「お嬢ちゃん、偉いぞ!慣れる事も経験だ。これも、修行だなあ」


ゴダ爺さんは豪快に笑い飛ばして、シアを褒めてくれた。

そしてケルヴィスに向かって。


「兄さん、過保護もほどほどにしないと、愛想つかされるぞ」

と、注意していた。


「うっ……分かってるさ」


砦での自分の行動を思い返したのか、ケルヴィスは苦いものを飲み込んだかのような顔をしていた。


シアはその後も目を瞑り、吐き気を必死に我慢していた。


(修行よ……修行……)


そう自分に言い聞かせていると、少し楽になってくる。しばらくそのままの状態で無心になっていると、ようやくトルトスという町が見えた。



 ◇ ◇ ◇


町に着いて、ゴダ爺さんに礼を言った。


「ほっほ、兄さん、過保護もほどほどにな」


ケルヴィスはもう一度念を押された。


「……爺さん気づいてたのか」


(地精霊ノームで、馬車の周りの土だけ均してたのがバレてたか)


「何年わしが馬車を操っとると思ってるんだ?」

「食えない爺さんだな」


ケルヴィスが苦い顔をしている横で、シアが丁寧にお礼を告げる。

そして別れたところでケルヴィスはシアに聞いた。


「酔いは落ち着いたか?」

「大丈夫です」

「それなら安心した。シア、ここが"境界の森"に一番近い町だ、覚えているか?」

「はい、ここで仕事をしないかと声をかけられました」


シアに確認をとり、次の場所に移動する。


「そうか、じゃあちょっと付き合ってほしい場所があるんだ」


ケルヴィスはシアの手を引こうとした。


「……子供扱いしないでほしいです。さすがにもう人攫いに騙されないです」


(……シアのやつ、すごく嫌そうな顔だな)


「はは……悪かった。つい、な」


シアは少し拗ねたような表情で頬を膨らませる。

ケルヴィスはばつが悪くなって、慌てて手を引っ込めた。


「そういえば子供扱いはやめてと言っていたな。また怒られるところだった」


「セレネ姉さまに告げ口しますよ」


(……シアはだんだん、セレネ姉さんみたいに強くなるんじゃないだろうな?心配だ)


そんなやり取りをして間もなく、町にある自警団の建物に着いた。

ケルヴィスは入り口にいる団員を1人掴まえて話しかける。


「"境界の森"砦所属のケルヴィスだ。ここに子供を拉致していた奴が収監されたと聞いたんだが」


「あ、はい!ケルヴィス様、お疲れ様です。確かに居ますが、少し様子がおかしくて……」


警備隊の男が口ごもり、チラッとシアを見た。


「この子は、……関係者だ。拐ったやつか確認してもらおうと、思ったんだが」


ケルヴィスは口ごもる警備隊を見てシアに視線を送る。


(子供には刺激が強いか?)


「シア、犯人の特徴を覚えているか?」

「覚えているのは……1人は短くて茶色い髪に、鼻の頭に大きな黒子がある男の人。」


ここでシアは一息ついた後、もう1人の特徴を話した。


「もう1人は肌が白く、金の髪でしたが性別は分かりません。ただ、この人は、顔を思いだそうとしてもはっきりしなくて……」


シアの言葉を聞き、警備隊の男に視線を投げる。


「牢の中にいるのは、茶色い髪の男です」


「そうか、じゃあ行こうか。シアはここで待っていてほしい」

「……いいえ、私もちゃんと確認したいです」


シアは、絶対自分が行く、と主張した。


「……仕方ない、被害者本人が確認するのが一番確実だ。案内してくれ」


(止めても聞かないだろうな)


ケルヴィスは牢獄にシアを連れていく事にした。



◇ ◇ ◇


牢は地下にある。薄暗くじめじめとしており、囚人たちが時々怒鳴ったり、呻き声をあげたりしている。


ケルヴィスがシアが心配になり振り返る。表情が緊張で強張っているようだ。階段をゆっくり慎重に下りている。


「シア、足元に気を付けろ。今度は子供じゃなくても、恐ければ手を繋ぐところだけど……どうする?」


ケルヴィスは、少しおどけたように声をかけてみた。


「……手、お借りします」


渋々ながらも、ケルヴィスの手をそっと掴んだ。


(やはり、牢獄の囚人を見るのは怖いんだろうな)


シアの手をしっかり掴んでゆっくり先導した。


「手前から三番目です」


案内の看守が教えてくれる。

シアはケルヴィスの後ろに隠れながら恐る恐る近づいていった。


牢の中では鼻に黒子がある茶色い髪の男が、壁に向かって1人でぶつぶつ話しかけている。


「おい!こっちを見ろ」


牢の看守が中に入り男を扉の方に引っ張ってくる。


「おれは………あへへへ……金髪の女があ……え、ああ……誰にも言わない……言わないから!!やめろ、来るなあ!!」


虚空を見上げ口元を歪め涎を滴しながら嗤っている。時折何かを抱き締めるような仕草をしたかと思うと、壁にガンガンと額を打ち付け血が滲む。今度は恐怖にひきつった顔になり叫び始めた。

何かを振り払うように牢獄の中で暴れ回っている。



◇ ◇ ◇


シアは恐怖で身動きが出来ない。

ケルヴィスは牢獄を見つめるシアの視線を自分の背でそっと遮った。


「ずっとこんな様子で、尋問も出来ないんですよ」


看守が説明する。

シアは後ろからケルヴィスの服をぎゅっと掴んできた。


「……この人です。仕事があるって、私たちを連れていった人」


ケルヴィスはシアの手を安心させるようにポンポンと叩いて言った。


「じゃあコイツが拉致の手引き役だな。被害者の証言があれば十分だろう」


(拉致の状況をシアに確認し、詳細を纏めたものを上に出せばいい。シアが拘束される必要はないだろう)


そうケルヴィスは考えた。


「ただ、どういう経緯かについては調査しないといけないな。コイツの身辺を知ってるやつを調べられるか?」


「人員をそちらに回しています。こいつはちょっとしたごろつきなんで、知ってるやつは何人も居ると思います」


(仕事が早いな、なかなか優秀だ)


「じゃあ頼んだ」


看守の肩をぽんと叩いた。


「お任せください、ケルヴィス様!」


地下をあとにして階段を上る途中で看守が興奮しながら話しだした。


「いやあ、それにしても、かの有名なケルヴィス様にお会いできるとは!」


シアは首を傾げている。


「ケルヴィスさんって有名なんですか?」

「お嬢さん、知らないのか?この国を内乱から救った英雄とも言えるのさ」


「そうなんですね、どんな活躍を……」


シアは地下牢から離れた事で安心したのか、看守の話しを聞き始めた。そこへケルヴィスが割って入る。


(まずい!シアの耳には入らないようにしないと)


「……俺は、人より少しだけ国のために戦ってきただけだ。俺の他にも"英雄"とやらはいるだろう」


ケルヴィスは眉間に皺を寄せ、看守をギロリと睨みながら口を挟む。

そして看守を傍に呼び、シアに見えない位置で胸ぐらを掴んだ。


「あの娘に余計な事を言ったら許さないからな」


と圧をかけた。


「ひいい、……これが有名なケルヴィス様の殺気……」


震えながらも表情が嬉しそうだった。

ケルヴィスは看守を離し、シアに向かって言った。


「シア、さっきの話しは気にしなくていい」

「気になりますけど。ケルヴィスさんがそう言うなら……聞かなかった事にします」

「ああ、悪い。そうしてほしい」


ケルヴィスはため息をつき、そうお願いした。

シアは不思議しそうな顔をしていたが、あっさり引き下がった。

その後ケルヴィスが小さく呟く。


「シアみたいな、純粋な子には聞かせたくないんだよな……」


(あの時は色々と、俺が馬鹿をして周りに迷惑かけたから。……シアも家族の一員になる。俺が少しだけ覚悟を決めたら、きっと話してやるから)


ケルヴィスは後悔の滲んだ表情をしていたが、幸いな事にシアには見られなかった。



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